邦画ブラボー

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「阿部一族」

2006年09月19日 | ★ぐっとくる時代劇
映画だと思っていたら
テレビドラマだったと知って
こんな濃いドラマがあったのかとびっくりした。

森鴎外の原作にほぼ忠実な内容だが
映像の強みを最大限に生かして見せ場を作り、
観客を引っ張っていくのは深作監督ならではの仕事だ。
テンポもよく、配役も申し分無い傑作

物語は徳川三代将軍家光の頃、
肥後の国(熊本)
殿様が病死した後、
18人もの殉死者が出た城下では
殉死差し止めのおふれが出される。

瀕死の殿様に殉死を禁ぜられた阿部弥一右衛門(山崎努)は
切腹のタイミングを逃し
臆病者よと影口をたたかれ、日に日に焦ってくる。

ある日5人の息子と妻、
孫など家族一同を集め、「いよいよ今日やる」
「後はよろしく。兄弟仲良く絶対離れぬように」と
あっさり切腹してしまう。

この切腹が
とんでもない悲劇を引き起こしてしまうとは!!

森鴎外は
乃木将軍の殉死を聞いて
この小説を書き始めたそうだ。

殉死を巡っての侍の意地がテーマだが、
真田広之と佐藤浩市の友情と「義」、
死にいそぐ討手の大将、
杉本哲太の心情、
原作には記されていない、
侍の妻として生きる女たちの悲しみも描いて、
とても見ごたえがあった。

蟹江敬三(長男・権兵衛役)は
無残な役がどうしてこう似合うのだろうか?

私は女なので(本当です念のため)
男の意地」というのがよくわからない。

世間体、見栄も同時に加味されているように思える。
それはこの時代、
この作品の登場人物においては
何者にも代えがたい大事だったのだろうか。

千百石をいただいていた名家もぶっ潰すんですから、すごい。

武家としての阿部家を貫いた結果、
絶望的な戦いに突き進んでいくことになったのだろうか。
それも命がけで奉公してきた
主君に背いて・・である。

絶対的な忠義と武士としての意地。
矛盾したテーマをはらんだ作品である。

いたいけな子供たちまで道連れ、
手にかけざるを得ない女たちの
苦しみは想像を絶する。

子供らを見つめる嫁(藤真利子)が
刃を手にして極限の精神状態を表現したかと
思えば、
それまで武士の妻らしく端然としていた姑(渡辺美佐子)が、
数珠を引きちぎって一瞬激しい感情を噴出させる場面も秀逸だった。

弥一右衛門の遺言どおり
「兄弟仲良く」は守って、
阿部一族は華々しく滅亡してしまうのだが、
男はそれでいいかもしれんが女はどうなる・・と
憤懣やるかたない気持ちになった。

だが
深作監督はそういうやからへの対応も
きっちり押さえた描写を用意している。

討伐シーンは
深作欣司ですから推して知るべしの大迫力

佐藤浩市と真田広之の間も、
「情は情、義は義たい!」と
クールにつっぱねるところは最近の時代劇と異なり
大変苦味が利いている。

最後に戦闘の労をねぎらわれた真田が
「阿部一族を討ち取るなど、
茶の子も茶の子、朝茶の子でござる」と言い
殿様がむっとする部分もひねりがあった。

武士の生き方、美学についても
考えてしまった。

ナレーションは中村吉右衛門
そうそう、
石橋蓮司が白塗りしていたら「赤信号」!
クセのある役が実に上手い。

時代劇好きの方は
レンタル屋の隅にあったら見てみてください。
とても面白いです。

原作:森鴎外 
深作欣司監督 脚本:古田求

出演:山崎努/佐藤浩市/蟹江敬三/真田広之/
石橋蓮司/藤真利子/渡辺美佐子/杉本哲太/中村吉右衛門(語り)

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