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『ギリシャ人の物語』 塩野七生著

2023年08月15日 | 読書雑感
ペリクレスの「説得力」が効力を発揮できた最大の要因は、それを聴くアテネの市民たちに、支店を変えれば事態もこうように見えて来る、と示したところにあった。(中略)自信があれば人間は平静な心で判断を下せるのである。反対に、不安になしその現状に怒りを持つようになると、下す判断も極端に揺れ動くように変わる。いまだ自信にあふれる市民たちを相手にすることはできたペリクレスが、民主制の国アテネで30年もの間「ただ一人」でありえた要因は、別の視点を示し、その有効性を解くだけではなかったと思う。彼の演説の進め方にもあったのではないか。(中略}視点を変えてにしろ現状を明確に見せた上で、ただしこの政策への可否を決めるのは、あくまでもきみたちだ、と明言する。ペリクレスの演説を聴く人は、最期には常に将来への希望を抱いて聴き終わる、という点である。誘い導くという意味の「誘導」という日本語くらい、ペリクレスの論法を表現するにふさわしい言葉もないのではないかと思う。

「アテネでは、貧しさ自体は恥とはみなされない。だが、貧しさから抜け出そうと努力しないことは恥と見なされる」{ペリクレスの演説の一部}

民主制のリーダー:民衆(デモス)に自信を持たせることができる人
衆愚制のリーダー:民衆(デモス)が心の奥底に持っている漠とした将来への不安を煽るのが実の巧みな人
前者は、プラス面に光を当てながらリードしていくタイプだが、後者となるとマイナス面を暴き出すことで不安を煽るタイプのリーダーとなる。


ギリシャ人が後世のわれわれに遺した最高の贈り物は「中庸」の大切さを指南してくれたことにあると思っているが、「中庸」とは簡単に言ってしまえば左右いずれにもかたよらないところに着地点を見出す心構えにすぎない。日本語の「良識」は適切な訳語だと思う。

知識人の存在理由の一つは、すでに存在していた現象の中でも重要と見たことを、原語を使って概念化することにある。ゆえに、論理と現実が両立できるとは限らない、とは、アリストテレスの生まれない前からすでに人間世界の真実であったのだ。

論理的には正しくても人間世界では正しいとは限らない、とは、アリストテレスの言である。

アリストテレスが弟子たちに教えたのも、基本的には次の3つに集約されていただろう。
第一に、先人たちが何を考え、どのように行動したかを学ぶ。これは歴史であり、縦軸の情報になる。
第二は反対に横軸の情報で、言うなれば日々もたらされる情報。学ぶべきことは、これらの情報に対しては偏見なく冷静に受け止める姿勢の確立。
最後は第一と第二に基づいて、自分の頭で考え自分の意志で冷徹に判断した上で実行に持っていく能力の向上。


他者より自分のほうが優れていると思ってはならない、とソクラテスは教えた。しかし、そう思ってこそ、できることもあるのだ。他者より秀でていると自負するからこそ、他者たちをリードしていく気概を持てるのである。組織や国家という名の共同体を率いていく想いを持つのも自負心による。無知を知ることは、重要きわまりない心の持ちようであるのは確かだ。だが、「羊」である思う人ばかりでは誰が羊の群れを率いていくのか。

アルキビアデスの言葉を現代風に解釈すれば、30半ばのリーダーは市民たちに、発想の転換、視点の変更、それゆえの逆転の発想の必要性を説いたのである。つまり、未解決の問題にかかわり続けているよりも、他の問題を解決することによって未解決の問題の解決に持っていく、という考え方であった。

悲劇は人間の気高さを描くが、風刺喜劇では人間の劣悪さが笑いとばされる。

あらゆる理念。概念を創造したギリシャ人だが、「平和」という理念だけは創り出せなかったのだ。ギリシャ人にとっての戦争をしていない状態は束の間の休戦にすぎなかった。
古代の見本のように思われている民主政治を生んだギリシャは、実は内輪どうしの内ゲバを繰り返していたことが真実であったのだ、ということがこの本を読んでよく理解できた。華々しいペルシャ戦役と民主主義誕生という出来事だけに目を奪われずに、歴史を紐解いていくことの重要性が再確認できた。







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