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「超」入門 失敗の本質

2012-05-16 22:16:27 | Book Reviews
『「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23のジレンマ 鈴木博毅・著、ダイヤモンド社、2012年4月5日

p.40 これらを戦略の差と考えると、大局的な戦略とは「目標達成につながる勝利」と「つながらない勝利」を選別し、「目標達成につながる勝利」を選ぶことだといえます。

p.52 勝利につながる「指標」をいかに選ぶかが戦略である。性能面や価格で一時的に勝利しても、より有利な指標が現れれば最終的な勝利にはつながらない。

p.59 「体験的学習」で一時的に勝利しても、成功要因を把握できないと、長期的には必ず敗北する。指標を理解していない勝利は継続できない。

p.62 戦略が追いかける指標であると理解せず、体験的学習による勝利の結果を戦略であると勘違いしている企業は、自社が売上を増加させた理由を「ヒット商品が出たから」等、極めて曖昧な形で「誤解」してしまうことが頻繁に起こります。
 「戦略となる指標」を取り出すことをせず、「体験そのものを再現」することに執着すると、目の前の勝利と同じ型を追いかけることにつながります。

p.63 時代が変わり、体験的学習が追いつかない形で戦略(有効な指標)が切り替わっていく今、戦略の意味が理解できずに日本企業は閉塞感ばかりを感じているのではないでしょうか。

p.69 体験的学習や偶然による指標発見は、いずれ新しい指標(戦略)に敗れる。勝利体験の再現をするだけでなく、さらに有効な指標を見つけることが大切。競合と同じ指標を追いかけても、いずれ敗北する。

p.79 従来から積み重ねた方法の精度ではなく、完全に異なる構造でゲームの勝敗がついてしまう新たな戦闘方法への移行です。

p.82 ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズのような経営者が、なぜ日本で生まれないのか。その理由はゲームのルール自体を変えるような破壊的な発想ではなく、型の習熟と改善を基本とする日本的思考と関係しているのかもしれません。

p.85 (米軍では)自由と柔軟性を最大限発揮できる環境で、戦局を決定する最新兵器が次々生まれたのです。一方の日本軍は、権威によって現場や優れた技術者を抑圧し、トップの考えたことが正しいという主張を繰り返して自由を認めませんでした。

p.106 イノベーションを創造する三ステップ
 ステップ1 戦場の勝敗を支配している「既存の指標」を発見する
 ステップ2 敵が使いこなしている指標を「無効化」する
 ステップ3 支配的だった指標を凌駕する「新たな指標」で戦う

p.113 高い技術力を誇る日本の家電メーカーが苦戦を続けるのは、消費者の指標を変化させるイノベーションではなく、単に技術上の高性能を追求しており、効果を失っている指標を追いかけているからだと推測されます。

p.114 イノベーションとは、支配的な指標を差し替えられる「新しい指標」で戦うことである。同じ指標を追いかけるだけではいつか敗北する。

p.123 イノベーションをつくり出すには、現時点で支配的に浸透している「指標」をまず見抜く必要があります。体験的な学習が陥りがちな、成功体験の単なるコピーではなく、対象の中に隠れて存在する「戦略としての指標」を発見する思考法に慣れるべきなのです。

p.125 あらゆる成功の起点は「勝利するために必要な指標」を見抜く眼力だと言えます。

p.129 サイズであれば、小さくなることがイノベーションではなく、「購入する動機を変化させる(判断の指標が変わる)」サイズを実現することがイノベーションです。ソニー創業者である盛田氏がトランジスタラジオの「ポケッタブル(ポケットに入る大きさ)」にこだわった理由は、まさにイノベーション創造の三ステップを理解していたからでしょう。

p.135 (日本人経営者の企業の多くが)現時点で不振にあえいでいる様子を見ると、過去の経営者の成功体験を「単なる形式」としてだけ伝承し、当時なぜ成功を収めることができたか、という「勝利の本質」がまったく組織内に伝承されていないことが、急失速の原因なのではないでしょうか。

p.136 乗り越えられない問題は、実は視点の固定化が生み出しているかもしれないのです。日本軍が戦局の転換で大混乱に陥り、正しい戦略策定をほとんどすることなく、やみくもに「同じ行動」を繰り返して敗北する様子は「本質を失った」型の伝承を想起させます。本来戦場の中で新たに発生する戦略(新指標)や、敵軍側の攻勢に内在する指標としての戦略を見抜き、検討する能力がなければ変化を乗り越えることは不可能です。

p.141 「僕らがお払い箱になって、取締役会がまったく新しいCEOを連れてきたら、そいつは何をするだろう?」
 この質問を経営陣自らが発したことで、インテルは「DRAM撤退」という正しい答えをやっと導き出すことができたのです。

p.142-3 特定の業務、技術的スキルに関しては「型の伝承」は必要不可欠でしょう。しかし、「型の伝承」と「勝利の本質」は明確に区分されて、ともに綱得られなければいけないのです。そうしなければ、今ある姿を維持することが組織全体の正義となり、おかしなことに勝利を追求するための議論と変化さえ、ほぼ全員で強固に否定する歪んだ集団になりかねないのです。
 戦略を「以前の成功体験をコピー・拡大生産すること」であると誤認すれば、環境変化に対応できない精神状態に陥る。「型のみを伝承」することで、本来必要な勝利への変化を全否定する歪んだ集団になってしまう。常に「勝利の本質」を問い続けられる集団を目指すべき。

p.145-6 (レーダー兵器の開発を阻む)「予想外の大きな壁」とは何だったのでしょうか? 日本軍部・軍人のレーダー平気に対する「理解のなさ」と「徹底的な軽視」です。海軍軍人たちは、自分たちの知らなかった技術・兵器であるレーダーの重要性を、ほとんど理解することがなかったようです。

p.149-150 技術的イノベーション自体は、個人の研究者・科学者が行うことができても、成果に育てられるかどうかは、組織内に浸透する意識構造に非常なまでに左右されてしまいます。組織全体に対して「勝利の本質」ではなく、「単なる型」を伝承している場合、型を伝承している側(大多数)は、同じ組織内で新戦略やイノベーションを発見した人物(少数派)を排除しようとする意識を持つことになります。なぜなら、まさに自分たちが信じてきたことを覆すネガティブな存在の出現になるからです。

p.164 現場最前線での戦闘、そして組織内の隠れた優秀者を引き上げることで生まれる新しい発想。米軍の組織運営の基本は「新戦略を生み出す場」としての組織構成、人事を徹底追及することにあり、最前線を歩いた優秀な人間を本部に戻すことも、その一環です。
 一方の日本軍は、戦地から遠く離れた大本営の中で「新たな戦略」が生み出されると勘違いしており、組織内で権威が常に「新たな意見と指摘」を押し潰してしまいます。

p.170-1 「無謀・無能でも勇壮で大言壮語し、やる気を見せるなら罪に問わない」というメッセージを関係者全員に発信するなら、組織内に無責任な失敗者が続出するのは当然です。
 やるきさえ見せていれば、責任は問われないんだなというメッセージが現場に影響して、保身と無責任が蔓延していく組織が出来あがる。

p.176 厳しい課題に直面したら、「お飾り人事」を徹底排除し、課題と配置人材の最適化を図ること。能力のない人物を社内の要職に放置すれば、競合企業を有利にさせる以外の効能はない。

p.185 組織の階層を伝ってトップに届く情報は、フィルタリングされ担当者の恣意的な脚色、都合のいい部分などが強調されていることが多い。問題意識の強さから、優れたアンテナを持つトップは、激戦地(利益の最前線)を常に自らの目と耳で確認すべき。

p.186-7 『失敗の本質』から推測できる、チャンスを潰す人物の特徴を三つ挙げてみましょう。
 1 自分が信じがたいことを補強してくれる事実だけを見る。
 2 他人の能力を信じず、理解する姿勢がない。
 3 階級の上下を超えて、他者の視点を活用することを知らない。

 このような重大な人的な問題は、勝利を逃すだけではなく、避けることができたはずの大敗北を生み出すなど、たびたび日米戦闘の勝敗を分けることになっていきます。

p.187 自己の権威や自尊心、プライドを守るために、目の前の事実や採用すべきアイデア、優れた意見を無視してしまうリーダー。このような人物は、最終的には自ら組織全体を失敗へ導いているのです。

p.189-190 リーダーが認識できる限界を組織の限界としたことで、悲惨な敗北が生まれたのです。日本軍内にも、日本人科学者の中にもさまざまな悠揚な指摘、貴重な改善案を進言する者がいました。しかし「上から下へ」という日本軍の一方通行型のリーダーシップは、硬直的かつ権威的な思考から抜け出せず、組織に内在していた優れた才能やチャンスをほとんど活かすことなく敗北を重ねていったのです。失敗するリーダーに共通するのは、周囲の意見や目の前の現実を否定し、自己の意見や思い込みに固執しすぎてしまうことです。

p.192 愚かなリーダーは「自分が確認できる限界」を、組織の限界にしてしまう。逆に卓越したリーダーは、組織全体が持っている可能性を無限に引き出し活用する。

p.195 コスト削減を最優先したため、従業員の給料は哀れなほど安く、商品は目もあてられないほどお粗末になった。これでは成功への道が開けるはずはない。まさに骨身を削り、死ぬほど頑張っても、成功のカギを発見できなかった理由はここにある。

p.197 「社員が努力しないから、頑張らないから成果が出ない」と大変厳しいことを言う経営者、リーダーの方が時々いますが、その経営者の方が社員に押しつけている「勝利の条件」が本当に正しいものであるか、大いに疑問を持つところです。混乱と成功のなさを生み出しているのは、実は経営者自身が社員全員に押し付けている「間違った勝利の条件」こそが理由かもしれないのですから。

p.215 議論の「影響比率」を締め出させるな、と書きましたが、本来その問題が正しいか間違っているか判断すべき基準として、影響する比率が1%にも満たないことを取り上げて、問題自体を一方的に決めつけてしまう空気の醸成は、断固見破らなければならないのです。

p.216 体験的学習の文化の中で生きる私たち日本人は、その習慣を刺激する形で「一点の正論」を突破されると、問題全体の正誤を著しく間違った方向へ誘導されてしまうのです。
 「醸成された空気」の危険性を見抜けず、日本人が合理的な議論を放棄して盲信してしまった事実は、大いに反省すべき点です。これからの日本と日本人は、「空気の欺瞞」」を打ち破らなければならないことを肝に銘じるべきです。

p.218 方向転換を妨げる四つの要素
 1 多くの犠牲を払ったプロジェクトほど撤退が難しい。
 2 「未解決の心理的苦しさ」から安易に逃げている。
 3 建設的な議論を封じる誤った人事評価制度。
 4 「こうであってほしい」という幻想を共有する恐ろしさ。

p.222 同様に「異論」「疑問」を差し挟む人物を左遷や降格させるなら、誤りが明白な案でさえ、反対を表明させない組織的な圧力を増幅させることになります。米軍上層部は実践で優れた成果を出した者を昇進させて勝ち、日本軍上層部は上司と組織の意向を汲んだ者のみをつけたことで負けたのです。

p.222-3 集団の和を特に尊重する文化である日本は、手段の空気や関係性を重視するあまり、安全性や採算性よりも、関係者への個人的配慮を優先し、グループ・シンクの罠に陥るケースが多いようです。

p.225 「不都合な情報を封殺しても、問題自体が消えるわけではない」
 この指摘は正常な心理であればごく当たり前の道理です。ところが特定の状況はあなたに「事実を無視する、もみ消す強い誘惑」を生み出すのです。

p.225 グループ・シンクや埋没費用について理解する限り、影響下にある人物や集団は「結論ありき」の議論をする傾向があるとわかります。「最良の結果」を目指した議論ではなく、すでに存在する結論を守ることが目標になっているのです。

p.230-1 幸運にも「リスクをかわすことができた」場合、対策のコストや労力もかからないことかで「リスク隠し」は得をしたのでしょうか? 残念ながら違います。プロジェクトが脆弱であることに一切変わりがありません。むしろ「リスク隠し」のままリスクを偶然かわせたことは、次回以降のリスク発現性を逆に高めてしまいます。
 一回目の作戦において、偶然日本軍空母が攻撃をよけることができたとして(リスクをかわした)、次回以降の出撃でも空母の脆弱性は同じです。次も当然、敵弾を避けられると考えれば、日本軍空母が撃沈される可能性はむしろ高まります。 #RM

p.234 衛生管理がされていない状態でありながら、食中毒が起こっていないというのは、単純に「リスクをかわしている」だけであり、リスクの対策を取っていることとはまったく異なります。 #RM

p.236 愚かなリーダーや意志決定権者の中には、「耳に痛い情報」「都合の悪い可能性」を警告する人物を遠ざけるという、極めて危険なことを行ってしまうケースがあります。これらの人物は、サーカスで綱渡りのロープ下に、安全用セーフティネットを張らない「言い訳を正当化するため」に、必要な安全策を進言した人物を左遷したりします。
 最終的に、このようなリーダーの周囲には「都合のいいこと」「ごますりやお世辞」しか口にしない人物のみが残り、正しい警告をする人物は去っていくでしょう。


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