みちのくの山野草

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終戦直後以降の賢治利用

2023-02-09 16:00:00 | 賢治渉猟
《コマクサ》(2019年6月26日撮影、岩手)

 前回私は最後に
 しかも、戦意高揚に利用価値や効果が頗る大であることに気づいた谷川は戦後、戦争協力したことを反省するどころか逆に、今度はいわば「青少年善導教育」のために賢治を大いに利用したのではなかろうか、という疑念を私は最近抱きつつある。
と述べたが、それはどうやらそれほど間違ってはいなかったようだ。
 というのは、このことに関して調べてようと思っていたならば、茅野 政徳氏の「戦後小学校国語検定教科書における宮沢賢治の伝記教材の変遷」という論文が見つかり、同論文中で次のようなことなどが論じられていたからだ。

 まず、賢治伝記教材の一覧表が載っていてその一部は下掲のとおりだ。
   

 そして茅野氏は、同論文中の「4.聖人・賢人としての賢治」という項において、
 昭和20~30年代に掲載された伝記教材3編(1・4・8)を分析すると、聖人・賢人・善意の人としての賢治像が強調されていることがわかる。
と述べていた。たしかに、このことは上掲の表における執筆者名を見て私も肯えた。それは多く登場するのは、谷川徹三とその谷川に師事した古谷綱武のほぼ二人だからである。しかも、まず谷川は、以前〝谷川徹三の「今日の心がまえ」(昭和19年9月)(最高の詩)〟や〝谷川徹三「今日の心がまえ」(昭和19年9月)(賢者の文学)〟で投稿したように、「この詩(投稿者註:「雨ニモマケズ」のこと)を私は、明治以来の日本人の作った凡ゆる詩の中で、最高の詩であると思っています」とか「宮沢賢治の文学が賢者の文学としての性格を顕著に持っておる」と褒めちぎっていたからである。そして一方の古谷は、〝『宮澤賢治研究4』(宮澤賢治友の会)〟でも少し触れたように、「教育上で用ひられてゐる「全人」といふ言葉こそ彼(投稿者註:宮澤賢治のこと)にふさはしく、彼こそは實現して實在した全人である」というように、これまた最上級の褒め方をしている(なお、拙著『本当の賢治と本当の露』の第一章で実証したように、賢治は「雨ニモマケズ」で詠まれているような事柄はほぼ何一つ実践していないし、不羈奔放であったとは言えても、全人と褒められるような完璧な人間であったとはとても言い難い)。
 さらに、茅野氏は「4-2 学校図書「宮沢賢治」」という項において、この教科書の賢治の取り扱い方について、次のように論を展開していた。
 「ただの詩人ではありませんでした。」と、詩人以外の面を打ち出すことを読者に知らせる。その上で、「実行の人」という側面を提出し、聖人・賢人としての賢治像を描く。…投稿者略…「賢治の死を、ブドリの死にたとえることはできないでしょうか」と、賢治の生き方を「ブドリ」と重ね合わせるのが執筆者である谷川の賢治観であり、その後長らく影響を残す。作家としての賢治よりも聖人としての賢治を描くため、「かれの創作が、美しいばかりでなく、何か特別に人のこころを動かすものをもっているのも、かれの生活態度がその作品に現れているからです。」や、「なくなる2ー3日前のようすは、賢治のひとがらを、もっともよくもの語っております。」として、訪ねてきた農民に「一つ一つ指導してや」る姿を描き、後半は「ねてもさめても、農民たちのことを考えていた、賢治の精神を表す童話」として「グスコーブドリの伝記」を載せる。…投稿者略…
 そこで私は、先の投稿〝谷川徹三「今日の心がまえ」(昭和19年9月)(「前夜の面談」)〟において、私は「谷川には「健全な批判精神」がどうやらこの場合は欠けていたのではなかろうか」という不安を述べたが、その不安がまたまた蘇ってくる。どうも、谷川は証言の裏付けを自身では取ることもなく、そのままそれを事実と思い込んで決めつけたり、また賢治作品に詠まれたり書かれたりしていることも、裏付けを取ることもなく一方的に事実であると決めつけていることが懸念されるからである。つまり、「谷川は事実確認をしていたとは言い切れない」箇所が散見されるのである。
 また茅野氏は、「4-2 学校図書「宮沢賢治」」という項での最後に、
 詩人、作家としての賢治の業績や価値は二の次であり、聖人としての賢治像を子どもに与えようとしているのである。
と断じているのだが、私もそのことを憂える。それは、賢治自身のことを教えるのではなくて、どちらかというと執筆者自身の賢治観を教えることになり、主客が転倒するからである。

 いずれにせよ、この論文を通じて、終戦直後以降 は「青少年善導教育」のために賢治がまたぞろ大いに利用されたということはほぼ間違いないと私は確信できた。そしてその目的達成のために、賢治はどんどん聖人化されていったのだということも。

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