min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

今谷明著『信長と天皇』

2009-06-15 08:00:36 | ノンフィクション
今谷明著『信長と天皇』 講談社現代新書1992.4.20第1刷 583円+tax

オススメ度★★☆☆☆

著者は本書の「はじめに」において、【織田信長の最大の敵は、実は正親町(おおぎまち)天皇であった、というのが、本書でわたしが最も強調したい点である】と述べている。
また同じ「はじめに」で立花京子著『風雲信長記』にある一節、
【即ち信長は(中略)全国にまで軍事制圧を達成し得たなら、必ずや何らかの口実を設けて天皇一族を抹殺するか、又は京都から遥か遠方の地に放逐するに違いないと考える。】
を引用し、自らも
【たしかに信長は、できることなら、天皇を抹殺してしまいたい衝動につねにかられていたと思われる】
と述べている。

おおっと、これは過激な線で論拠が展開されるのね、と期待したのであるが、結果としては全然そうはならない。
信長の正親町天皇への対応のいくつかを取り上げ、次のように結論付けようと試みる。
【正親町天皇は信長の要求が将軍任官にあるのを知って、おそらく安堵したであろう。まさに従来の説が言うように、信長が自ら将軍任官を申し出たこと自体『中世そのもの』なのである。譲位強要、神格化いずれも挫折と失敗の結果、信長も足利氏同様、将軍すなわち天皇の侍大将の地位に甘んずるほかない事実を、思い知らされたのである。】と。

なぁ~んだ、つまらない、こんな結論ならばハナから語った威勢の良さは一体何であったの?と問いたい。
果たして信長という男、本当に今谷先生が考えるような凡庸な人物であったのであろうか?。
当時はもちろんのこと、現代においても、信長という人物がおよそ“鬼”そのものの立ち振る舞いを、比叡山及び石山本願寺を頂点とする門徒宗に対して行ったことを、よもや忘れたわけではないでしょうな。
あの僧侶も女、子供も「皆殺し」にして憚らず、神社、仏閣もそして仏像も何もかも躊躇わずに焼き払う所業は、まさに神も仏もなきものと念ずる悪魔の仕業といわずして何というのか。
ある意味、今までの歴史上の覇権を目指す人物において、既成の倫理、道徳、権威、そして宗教などに一切とらわれることのない稀有の人物として伝えられる信長が、「天皇」だけは別物である、「天皇」だけは手にかけるわけにはいかない、と結論付けるにはやや無理があるのではなかろうか。

歴史のタラレバを語っても始まらないであろうが、果たして本能寺の変が起こらず、あのまま信長が本当に天下を取ったとき、信長は天皇に対しどのような扱いをしたのか!?正に興味深いことである。