min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

垣根涼介著『人生教習所』

2012-07-08 20:51:43 | 「カ行」の作家
垣根涼介著『人生教習所』中央公論新社 2011.9.30 第1刷 
1,700円+tax

おススメ度:★★★★☆

元日本経団連会長である鷲尾総一郎が私財を投じているのでは、と思われる「人生再生セミナー」。毎年小笠原諸島の父島と母島で2週間開かれる。
セミナーの真の目的は不明であるが、けっして妖しいものではないらしい。このセミナーを受講した生徒のその後の成長変化を鷲尾がみて楽しむのではないか?といった憶測もある。
しかし、協力団体には日本経団連、東京商工会議所、大坂商工会議所などが名を連ね、受講後の就職斡旋があるとも予測された。
受講内容は統計学、生物学、社会学、生理薬理心理学、認知心理学、言語心理学、及び関連科目に伴うフィールドワーク、とあり、募集人員は20~30名で応募資格は年齢学歴不問となっている。
こんな新聞広告を見て一体どんな人物が応募するとうのであろうか?本編に登場する4人の人物造形が興味深い。

浅川太郎・・・東大生。入学後すぐに授業に興味が持てず引きこもりとなる。現在休学中。過保護で育ったのが一目瞭然のいかにも草食系男子然としている。

柏木真一・・・母親が駆け落ちしいたたまれなくなって田舎を飛び出したのが15歳の時。なるべくしてなったヤクザ家業であったが、シノギに疲れ組を無断で逃走。ブラジルに約1年逃げていたがほとぼりが冷めた情報を得て帰国。現在無職の38歳。見てくれも言葉使いもいかにもヤクザ然としている。

森川由香・・・小中といじめに会い、そのせいで甘いものばかり激食いした高校生活。結果かなりのデブ女となったが青学に入学し卒業。現在フリーランスのライターをしているが仕事量は年々減るばかり。デブであることばかりではない理由で人間関係を築くのが極めて不得手な30歳の独身女。

竹崎貞徳・・・大手オートバイメーカーの生産部門畑を定年まで勤め、定年間際まで7年勤めたコロンビアに定年後再び渡って3年を過ごしたという64歳。
人懐こい中にも謎の部分を持つ初老の男。

この4人が微妙・絶妙に関わりながら二週間にわたる研修が行われる様が描かれる。最初の3日間で適正試験が行われるのであるが、その設問(講義を受けてその感想文を書く、講義の内容に伴う三択問題)が面白い。ここで受講続ける価値がないと判断された生徒は早速船で本土に帰されるわけだ。

ところで作中、地元講師による「講義」を通して小笠原の歴史的、社会的考察が延々と繰り広げられるのであるが、垣根さんは何故にここまで小笠原に固執するのだろう?という素朴な疑問を抱くほど説明が続く。
ま、戦後返還された沖縄あたりとはかなり違った状況であることは理解出来るが。

「人間観察」という括りでは「君たちに明日はない」シリーズと同種のニオイはするものの、敢えて著者の“新境地開拓”というほどの作品になるとは思えない。やはりノワール系の作品を望む気持ちが強い、私的には。