min-minの読書メモ

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司馬遼太郎著『坂の上の雲 三、四、五』

2010-01-10 23:57:54 | 「サ行」の作家
司馬遼太郎著『坂の上の雲 三、四、五』 文春文庫 

オススメ度:★★★★☆

本来、各巻ごとに感想をアップするべきであろうが3巻分纏めて感想を記すことを許されたい。

ロシア帝国に対し宣戦布告するにあたり明治政府は、遼東半島の先端に位置する旅順要塞及び軍港を制することが、すなわち日本の命運を決するものと判断した。
日本帝国海軍並びに陸軍はいよいよ遼東半島まで進出してきたロシア軍と対峙することになるのであるが、私のあいまいな記憶と知識では「日露戦争」というもののイメージは陸でいえば“ニ〇三高地”の攻防戦と“バルチック艦隊との海戦”しか頭に浮かんで来ない。
実際はもちろんこの両決戦に到る過程の戦闘があったわけで三、四、五巻に於いてはそれぞれの道程を事細やかに描かれている。陸海軍共とうてい軍事力ではかなわないはずの帝政ロシア軍に立ち向かうことになる。

明治政府としては先の日清戦争においてそれなりの戦争を経験したものの、今回のロシアとの戦争は“近代戦”というものに対し始めての経験であった。
特に旅順要塞を巡る戦闘においては日本陸軍の大本営も前線の司令官も真の意味で近代戦というものを理解していなかったと言える。
中でも旅順要塞攻撃を担当した乃木大将率いる第三軍は当時の帝国陸軍の無知・頑迷さを最も色濃く露呈したものであった。
乃木希典その人よりも最悪なのは伊地知参謀であった(もしも司馬遼太郎の記述が正しいものであればだが)。いわゆる「バンザイ突撃」の原型がここに見られ、全くの無為無策の作戦で数万人の日本兵が無駄死に近い死に方をしたわけだが、この“ニ〇三高地”で得たはずの教訓が全く生かされることなく再び第二次大戦のガダルカナルあたりでも同じ愚行を繰り返した帝国陸軍というものは世界に冠たる「阿呆な軍隊」と言っても過言ではないだろう。
“ニ0三高地”をめぐる攻防戦を描いたくだりは読んでいてあまりの腹立たしさに頭痛がしたほどだ。
ただしこの当時の救い?は「バンザイ突撃」の形は第二次大戦のそれではあるが、けっして「天皇陛下バンザイ!」を唱えて突撃したわけではなく、あくまでも軍隊の規律の上で司令官の命令に厳粛に従ったようである。
無名の兵士たちの胸中に強くあったのは、今まで「国家」意識など無縁であった人々の国を守る気概であったのだろうか。

帝国海軍の“黄海海戦”のくだりは割愛させていただくが、帝国海軍もまた決して褒められるような戦いをしたわけではなく、ロシア海軍側の作戦の誤謬と単なる運にも支えられ辛くも勝利した程度にすぎない。
もしこの海戦に敗れていれば後にやってくるバルチック艦隊に勝利することは不可能であったに違いない。

さてそのバルチック艦隊であるが、母港のバルト海のリバウ港を出て実に1年以上をかけて大遠征航海をしたわけで、ここで特筆すべきことは日本にとって最も幸いしたのは英国と日英同盟を結んでいたことであろう。
同盟国の英国による様々なバルチック艦隊への妨害行為(特に石炭補給に関する妨害行為)がなければもっと早期に日本海へ到達していたはずで、そうなれば旅順港での太平洋艦隊への対応で釘付けになっていた連合艦隊はろくに整備するヒマはなかった違いない。
歴史に“タラレバ”はないものとされるが、もしも日本という国が将来を見据えて英国との連携をもっと模索していればあの不幸な第二次大戦は全く異なった様相を呈したに違いない。
さて、6巻以降は陸では“奉天会戦”といよいよ“バルチック艦隊”との激突が始まる。

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1 コメント

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Unknown (ディック)
2010-11-06 21:32:10
>同じ愚行を繰り返した帝国陸軍
組織って、一度こうなると壊滅するまでダメなんですかねぇ。
ぼくが勤めていた、吸収合併された銀行も、愚行を繰り返した挙げ句でした。
組織の内部に、突っ走ってしまうセクションが出てくると、止められなくなるんですねぇ。
こうしてみると、min-min さんも感想を1、2巻と、3~5巻で書かれている…。自然そうなりますね。
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