min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

高野和明著『ジェノサイド』

2011-11-01 21:11:18 | 「タ行」の作家
高野和明著『ジェノサイド』角川書店 2011.3.30 第1刷 1,800円+tax

おススメ度:★★★★★

高野和明という作家は『13階段』、『クレイブデッカー』などの著作で存在は知ってはいたが本作でお初の作家さんである。
いや、びっくりした。こんなスゴイ作品を書く作家とは!ジェノサイド、日本語では「大量殺戮」ということで、当初はオドロオドロしい世界を描くのではないか、またウィルス云々という内容で始まったので「これはまた気乗りしないなぁ」と思ったのが良い意味で予想が外れた。

「人類絶滅の可能性。アフリカに新種の生物出現」という一報が米国大統領の手元に入ったこことから、大統領は速めに厄災の芽を摘むことに決め、政府内に特別チームを編成。
アフリカのコンゴの東の森に潜む感染者並びに新種の生物らしきものを抹殺するために4人の傭兵が集められた。
一方、日本で地味な薬学を専攻する大学院生古賀研人の元に動脈瘤破裂により急逝した父親から奇妙な伝言を受け取った。
父子にしか判らない附表で手に入れたのは5百万円が入った預金通帳と起動しないA5のパソコンで、更に町田市内に借りられたアパートの一室であった。
室内には40匹のマウスが飼われ種々の試験器具が揃っていた。
父の遺言はある難病に関する治療薬の創薬を父の代わりに完成させることであった。

多少ネタバレになるのを許していただくが、現地に潜入し抹殺しようとした対象は新種のウィルスに感染した者たちの抹殺ではなく、いわゆる「新人類」の抹殺にあったのだ。
この「新人類」が現世人類に対し敵対した場合、神にも近い存在の圧倒的知力で現生人類を滅ぼす能力を持っているかも知れない。具体的には合衆国のみならず現有国家が使用する暗号を全て解読される恐れがありそれは国家の死を意味するからであった。

この「新人類」(実は3歳の子供)を巡る争奪戦と古賀研人が開発しようとする新薬がどのように絡むのか。
日本、米国、そしてコンゴで展開されるいくつものプロットが重ねられ、全てのジグソーパズルの断片が合わされる時、驚愕の真実が明らかにされる。
本作はサスペンス仕立てのテイストを持った冒険小説であり、作品中に披瀝される世界情勢の分析、なかんずく合衆国における政権・権力構造の分析や人類の成長過程を照射して語られる文明論はなかなか読ませる。
三歳児の赤ん坊のような「新人類」が超能力にも等しい知力でもって大人たちを翻弄する様は、昔々のアニメ「サイボーグ009」に登場する赤ん坊超能力者を思い出して興ざめする方が出るかも知れないが、その返答もちゃんと用意されている。
今年読んだ本の中ではダントツに面白い一作である。