穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

田中英光、愛と青春と生活

2013-04-10 07:49:40 | 書評
前回書いた田中の短編集のタイトルは「桜、愛と青春と生活」というのだが、桜の他に支那事変の従軍体験が反映されていると思われる短編が三つと、タイトルにもなっている「愛と青春と生活」という中編が収められている。

短編三つはまあいいが、「愛と青春と生活」はぐっと落ちる。もっとも、田中英光の作品としてはこちらの方が言及されることは多いようだ。

彼は少し長いのを書くとだれるのかな。それとも、彼が言っているように書き散らかしているうちに質が落ちるのか。この作品は彼が京城(ソウル)に新入商社員として勤務していた体験がもとになっている。従来からの私小説的な臭みのある作品だ。つまり安下宿の黒く汚れ、ささくれた古畳を思い起こさせる私小説の定番に近い。

というわけで、西村賢太ご推奨の藤沢修造を連想させるところもある。

まだ、最後まで読んでいないが、我慢して読み通せるかな。