min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

熊谷 達也著『ゆうとりあ』

2009-07-07 07:27:15 | 「カ行」の作家
熊谷 達也著『ゆうとりあ』 文藝春秋 2009.3第1刷 1,714円+tax

オススメ度★★★★☆

あなたは定年後どうしますか?
と、定年を迎えた者は尋ねられるまでもなく誰しも考えることだろう。
本作のタイトル「ゆうとりあ」と題名をみただけで、「ああ、ゆとり、とユートピアをかけたのね」と考えるだろう。そう、実際のネーミングはその通りの陳腐なもの。したがって、内容もその名の通り陳腐なのであろう、と思うのはちょっと待て!と言いたい。

確かに主人公やその同期が歩み始める内容は特筆すべきものは何もない。
とりわけ主人公の場合は、なんとか同じ会社でリストラを免れ定年まで勤め上げることが出来た。二人の子供達もそれぞれ独立して家を出て、その家のローンも終えて今は借金もない。そこそこの退職金ももらって蓄えはある。
さて、老後は好きな蕎麦打ちの趣味を生かして蕎麦屋でもやろうか。
など思っているときに妻が聞き込んできた「移住」の先が富山県にある「ゆうとりあ」であった。

読者はここで、この物語の先行きがある程度見えた気がしてくる。そんな展開になりかけるのは確かであるが、そこは作者が熊谷 達也氏であることを忘れてはいけない。
移住者の中に、ほとんどが同年配の年寄り連中なのであるが、若い夫婦者を登場させる。その嫁さんがなんと東北のマタギの娘の設定である。
したがって、富山の里山にある「ゆうとりあ」にクマやらイノシシ、更にサルの群れが登場しても、そんじょそこらの安物小説の顛末とはひと味もふた味も違った展開をみせるのだ。

団塊世代の老後の課題、東京ほかの大都会に住む人々と地方に住む人々との考え方、生活様式の相違、自然(特に野生動物)と人間の共生の問題、等々。
考えさせられる中味はいろいろあるのだが、熊谷達也流のストーリー展開は思わぬかたちの結末を迎える。