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言の葉

2008.11.28 開設
2022.07.01 移設
sonnet wrote.

2020金秋戦観戦記 2

2020年11月18日 | 俳句

炎帝戦同様に夏井先生の解説、添削も記しておこう。

1位 痙攣の 吾子の吐物に 林檎の香 
【作者自解】 子どもが熱性痙攣になり、頭が真っ白になって抱いていると肩に嘔吐した。
すると食べた林檎の香りがして、我に返ったその時の句。
【解 説】前半で状況が分かり、思いがけない展開になっている。
「林檎」が秋の季語。食べ物全般の季語は美味しく詠むというのが基本であるが、この生々しいリアリティ、林檎の存在感は抜き差しならない状況のもの。従ってそれを指摘する人には「無季の句と思ってもらっていい」と言い切っても構わない。
食欲のない子にすり下ろしてあげたのかと想像させる親心。吐物から香ってくるのにも切なさがある。
【私 感】体験を詠むことで、リアリティーとオリジナリティを一挙に手に入れることができるという見本のような句。

2位 流星のターミナル 三分で蕎麦
【作者自解】次の電車・バスまでに少し時間があり、お腹が空いていたので立ち食い蕎麦に入った時の句。
【解 説】「流星」が季語。「流星のターミナル」がいいフレーズ。
長距離の夜行バス、列車、フェリー乗り場、はたまた「銀河鉄道の夜」を想起する読者もいるかもしれない。
ロマンチックで終わってしまうとズボズボとロマンチックの沼に入ってしまう。
作者はこれまでそうした句があったが、今回そうせず実感、慌ただしさに持っていった所に成長が見られる。
【私 感】 解説に同感。美辞麗句を並べるのではなく、俗なエピソードに着地して感心。

3位 火恋し 形見の竜頭 巻く深夜
【作者自解】兄が亡くなり、かつてプレゼントした腕時計が形見として戻ってきた。
止まると思い出が消えそうで、夜更けに竜頭を巻いて動かしているという句。
【解 説】 きっちりしたいい句。
「火恋し」が季語。秋が深まってくると朝晩冷えてきて身近に火が欲しくなる。
時計と言わず「形見の竜頭」としたのも上手い。
「深夜」の時間帯もよく、亡くなった方の時間を動かし続けたいという思いが伝わる。
【私 感】「直しなしでどうして3位だ!?」と怒鳴っていたが、確かにいい句。
今回上位3句は僅差だろう。

4位 震源の時計台 無音の夜長
【作者自解】北海道で地震があった時、行ったことのあるあの時計台はどうなったのだろうと思った。
その時の思いを詠んだ。
【解 説】「震源の時計台」という表記では、震源のど真ん中と読まれてしまう。
  添削 時計台の無音 震源地の夜長
この語順で季語の「夜長」を印象深く立てることができる。 
【私 感】 語順を変えるだけで格段に良くなる見本のよう!

5位 谷崎のエロス 潤目鰯(うるめいわし)の骨
【作者自解】 谷崎文学賞の副賞が時計で、発想を飛ばしてみた。
谷崎の作品は官能的で、ウルメイワシをつまみに飲みながら読んでいると、イワシの骨までもが官能的に思えてくる。
潤一郎の「潤」と「潤目」をかけるという遊びも入れた。
【解 説】五七五の定型を崩した破調の句。
鰯が秋の季語なので「鰯の骨」だけでいいと思ったが、作者が「潤目」を活かしたいのなら、「潤目の骨」だけでも通じる。 
  添削 谷崎のエロス 潤目の骨○○○
鰯を削った3音分で、「エロス」と釣り合うような「骨」の描写が欲しい。
【私 感】 添削は作者の思いを尊重した上で手直しすること。改作になってはいけないと以前の解説にあった。
○○○は作者に委ねられた。

6位 月光の ひとつぶ受信 電波時計
【作者自解】 電波時計は自動で誤差を修正するが、月の光のパワーを借りて修正するのだったら素敵だなと思った。
【解 説】 月光を「ひとつぶ」と表現したのが詩的でいい。
それを電波時計が受け止めるという発想も瑞々しい。
しかし「受信」と説明せず、読者に思わせてこその十段。
  添削  月光のひとつぶ 電波時計○○○
○○○に「ひとつぶ」の感触、秒針が揺れる様子をオノマトペで表現すれば1位の可能性もあった。
【私 感】 5位と同様、オノマトペは作者の宿題となった。

7位 弁慶が 時計している 村芝居
【作者自解】 時代物なのに、弁慶役が腕時計をして舞台に出てきて、「ヨッ! 時計屋!」と声がかかるような場面をイメージした。
【解 説】「村芝居」が秋の季語。徘徊味のある場面を切り取っていて面白い。
しかしこの叙述では、弁慶が時計している脚本・演出だと読まれる可能性が残ってしまう。
  添削 弁慶は 時計したまま 村芝居
弁慶「は」として何人もいる演者の中で特定し、「したまま」でうっかりしていたとわかるダメ押しをすれば誤読されない。
【私 感】 作句後、客観的に読んでみて意図通りの叙述になっているか確認しなければ。

8位 秋てふや 夢の途中に 時計鳴る
【作者自解】実態のないものを追いかけている夢を見て、その途中でアラームが鳴り目が覚めるということがよくある。
その体験を詠んだ。 
【解 説】詩心は十分あるが、着地が「時計鳴る」でただのオチになってしまっている。
夢うつつの中で微かにアラームが聴こえるようにすると、上五中七が俄然活きてくる。
  添削 秋てふや 夢の途中を 鳴る時計
「に」はその時間のワンポイントになるが、「を」にすることによって経過していく時間の中で、夢うつつに聴こえているのを表現できる。
【私 感】助詞は奥が深い。意味、機能を改めて学ぶ必要がある。

9位 婚破れ 振子響くや 夜半の秋
【作者自解】結婚が破れ、いつもは振子の音など気にもせずスヤスヤ眠れたのに、振子の音が部屋に響いているという句。 
【解 説】問題点は時間が長すぎること。
上五の「婚破れ」で、読者はこれまでのいきさつを思い浮かべ、「振子響く」にも時間の流れがあり、「夜半」も時間である。
時間軸を短くしなければいけない。「や」の詠嘆も強すぎ。
  添削  振子音響く 婚破れし秋夜 
【私 感】語順を変えるだけで、確かに長い時間軸がグッと短縮されている。

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トップの画像は先日知人より送っていただいた林檎2種。
2人では食べきれず、お裾分けで息子に送った。
マメにメールはしているが、もう半年以上会っていない。