min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

開高健著「地球はグラスのふちを回る」

2009-06-11 09:16:13 | ノンフィクション
開高健著「地球はグラスのふちを回る」 新潮文庫 2008.2.25第33刷 514円+tax

オススメ度★★★★★

昭和51年から52年にかけて、更に56年頃までにあちこちの雑誌や単行本に載せられたエッセイの中から、世界中の酒場を遍歴した開口大兄が綴る世界の名酒、珍酒そして酒に纏わる小咄を紹介し、ほかに食・釣り・旅のエピソードを語る珠玉のエッセイ集。
思い起こせば、大兄のまともな小説よりはるかに多くのエッセイ集ばかり読んできた思いがするのだが、このエッセイ集はとりわけ傑作であると思う。
本作の題となった「地球はグラスのふちを回る」という言葉がどこから引用されたのか失念したが、語られる内容からいかにもピッタリとした題名ではなかろうか!
大兄は50歳間近に迎え、健康上の理由から思い切り酒を飲めなくなるまでの、それはそれは羨ましいというか素晴らしき世界の酒との邂逅を、絶妙の語り口で我々読者に披露してくれる。
大兄の酒に対する好奇心、愛情、劣情?賞賛、感嘆の数々は読者を圧倒し魅了させて止まない。
酒以外の章で特に印象に残った表現は以下の通り。

「三十歳以降ほぼ二十年になろうとする私のぶらぶら歩きの見聞によると、旅人の初発の一瞥による弁別では、ふつう“先進国”とされている諸国では、人生が家のドアと、窓と、壁の内側で進行しつつある。しかし“途上国”とされている諸国では、“生”の様相のすべてがとまではいわないにしても、おびただしくが、路上でつぶさに目撃できる。苦。労。病。愉。笑。飢。哀。訴。諦。死。生の諸相のほぼ全てが路上でまざまざと目撃できる国である。」

ああ、なんと的を得た表現であろうことか!これは我が経験からしても真実である、と断言できる!

そして、世界中を行き来した大兄が後年やっと行くことがかなった合衆国の首都N.Yについて記した箇所。

「貧と富、汚穢と清潔、営養と飢餓、美徳と悪徳、剛健と浮華、活力と沈殿、古代と現代、極小と極大、いっさいがっさいが、自然なるままの、秩序ある混沌のまま、ひたすら今日を生きることに没我である」

おお、なんと言う感性表現であろうことか!
かくも魅了されるエッセイというのにはなかなか会えるものではない。

大きな声では言えない?が、本当は大兄がNYのアンダーグランドで体験したどピンク・ゾーンのくだりは圧巻である(謎微笑)