min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

真保裕一著『栄光なき凱旋 上中下』

2015-10-31 14:55:03 | 「サ行」の作家
真保裕一著『栄光なき凱旋 上中下』文春文庫 2009.6.10 各771円+tax

おススメ度:★★★★★

私が小学生低学年であった頃、少年マンガ雑誌で望月三起也氏が描くところの「二世部隊物語 最前線」というのを読んでえらく感動した記憶がある。
その当時この日系二世部隊が実際に存在したことなど思いもよらなかった。ただただカッコイイなぁという思い出だけである。
その後折に触れ第二次世界大戦中に米国に移住していた日系人が先の大戦にやむを得ず参戦したということは断片的に知ることとなった。
その事実を僕の目の前に突き付けてよこしたのが2010年に制作されたドキュメンタリィ映画すずきじゅんいち監督による『442 日系部隊・アメリカ史上最強の陸軍』であった。
この映画では主にハワイ出身の日系人を中心にヨーロッパ戦線における二世部隊の活躍を描いたドキュメンタリー作品である。
442部隊の名を一躍有名にさせたのは「テキサス大隊」の決死の救出作戦であった。彼ら日系人部隊が流した血によって得られた日系人の名誉回復及び地位の向上は戦後の経済的成功ばかりではなく、ハワイ出身の合衆国上院議員ダニエル・K・イノウエ氏の存在を見るまでもなく社会的にも日系人の存在が認められた。
そして本作『栄光なき凱旋』が映画公開を先立つこと1年前に上梓されていたとは知らなかった。真保裕一氏については彼の代表作とも言える「ホワイトアウト」を熱狂的に興奮して読んだ記憶があり、その他「奪取」でも大いに楽しまさせていただいた。
この作品の存在を知ったのは先述の望月三起也氏のインタビュー記事によってである。同氏は病床で本作品を読みふけりながら最終章に近づくにつれページをめくるのがもったいないような感じに陥ったと述べられているがそのお気持ちが良く分かる。
本編はアメリカ本土ロスアンジェルス及びハワイ島出身の日系二世である、ジロー、フランクそしてマットの3人の青年の目線から描いた戦争叙事詩である。
日本軍によるパールハーバーへの奇襲攻撃によって彼ら日系人の運命は急転直下に変貌をとげた。
米本土の日系人社会そしてハワイの日系人社会のおかれた微妙な差異そして気質の違いが混生部隊で出会うことにより鮮明化される。
そして本作品の一番の注目点は南太平洋戦線に派兵された日系米人とりわけ語学兵の活躍を描いた点にある。かって日本の小説でこの日系米軍兵士の視点から太平洋戦争を描いた小説としても価値ある存在となった。
もちろんヨーロッパ戦線へ送られた442部隊の戦闘の模様も描かれる。戦場の破壊の凄まじさ、容赦なき殺戮の様、まるで映画を観ているような臨場感溢れる描写だ。
同じ日本人の血をひく同士が国家という違いによって敵と味方に分かれて戦う悲劇。日系二世たとは日本という国から見捨てられ、裏切られたばかりではなく彼らの今住む国家、アメリカからも裏切られてしまった。この現状を切り開くには自らの血を捧げること以外方法はなかったという。そのせっぱ詰まった思いが我々読者の胸をえぐる。最終章、僕が最も共鳴した主人公のひとりジローの姿を追いながら最後に僕は涙した。そして彼のストイック性と精神の強靭さに感動した。