min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

箕作り弥平商伝記

2008-03-19 07:38:34 | 時代小説
熊谷達也著『箕作り弥平商伝記』 講談社 2007.07.05

オススメ度 ★★★★☆

「箕作り」とひとめ見て、「ああ、これはサンカについて書かれた物語だな」と思って読み出したところ、主人公弥平は秋田の田舎で箕をつくっている青年で、父もまた箕を作っていた。一のほとんどが箕作りをしており、東北一帯ばかりではなく北海道まで作った箕を売り歩く。
どうもサンカの類ではないようだ。すっかり肩すかしをくらった感じでちょっぴり残念であった。

弥平は親友と二人で群馬県まで販路拡大のため遠出する。本当の目的は嫁いだ姉が出戻ってきた理由を群馬まで行って確かめようというものであった。
弥平と友人は群馬で汽車を降りるなり、人々から邪険に扱われる。野宿をしたというだけで警察に引っ張られ尋問を受ける。どうにもこうにもその理由がわからない。
だがやがて二人が箕を持っていることが問題であったことに気づく。「箕直し」はサンカの象徴であったからだ。当時サンカの一部は関東でもセブリをしながら漂白しており、戸籍を持たないことから時の政府に弾圧を受け、人々からは民同様に差別を受けていた。
そんな中、弥平はひとりの少女を見かける。彼女は目鼻立ちがくっきりとした美貌の少女でふたつの箕を持ち歩いていた。そして尋常でない足裁きとスピードで歩いていく。ここで僕はピンときた!「おお、サンカの登場だ!」
そう、彼女はサンカの娘であった。
弥平は彼女の家族が近くの被差別に隠れるように住んでおり、なぜ彼女が口をきけなくなったのかを彼女の父親から聞いた。彼女に狼藉を加えたチンピラどもと、彼女の一家を差別する理不尽さに義憤をおぼえるのであった。
一度郷里へ戻った弥平であるが、サンカの娘の姿がまぶたに刻まれ消えることがない。とうとうもう一度彼は群馬に向かったのであるが・・・・

生まれついてのビッコの青年が、理不尽な差別に立ち向かう成長譚で読後感は爽やかである。特記すべきは目次のつけかたが一風変わっていて面白いこと。また、蛇足ではあるが本編にも「あの富山の薬売り」が登場し、弥平の力になる。確か名前は沢田喜三郎、かって「邂逅の森」や「氷結の森」に登場したのではなかったか?
【目次】
壱 箕作り弥平は足が悪い。
弐 箕作り弥平は指が太い。
参 箕作り弥平は物怖じしない。
四 箕作り弥平は女に弱い。
伍 箕作り弥平は粘り強い。
六 箕作り弥平は勘がよい。
七 箕作り弥平は涙もろい。
八 箕作り弥平は情が深い。
九 箕作り弥平は知っている。



「サンカ」については三角寛のサンカ小説選集を読むか、あるいは概略については沖浦和光著『幻の漂白民サンカ』を読まれることを勧めます。またサンカが登場する小説としては五木寛之の「戒厳令の夜」と「風の王国」があり、映画では「瀬降り物語」があります。