渡辺裕之著『殲滅地帯 新・傭兵代理店』 祥伝社文庫 2016.9.20第1刷
おススメ度 ★★★★☆
本作品は同シリーズの最新作ではなく一つ手前の作品だ。だが今、日本列島が北朝鮮による弾道ミサイル火星14型が北海道上空を飛翔し大騒ぎになっていることから、何ともタイムリーな内容となっている。というのも今回の敵は北朝鮮そのものであるからだ。
とは言っても金正恩そのものの暗殺とかではなく、金正恩のスイス留学時代から傍にいた腹心の部下である金栄直という男の抹殺であり、彼の武器輸出ルートを潰すことが作戦の目的であった。この男は前述のように金正恩が少年の頃よりの随伴員であり、帰国後もその狡猾な頭脳と図抜けた処世術により現在は朝鮮人民軍偵察総局のナンバー2まで上り詰めた。
現実世界でアメリカとそれに追随する日本を主体に北朝鮮に対し制裁を強めるのであるが一向に効果が上がらない。ミサイル発射や核実験には膨大な費用が発生するわけだが北朝鮮はどの様にしてその資金を得ているのであろうか。我々日本人は北朝鮮の後ろ盾には中国やロシアがいて制裁が実効とならないのだろうと単純に考えがちだが、現実は本書にも記されているように北朝鮮と国交のある国の数は我々の想像を遥かに超える。
今年故金正日の長男金正男がマレーシアの空港で暗殺された事件で、我々はマレーシアが北朝鮮の友好国であると知って驚いた。国連加盟国192か国の内何と166カ国と国交があるという(2016年12月現在)。
特にアフリカ諸国に対しては経済援助は中々出来ない故に軍事援助(兵員の訓練や軍事アドバイザーの派遣)そして武器・兵器の密輸を行っている。アフリカの国連加盟国54カ国のうち国連安保理が決議する北朝鮮への制裁に同意しているのはわずか7カ国に過ぎない。
ある見方では北朝鮮はアフリカ諸国を利用して(経由して)大量破壊兵器の原材料の入手や武器の密輸を行って外貨を稼いでいると思われる。特に今回の舞台となったナミビアに対しては建国時より政府中枢、軍部に取り入り、過去実際に弾薬工場の建設も行っている。
面白いビジネスとしては平城に聳え立つ金日成やその息子金正日の銅像のような巨大仏像を数カ国に建設している。麻薬から武器、ニサイル果ては銅像に至るまで北朝鮮の泥棒国家の商魂は逞しい。
このような事実をメディアはもっともっと流すべきだろう。
それにしても著者渡辺氏の情報収集能力の高さとそこからストーリーを発想する才能には舌を巻く。
結局北朝鮮に対しアメリカや同盟国がいくら経済制裁を実施しても北朝鮮にとっての抜け道はいくらでもあるという事だ。勿論口では話し合いを重んじろと主張する中国とロシアの非協力があってこそ西側制裁は実効力を持たないのは明らかだ。
ところで本件の元々のクライアントが中国の秘密組織レッド・ドラゴンであることから話は一筋縄では進まない。またそれが面白い展開となるのだが。
さて余談であるが、実は本作を読む前に渡辺氏の別シリーズ「シックス・コイン」の第三作「闇の嫡流」を読んだのだがこちらは感想を書く気にもならない。同じ作家による作品とは思えないほどあちらは粗悪に出来ている。この傭兵代理店シリーズが周到な調査、取材そして情報収集を行い、そして巧みなプロット展開で我々を魅了するのだが、同氏の中ではどのようにスイッチが切り替わるのだろう?
おススメ度 ★★★★☆
本作品は同シリーズの最新作ではなく一つ手前の作品だ。だが今、日本列島が北朝鮮による弾道ミサイル火星14型が北海道上空を飛翔し大騒ぎになっていることから、何ともタイムリーな内容となっている。というのも今回の敵は北朝鮮そのものであるからだ。
とは言っても金正恩そのものの暗殺とかではなく、金正恩のスイス留学時代から傍にいた腹心の部下である金栄直という男の抹殺であり、彼の武器輸出ルートを潰すことが作戦の目的であった。この男は前述のように金正恩が少年の頃よりの随伴員であり、帰国後もその狡猾な頭脳と図抜けた処世術により現在は朝鮮人民軍偵察総局のナンバー2まで上り詰めた。
現実世界でアメリカとそれに追随する日本を主体に北朝鮮に対し制裁を強めるのであるが一向に効果が上がらない。ミサイル発射や核実験には膨大な費用が発生するわけだが北朝鮮はどの様にしてその資金を得ているのであろうか。我々日本人は北朝鮮の後ろ盾には中国やロシアがいて制裁が実効とならないのだろうと単純に考えがちだが、現実は本書にも記されているように北朝鮮と国交のある国の数は我々の想像を遥かに超える。
今年故金正日の長男金正男がマレーシアの空港で暗殺された事件で、我々はマレーシアが北朝鮮の友好国であると知って驚いた。国連加盟国192か国の内何と166カ国と国交があるという(2016年12月現在)。
特にアフリカ諸国に対しては経済援助は中々出来ない故に軍事援助(兵員の訓練や軍事アドバイザーの派遣)そして武器・兵器の密輸を行っている。アフリカの国連加盟国54カ国のうち国連安保理が決議する北朝鮮への制裁に同意しているのはわずか7カ国に過ぎない。
ある見方では北朝鮮はアフリカ諸国を利用して(経由して)大量破壊兵器の原材料の入手や武器の密輸を行って外貨を稼いでいると思われる。特に今回の舞台となったナミビアに対しては建国時より政府中枢、軍部に取り入り、過去実際に弾薬工場の建設も行っている。
面白いビジネスとしては平城に聳え立つ金日成やその息子金正日の銅像のような巨大仏像を数カ国に建設している。麻薬から武器、ニサイル果ては銅像に至るまで北朝鮮の泥棒国家の商魂は逞しい。
このような事実をメディアはもっともっと流すべきだろう。
それにしても著者渡辺氏の情報収集能力の高さとそこからストーリーを発想する才能には舌を巻く。
結局北朝鮮に対しアメリカや同盟国がいくら経済制裁を実施しても北朝鮮にとっての抜け道はいくらでもあるという事だ。勿論口では話し合いを重んじろと主張する中国とロシアの非協力があってこそ西側制裁は実効力を持たないのは明らかだ。
ところで本件の元々のクライアントが中国の秘密組織レッド・ドラゴンであることから話は一筋縄では進まない。またそれが面白い展開となるのだが。
さて余談であるが、実は本作を読む前に渡辺氏の別シリーズ「シックス・コイン」の第三作「闇の嫡流」を読んだのだがこちらは感想を書く気にもならない。同じ作家による作品とは思えないほどあちらは粗悪に出来ている。この傭兵代理店シリーズが周到な調査、取材そして情報収集を行い、そして巧みなプロット展開で我々を魅了するのだが、同氏の中ではどのようにスイッチが切り替わるのだろう?