石田衣良著『非正規レジスタンス』&『ドラゴン・ティアーズ』文春文庫 2010.9.10,2011.9.10 第1刷
おススメ度:★★★☆☆
『Gボーイズ冬戦争』以来の久々のIWGPシリーズを立て続けに2作読んだ。
同シリーズは始まって既に10年以上経っているのだが、主人公マコトこと間島誠は未だに20代半ばで、相変わらず生家の果物店で店番をしている。
今やすっかり池袋の街では有名なトラブルシューターとして名を馳せたマコトのもとには種々の“相談事”が持ち込まれるようになった。
シリーズ第8作の『非正規レジスタンス』と第9作の『ドラゴン・ティアーズ』で共通して語られる世界は、現代日本の「格差社会」についてである。
派遣業者から不定期的に送り込まれるいわゆる非正規の労働者は別名“ワーキング・プアー”と呼ばれる。働いても働いてもその生活レベルの向上は期待出来ないし、社会保障制度下の恩恵には与かれない現代社会の最底辺に置かれた労働者である。
著者は彼らを作品の中で、「まるで透明人間のように扱われる」と表現している。社会の中では実在するのだがその存在を注視しようとしない人々が大半である、ということらしい。
さて二編の作品ではそんな格差社会の狭間に埋もれる“透明人間”を更に食い物にしようという企業、黒社会の実態について語られ、更に同じ境遇にあるはずのワーキング・プアーがその仲間を食う、というまるで“地獄絵図”描かれる。
『非正規レジスタンス』に登場する悪質な派遣業者は破綻した「グッド・ウィル」を連想させる。この止まることを知らない“派遣労働”を蔓延させたオペラ好きの前首相って分る?確かにアイツはこの泥沼のような格差社会を作った首班のひとりではある気がする。
『ドラゴン・ティアーズ』においてはこの格差社会の拡大が日本だけに留まらず隣国の中国では更に悲惨な様相を呈していることが語られる。
そこから何とか逃れようとして来日した中国人若者たちは、日本政府の“研修生制度”という法制度の下で日本企業から合法的?に酷使され、更に在日中国系黒社会及び背後の日本の暴力団の餌食にされる者も出てくる。
筆者石田衣良氏は同じくワーキング・プアーの立派な?一員であるマコトの視点を通じて、現代に拡大される格差社会の実態を照射し問題点を抉り出す。
しかしその小さな“世直し”を行うマコト自身がGボーイズという街の不良グループの頭目タカシや池袋のメジャーな暴力団の幹部となった同級生サルの手を借りるわけで、そこにマコト自身というか著者の自己矛盾が露呈されていることに気がつかない。
とまれ石田衣良氏はマコトという一見“リベラルな自由人”という狂言回しを使って現代世相の“語りべ”として自身を位置づけようとしているかに見えるのだが、そろそろその欺瞞性が鼻についてきた。
ま、暇つぶしに読み流すには手頃な作品かも知れない。
おススメ度:★★★☆☆
『Gボーイズ冬戦争』以来の久々のIWGPシリーズを立て続けに2作読んだ。
同シリーズは始まって既に10年以上経っているのだが、主人公マコトこと間島誠は未だに20代半ばで、相変わらず生家の果物店で店番をしている。
今やすっかり池袋の街では有名なトラブルシューターとして名を馳せたマコトのもとには種々の“相談事”が持ち込まれるようになった。
シリーズ第8作の『非正規レジスタンス』と第9作の『ドラゴン・ティアーズ』で共通して語られる世界は、現代日本の「格差社会」についてである。
派遣業者から不定期的に送り込まれるいわゆる非正規の労働者は別名“ワーキング・プアー”と呼ばれる。働いても働いてもその生活レベルの向上は期待出来ないし、社会保障制度下の恩恵には与かれない現代社会の最底辺に置かれた労働者である。
著者は彼らを作品の中で、「まるで透明人間のように扱われる」と表現している。社会の中では実在するのだがその存在を注視しようとしない人々が大半である、ということらしい。
さて二編の作品ではそんな格差社会の狭間に埋もれる“透明人間”を更に食い物にしようという企業、黒社会の実態について語られ、更に同じ境遇にあるはずのワーキング・プアーがその仲間を食う、というまるで“地獄絵図”描かれる。
『非正規レジスタンス』に登場する悪質な派遣業者は破綻した「グッド・ウィル」を連想させる。この止まることを知らない“派遣労働”を蔓延させたオペラ好きの前首相って分る?確かにアイツはこの泥沼のような格差社会を作った首班のひとりではある気がする。
『ドラゴン・ティアーズ』においてはこの格差社会の拡大が日本だけに留まらず隣国の中国では更に悲惨な様相を呈していることが語られる。
そこから何とか逃れようとして来日した中国人若者たちは、日本政府の“研修生制度”という法制度の下で日本企業から合法的?に酷使され、更に在日中国系黒社会及び背後の日本の暴力団の餌食にされる者も出てくる。
筆者石田衣良氏は同じくワーキング・プアーの立派な?一員であるマコトの視点を通じて、現代に拡大される格差社会の実態を照射し問題点を抉り出す。
しかしその小さな“世直し”を行うマコト自身がGボーイズという街の不良グループの頭目タカシや池袋のメジャーな暴力団の幹部となった同級生サルの手を借りるわけで、そこにマコト自身というか著者の自己矛盾が露呈されていることに気がつかない。
とまれ石田衣良氏はマコトという一見“リベラルな自由人”という狂言回しを使って現代世相の“語りべ”として自身を位置づけようとしているかに見えるのだが、そろそろその欺瞞性が鼻についてきた。
ま、暇つぶしに読み流すには手頃な作品かも知れない。