だけど、よく聞いてみるとプラトンとは目的が違うのよね、と彼女は口を開いた。
「哲人指導者を養成するなんて考えは星ダコにはないのよ。要は人口と、何ていうのかな、彼の言い草によれば経済の予定調和ね」と戸惑わせるようなことを言った。
「なんです、それは」
「結構あなたの商売にも示唆を与えるような理由なんだ」
「・・・・」
「経済というのは需要と供給の問題でしょう。これは私の専門と言うよりか、あなたの分野だろうけど。需要と供給は煎じ詰めると人口の規模の問題だそうよ。経済学の常識らしいけど、そうなの」
「まあね、とくに需要はそうだ。ちょっと大雑把すぎる要約だけどね」
「そして供給と言うのも結局人口の関数らしい」
「へえ、ちょっと理解できない。もっとも労働者の数は生産量に関係はする。それと技術というか、技術水準も影響する」
「どういうこと」
「生産技術が発達すれば同じ労働者数でも産出量は増加するでしょう」
「あ、そうか。生産性と言うことね」
「人口と需要の関係もそう単純ではない。人口動態も大きな影響がある」
「人口動態って」
「人口構成というかな、よくピラミット型とかズンドウ型とかいうでしょう」
「ああ、あれね、ピラミッドというのは若年層が多くて壮年が少なくなって老年層が薄いというやつね。一番経済の潜在成長力があると言われているあれでしょう」
「そう、アメリカなんかもプロパーな人口ではズンドウ型に近づいているけど、不法移民が膨大な若年層を供給するから成長力のはずみは失っていないですよ」
「ズンドウ型というのは腹だけ出ていて貧弱な下肢と貧弱な頭みたいな構成だったかしら」
「そう、これは問題がある、経済的にはね。さらに逆ピラミッド型というのがある。頭が膨大に膨らんで、胴体と下肢が弱弱しい」
「そういう国はどうなるの」
「ご臨終に近いね」
「ところでね、人為的にというか、政策的に一番操作しやすいのは生産面つまり供給面らしいのね。変動も比較的穏やかで」
「それは言えるね」
「ところが需要面と言うか、煎じ詰めると人口のコントロールが一番難しい。むしろ不可能に近いというのよね。そこで世界的に各地で需要と供給のアンバランスがおこる。それも破壊的なアンバランスがね」
案外まともな考えだと殿下は考えた。マルサスの人口論だな。18世紀の、だが決して古くない。供給は、マルサスの説では農業生産だが、よく行っても生産量は斬新的にしか伸びない。それに対して人口は倍々で伸びるから深刻なアンバランスが生じる。しかも計画的に人口を抑制するのは難しい。
「それじゃ、なんですか。人口を計画的にコントロールしてアンバランスが生じて経済が破綻しないようにすることですか」
「そういうことに帰着するようね」
そうか、平時には供給面の推移を予測して人口をむしろ抑制的にする。そして何らかの理由で人口が激減する可能性がある場合は人口を人為的に増加させるということか。そうすると、彼が三十一世紀で見たのは核戦争で人類が滅亡する可能性があるので一挙に人間を『増産』しようとすることになる。なるほどね、と初めて彼は腑に落ちた思いであった。