中村航著『夏休み』集英社文庫 2011.6.30 第1刷
オススメ度: ★★★☆☆
先日、ある飲み会でディックさんにお会いした時彼が所持していた本(仲間内の交換用)で、そのタイトルよりも中村航さんという作家名で躊躇せず頂いた本である。
というのも、彼のデビュー作である『リレキショ』をかって読んだことがあり、内容は鮮明に覚えているわけではないのだが妙に印象に残る作品であったからだ。その時の書評は↓
http://blog.goo.ne.jp/snapshot8823/e/94bd5ee3af26d9b8d22dca82273e37c8
とにかく不思議な感性をお持ちの作家さんで、還暦を越えた自分には今一つ分からない世界を描いているのであるが、それでも何故か惹きつける力を持つ作家さんなのだ。
本作品も分からないといえば更に分からない世界を描いており、主人公マモルがユキと結婚した経緯や同居する彼女の母親との関係、更にユキの親友である舞子さんと彼女の夫、吉田くんが係ってくるに至りますます僕の常識を悩ましてくれる。
いくらゲーム世代の主人公たちとはいえ、離婚の可否をTVゲームで決めようなどとは考えられないのである。
しかし、彼らは不真面目であるのではなく、感性的に真剣に取り込むのである。
タイトルの『夏休み』を見ただけでは学生のそれのように思えるのであるが、実は二組の夫婦にとって人生の岐路に立つほどの意味合いを持つ休みなのであって、男同士ふたりの関係も微笑ましく、「ああ、こんな感性を持った人たちもいるんだろうな現代には」と、何となく受け入れてしまうのはさすが中村航さんの世界観なのかも知れない。
とまれ、血生臭い小説ばかり読むのではなくたまにはこうした小説も息抜きになる良い例である。