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『戦史』 トゥキディデス著

2023年08月16日 | 読書雑感
大きな判断をはばむ大敵が2つある。すなわち、性急と怒気だ。性急は無思慮に陥りやすく、怒気は無教養の伴侶であり狭隘な判断を招く。また誰であれ、理論をもって行動の先導者たらしめることに頑迷に異論を唱える者は、暗愚か偏見か、そのいずれかのそしりを免れない。なぜ暗愚かと言えば、見通しの定かならぬ未来の帰趨を言葉以外の方法によって説明できると考えるからである。また、なぜ偏見かと言えば、醜怪な説を通さんと欲しながら、己の弁明の術をつくせば、反論者を脅迫し反論に耳を傾けるものを脅迫できると考えるからである。
だが、何よりも始末におえぬ手合いは、反論者は買収されて巧みな説を売っていると相手を頭から非難する人間ども。なぜなら、相手の認識不足を指弾するにとどまれば、論戦に敗れたものも知性に劣りを見せたかと思われるであろうが、己の徳性は傷つけられずに議論の場をを去ることができる。だが、いったん不正なりとの中傷を被った論者は、よし説をと教えても世人の疑惑を免れがたく、もし説が敗れれば知徳ともに劣るものと言われよう。これによって損をするのは我らの国、人は中傷を恐れ、衆議を集めることができなくなるからだ。
(中略)しかしながら、きわめて重大な問題について、しかもかくのごとき条件を覚悟で提案者の立場に立つ我々は、諸君の近視眼的視野よりはるかなる展望のもとに論を進めているのだ、と考えてもらいたい。のみならず、我々は己のなす提案について後刻責任を問われうる立場から、なんの責任も問われない聴衆という立場にある諸君に話しかけねばならないのだ。
(巻三 ディオドトス)

諸君は常々話を眼で眺め、事実を耳で聞くと言う悪癖を培ってきた。口達者な連中が、かくかくの事件がやがて生じうると言えば、その通りかと思ってそれに目を奪われる。だが事が起こった後になっても、事実を己の目で見ても信じようとせず、器用な解説者の言葉にたよっ耳から信じようとする。そして、奇矯な論理でだぶらかされやすいことにかけては、諸君は全く得難いカモだ。とにかく一般の常識には従いたがらない。なんでも耳新しい説であればすぐその奴隷になる。だが尋常な通念にはまず軽蔑の念をいだく。しかして誰もかも、雄弁家たらんことを熱望しているば、それも現実には叶わぬ夢とあっては、われがちに名聴衆たらんと狂奔する。雄弁家のむこうを張って、ただ考えるだけなら弁者の公人を拝するものかとばかりに、弁者が鋭い点を突けばその言い終わるを待たず拍手喝采し、言われる前から先に先に冊子を付けようと夢中になるが、提案から生じうる結果を余談することにかけては遅鈍そのものである。(中略)要するに、諸君は一国の存亡を議する人間というよりも、弁論術師を取り巻いている観衆のごとき態度で美辞麗句にたわいもなく心を奪われているのだ。(巻三 クレオン)

注:古代ギリシャの民族
移動の第一波として前20世紀頃、アカイア人がバルカン半島に南下し、のちにミケーネ文明を成立させた。移動の第二波として前12世紀頃ドーリア人が南下し、ミケーネ文明の滅亡とあいまって、ギリシア各地に人々は移動・定住した。定住後のギリシア人は、方言によって、東方方言群(イオニア系・アイオリス系)と、西方方言群(ドーリア系)に分類される



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