久しくご無沙汰ですが再読物の感想です。今は岩波文庫の小沼文彦訳の「二重人格」だけのようですが、昔もこの人の訳で読んだかどうか。米川正夫だったような気もする。初読ではややこしい小説で読みにくいな、というくらいの印象しか残っていません。
改めて読んだきっかけは英訳のダブルを読んで大分印象が違うし、面白い小説だと思ったので、改めて日本語訳をパラパラと見た。この訳は結構平易です。平易と言うのは翻訳の十分条件でもなし、必要条件でもありません。いや、必要条件かな。出版社あたりからマーケティングの関係でとにかく、筋が通るように訳す様に現在では圧力がかかるのかもしれない。原文では意図的に筋が通らないように書いているのに、なんだがパック化粧みたいにつるつるにして出す恐れ無きにしもあらず。
それで翻訳が駄目になってしまうことがある。筋が通らない、ジャンプする、跳ねるということで意味が違ってくる。そこを部屋のリフォームではないがコーティングしてしまってシームレスにしては御仕舞になる。もっとも極端な例が詩でしょうが、小説でもある。
ちょっと、タイトルについて、二重人格と言うのは不適切でしょう。日本の翻訳小説の歴史で分身と訳されたこともあるようだが、このほうがベターです。しかし、今回読んだ英訳のダブルのほうがさらに適切でしょう。生き写しというニュアンスで。
「二重人格」というのは近年の解釈でこの主人公が流行の「統合失調症」だとしたり顔に批評する人が増えた影響かもしれません。つづく
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