min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

渡辺裕之著『殲滅地帯 新・傭兵代理店』

2017-09-01 19:14:54 | 「ワ行」の作家
渡辺裕之著『殲滅地帯 新・傭兵代理店』 祥伝社文庫 2016.9.20第1刷 
おススメ度 ★★★★☆
本作品は同シリーズの最新作ではなく一つ手前の作品だ。だが今、日本列島が北朝鮮による弾道ミサイル火星14型が北海道上空を飛翔し大騒ぎになっていることから、何ともタイムリーな内容となっている。というのも今回の敵は北朝鮮そのものであるからだ。
とは言っても金正恩そのものの暗殺とかではなく、金正恩のスイス留学時代から傍にいた腹心の部下である金栄直という男の抹殺であり、彼の武器輸出ルートを潰すことが作戦の目的であった。この男は前述のように金正恩が少年の頃よりの随伴員であり、帰国後もその狡猾な頭脳と図抜けた処世術により現在は朝鮮人民軍偵察総局のナンバー2まで上り詰めた。
現実世界でアメリカとそれに追随する日本を主体に北朝鮮に対し制裁を強めるのであるが一向に効果が上がらない。ミサイル発射や核実験には膨大な費用が発生するわけだが北朝鮮はどの様にしてその資金を得ているのであろうか。我々日本人は北朝鮮の後ろ盾には中国やロシアがいて制裁が実効とならないのだろうと単純に考えがちだが、現実は本書にも記されているように北朝鮮と国交のある国の数は我々の想像を遥かに超える。
今年故金正日の長男金正男がマレーシアの空港で暗殺された事件で、我々はマレーシアが北朝鮮の友好国であると知って驚いた。国連加盟国192か国の内何と166カ国と国交があるという(2016年12月現在)。
特にアフリカ諸国に対しては経済援助は中々出来ない故に軍事援助(兵員の訓練や軍事アドバイザーの派遣)そして武器・兵器の密輸を行っている。アフリカの国連加盟国54カ国のうち国連安保理が決議する北朝鮮への制裁に同意しているのはわずか7カ国に過ぎない。
ある見方では北朝鮮はアフリカ諸国を利用して(経由して)大量破壊兵器の原材料の入手や武器の密輸を行って外貨を稼いでいると思われる。特に今回の舞台となったナミビアに対しては建国時より政府中枢、軍部に取り入り、過去実際に弾薬工場の建設も行っている。
面白いビジネスとしては平城に聳え立つ金日成やその息子金正日の銅像のような巨大仏像を数カ国に建設している。麻薬から武器、ニサイル果ては銅像に至るまで北朝鮮の泥棒国家の商魂は逞しい。
このような事実をメディアはもっともっと流すべきだろう。
それにしても著者渡辺氏の情報収集能力の高さとそこからストーリーを発想する才能には舌を巻く。
結局北朝鮮に対しアメリカや同盟国がいくら経済制裁を実施しても北朝鮮にとっての抜け道はいくらでもあるという事だ。勿論口では話し合いを重んじろと主張する中国とロシアの非協力があってこそ西側制裁は実効力を持たないのは明らかだ。
ところで本件の元々のクライアントが中国の秘密組織レッド・ドラゴンであることから話は一筋縄では進まない。またそれが面白い展開となるのだが。
さて余談であるが、実は本作を読む前に渡辺氏の別シリーズ「シックス・コイン」の第三作「闇の嫡流」を読んだのだがこちらは感想を書く気にもならない。同じ作家による作品とは思えないほどあちらは粗悪に出来ている。この傭兵代理店シリーズが周到な調査、取材そして情報収集を行い、そして巧みなプロット展開で我々を魅了するのだが、同氏の中ではどのようにスイッチが切り替わるのだろう?




小川一水著『天冥の標IX PART2──ヒトであるヒトとないヒトと 』

2017-07-19 10:06:11 | 「ア行」の作家
小川一水著『天冥の標IX PART2──ヒトであるヒトとないヒトと 』 ハヤカワ文庫2016.10.20第1刷
 
おススメ度 ★★★★☆

Amazonの本の内容紹介に
「セレス地表で世界の真実を知ったカドムら一行は、再会したアクリラとともにメニー・メニー・シープへの帰還を果たした。そこでは新政府大統領のエランカが、《救世群》との死闘を繰り広げつつ議会を解散、新たな統治の道を探ろうとしていた。いっぽうカドムらと別れ、《救世群》のハニカムで宥和の道を探るイサリにも意外な出会いが――。あまりに儚い方舟のなか、数多のヒトたちの運命が交錯する、シリーズ第9巻完結篇」

とあるが遂に現在までに刊行されたシリーズの最後まで辿りついた。最終巻は来年に刊行予定とのこと。一体どのようにこの長い長い宇宙叙事詩をまとめるのであろうか。この似た思いは同じく超長編のダン・シモンズによる「ハイペリオン・シリーズ」を読んだ時以来だ。著者小川一水氏はどのような結末を我々に提示しようとするのだろうか?
救世群(プラクティス)と非感染者(ジャームレス)との戦いは互いに決して譲り合うことが出来ないまでの死闘を繰り広げてきたが、果たして両者だけで和解の道は開かれるのであろうか!?両者を取巻く種々の勢力の中で宇宙人カンミア以外の正体不明の存在があり、それらがどの様に人類に関与してくるのか全く分からない。
特に最後の数ページで記された存在が全く理解できないのは私だけであろうか?


住野よる著『君の膵臓をたべたい 』

2017-07-07 15:59:44 | 「サ行」の作家
住野よる著『君の膵臓をたべたい 』 双葉文庫2017.4.30第1刷 

おススメ度 ★★☆☆☆

タイトルだけをみると一瞬カルバニズム(食人)のヘンタイ小説かと思えるほどのインパクトのあるタイトルだ。
だが中身はこの半世紀だけでも数えきれない程のテーマ「男女のどちらかが不治の病にかかって、云々」である事が分かる。
ただ双方が純然たる恋愛関係?にはない、というのが他作品と異なる点か。ストーリーについてはあまりにも知られていると思うので割愛するが、読みながらひっかかる部分だけ述べてみたい。
膵臓の病気にかかり医者からは余命一年あるかないか、と宣告された少女。だが膵臓の病気の種類、状態については一切語られない。一年も持たないかもしれない、という状態の中で、彼女が奔放に焼き肉食べ放題を楽しんだり、飲酒までするというのは未成年であることに加え、重病人が取る行動ではない。例えば膵臓ガンにかかった膵臓を食べたいとはさすがに主人公の男の子は思うまい。病状が不明なので最後まで彼女が言う余命一年という信ぴょう性が伴わない。「うわははは」と豪快に笑う17才の女子高生もそうそう居ないであろうし、例え好きでもない女の子とホテルの一室で夜を過ごし、彼女からもある種誘いを受けながらも手も触れない、という男子は存在するであろうか。
実際彼女の死ぬまでにやりたいことリストの一つに「恋人ではない男の子と、やってはいけないことをする」というのがあるのだが、これは余命幾ばくもない乙女というか若い女性の本心ではなかろうか。
もしあの場で主人公の男子がやってしまったらどうなるのか?そんな物語の展開は絶対にない!とう主人公と作者。
この一点だけでもこの主人公は「精神的ひきこもり」状態にある男の子であり、普通の青年とは異なることがわかる。
この子の視点からみると、彼女との関わりが精神的ひきこもり状態から抜け出すことが出来たとも言え、ひとりの風変わりな少年の成長譚となっている。
普段ミステリーとか冒険小説やハードボイルドばかり読んでいる小生には何とも落ち着かない小説である。ま、いま最もトレンディな小説という興味だけで読んだわけであるが、若い人たちには進めた本ではない。そんな暇があれば古今東西の名作と言われるどんな本でもいいからそちらを読んだらいかが?と言いたい。

小川一水著『天冥の標IX PART1──ヒトであるヒトとないヒトと 』

2017-07-04 08:52:18 | 「ア行」の作家
小川一水著『天冥の標IX PART1──ヒトであるヒトとないヒトと 』 ハヤカワ文庫2015.12.25第1刷
 
おススメ度 ★★★★☆

カドム、イサリそしてラゴスらの一行が惑星セラスの地上にあると言われるシェパード号を探す旅に出たのであったが、「倫理兵器」のロボット群に襲われた。そんな中咀嚼者(フェロシアン)が何故300年の眠りに入りそして今目覚め、セレスの地上に出て来たのか、また彼らの行動の真の目的は何か、その驚愕の事実が明らかにされる。
ここ29世紀のセレスには今、ヒトとそうでない者たちの全てが参集する結果となり、メニー・メニー・シーブの歴史が徐々に明らかになっていくのだが、その全ての裏にあの訳の分からない被展開体ダダーの存在があったことが明らかとなる。
一方、救世群の命運を握るのが宇宙人カンミアの存在であり、人類の生末にも大いに関与するのだが、最終的にはダダーとカンミアの対決になるのではないか?
物語は大円団に向かっているようにも思えるのだがまだ先に何があるのか予測できない。Part2の後10巻で完結予定とのことであるが10巻は未刊である。

桜木紫乃著『ホテルローヤル』

2017-06-18 15:33:43 | 「サ行」の作家
桜木紫乃著『ホテルローヤル』文庫 2015.6.30第1刷 

おススメ度 ★★★★☆

本作品は桜木さんの直木賞受賞作である。桜木さんの作品は過去「始終点駅」を読んだ程度であまり馴染みがない。
とはいえ、同郷(北海道)の作家であり親近感は湧くし、特に道東釧路出身の作家さんであり釧路方面を舞台にした作品は興味深い。
この「ホテルローヤル」は釧路湿原のふちに建つラブホテルにまつわる7つの短編からなっている。
「シャッターチャンス」
「本日閉店」
「えっち屋」
「バブルバス」
「せんせぇ」
「星を見ていた」
「ギフト」
以上の7作品だ。内容はホテルローヤルにまつわる人間群像を描いているのだが、時系列的には現代から過去に遡るかたちで描いており、ホテルの利用客、出入りする業者、現在の経営者、そして創業者のそれぞれの立場、事情を織り交ぜて語ることによってその時代の断片(特に北海道東部の最大の都市である釧路の隆盛を誇った時代からバブル崩壊後の衰退の模様)を鋭く切り取って描いていく。
最後の「ギフト」によってこのホテルが建てられた経緯や名前の由来、そして創業者の全貌を明らかにすることによって、その前に語られる物語で不明であった部分が繋がり、全体の作品群に対し読者により深い味わいを与えてくれる。
7作品の中で印象に残るのは「えっち屋」と「星を見ていた」であろうか。
実際この作家がラブホテルの経営者の元に生まれ育ったということで、この家業の裏表の事情を知り抜いた上での描写がありとても興味深いものがあった。最後に、辺境の地に生きる貧しい一般庶民の生きざまに注ぐ作者の暖かい視点が好感持てる作品である。


佐伯 泰英著『声なき蝉-空也十番勝負 青春篇 上・下』

2017-05-27 20:30:01 | 時代小説
佐伯 泰英著『声なき蝉-空也十番勝負 青春篇 上・下』双葉文庫 2017.1.11第1刷 

おススメ度 ★★★☆☆

「居眠り磐音江戸双紙」シリーズが実に51巻という長大な物語となって終えた記憶はまだ新しい。かのシリーズの最終場面で磐音の息子空也が武者修行に出るのを妻おこんと共に見送った時、読者の多くは必ず息子空也を主人公とする物語がきっとはじまるであろうことを予感したと思う。
そして本書が上梓され、タイトルに空也十番勝負とあることから、少なくとも10話のシリーズとなると思われる。
さて、空也が武者修行として最初に選んだのが南国薩摩であった。かの地で薩摩示現流の太刀を学びたいという事であったが、薩摩は江戸時代最も他国者、特に江戸幕府の隠密の潜入を拒んだ藩として知られる。果たして何の回状も持たない空也が無事薩摩藩に入ることが出来るか否かが最初の大問題であった。
著者佐伯 泰英はここに「外城衆徒」なる闇の国境監視集団を登場させ、空也の入国を徹底的に阻止しようとする。上巻はほぼこの外城衆徒との暗闘に費やされ、空也は毒矢を浴びながら滝つぼへ真っ逆さまに落下して終える。この滝壺へ落ちて命が助かったものはなくその骸すら上がらないと言われる所であるが、空也が死ぬわけがない。死んだら下巻は無いわけだから。
もう一つ特筆すべきは空也が薩摩藩に入るにあたって自らの口を閉ざしたことである。つまり聾唖者のふりをした訳だ。この設定は中々考えた設定であると思う。下手に口を開けばたちどころにその出自がばれるからだ。本書のタイトル「声なき蝉」とはまさに空也自身のことであった。
とにかくそんな聾唖者を装った若き修行者は口はきけないが、その人となりと行動で多くの支援者を得る。最大の支援者を薩摩の地で得られたのが本書のキモであろう。物語の詳細は省くが、僕が最も本書を読んで嬉しかったのは我が愛する霧子が出て来たことだ。消息を絶った空也が心配で心配で亭主にも黙って空也が無事薩摩入りを果たしたかどうかだけでも確認したいと彼の足跡を辿る霧子。
霧子の胸中を想うと、なんとも切なくなる。霧子の人生はこれだけでも一遍の小説と成り得るほど数奇な運命を背負ったおなごである。
ともかく、磐音の息子は偉大な剣客である父を超えることが出来るか!?というのが本シリーズの最大のテーマかも知れない。
著者も齢70代の後半を迎え、何時まで健筆でいられるか分からないが、渾身の力を込めて書き進めていただきたい。

ドン・ウィンズロウ著『ザ・カルテル 上・下』

2017-05-18 13:05:11 | 「タ行」の作家
ドン・ウィンズロウ著『ザ・カルテル 上・下』角川文庫 2016.4.25第1刷 

おススメ度 ★★★★☆+α

メキシコにおける1975年からの30年間にわたる「麻薬との戦争」を描いた「犬の力」の続編である。
シナロア・カルテルの巨頭のひとりアダン・バレーラの逮捕、収監によってメキシコ国内の麻薬戦争はいったん小康状態になったとみられたのだが、そのアダンが脱獄し、旧来の宿敵であるDEA(米国麻薬取締局の捜査官)アート・ケラーの首に莫大な賞金をかけたのであった。
そのころアートはDEAからも身を隠し、米南部の教会の養蜂家としてひっそりと暮らしていた。
が、ある日彼の前に現れたのはDEAの幹部ティム・テイラーであった。アートは半ば強制的にAFI(メキシコの連邦捜査局)へ派遣され、再びナルコ(麻薬カルテル)と対峙することとなった。
メキシコの「麻薬との戦争」はその勢力争いにおいて以前にも増して激烈化し暴力と贈賄の度合いは目を覆うばかりになっていた。
バレーラの捜索は遅々として進まない中、カルテルの中でもオチョアとZ-40が率いる「セータ隊」の勢力が急速に伸びて来た。
彼らは圧倒的な武力をもって他カルテルを潰し、警察や軍の一部をも支配下においた。今やメキシコの陰の政府とも呼ばれた。

彼らのやり口は「金を受け取るか死か」というもので、買収が聞かない相手に対してはその家族に手を伸ばして従わせるといったもので、殺戮の残酷さはヘタなプラッター映画の数倍も酷いものであった。チェーンソーで首を切り身体をバラバラに切断する、といったシーンの連続には辟易する。
メキシコ軍部の海兵隊はもはや通常のやりかたでは彼らに勝てないという結論に達し、ついには海兵隊内部に特殊部隊(暗殺部隊)を創設し、セータ隊隊員、特に首謀者の直接抹殺に乗り出す。
その考えはアメリカの「テロとの戦い」でアルカイーダの首領ビンラーデンを特殊部隊が屠ったようなものである。
ここに至って「麻薬との戦争」は「テロとの戦争」同様、呵責の無い全面戦争へと突き進む。著者は人間の惨さ残酷さをこれでもかこれでもかと執拗に描くのであるが、奥底にどうしようもないくらいの絶望感、虚無感が漂う。そしてこのような事態を止められない政府、組織そして人々に対し深い深い怒りを感ずる。前作「犬の力」ではまだ希望の光の一端をみられたような気がしたものの、本編においては「絶望」の二文字のみだ。







小川一水著『天冥の標Ⅷジャイアント・アークpart2』

2017-05-08 11:02:28 | 「ア行」の作家
小川一水著『天冥の標8 ジャイアントアークpart2』ハヤカワ文庫 2014.12.25第1刷 

おススメ度 ★★★★☆

メニー・メニーシーブ星の首都オリゲネスはある日突然現れた夥しい数の咀嚼者フェロシアンの襲撃に会い、たちまち占拠された。
本編はこのフェロシアンに立ち向かうエランカ大統領率いる新民主政府の戦いと、メニー・メニーシーブ星の真実を探るべく調査行を敢行するカドムらの冒険の二部構成となっている。
本編を読んでいると、一体ここが何処でいつの時代なのか混乱してくる。そもそも星の名前が時代によって変わるし星の地下層にある世界の名称が交錯し訳が分からなくなる。
そして登場人物も数百年に渡って生き続ける者や各年代で微妙に名前を変えながら登場する子孫だの混迷に拍車をかける。
ま、それはともかくカドムらの冒険行が興味深い。地下から2千メートルはあろうかという天井に向かうのであるが、そこに驚愕の真実が一行を待ち受ける。このメンバーが面白い。
唯一の普通の人間?はセアキ・カドムただひとりで、あとは咀嚼者イサリ、海の一統のオシアンとユレイン三世元総督、ラバースのラゴスなどなど。
本編で特記すべきは咀嚼者フェロシアン・イサリのエロさであろうか。もともと硬殻化する以前は救世群のリーダーの長女イサリであって冥王班患者ではあるが魅力的な少女であった。
硬殻化した後もその美貌と艶めかしさが残り、当初よりファンの一人に僕はなったのであるが、今回カドムとの絡みの中で彼女の乙女の部分にグッと来るものがあった。
さて物語はいよいよ最終場面にむかうのであろうか!?











月村了衛著『機龍警察 未亡旅団』

2017-04-25 15:34:57 | 「タ行」の作家
月村了衛著『機龍警察 未亡旅団』早川書房 2014.1.25第1刷 
おススメ度 ★★★★★

チェチェン紛争で夫や家族を失った女性だけのテロリスト集団が日本に潜入したという情報が入った。
目標も決行日も全く分からない。その上このテロリスト集団の中には未成年、「少年兵」といわれるメンバーが含まれており、彼女らに自爆テロを行わせる可能性が大ということで警察側に動揺が生じる。
チェチェン紛争はエリツインが大統領であった1994年に第一次紛争が勃発し、2年後に一時停戦合意が成立したものの、再び第二次チェチェン紛争が1999年に再発した。
我々の記憶に生々しく残るのは2002年に起きたチェチェン独立派武装集団によるモスクワの劇場占拠事件である。
大統領はエリツインから現在のプーチンに変わっており、プーチンは剛腕でもってこの事件を終焉させた。制圧部隊が劇場の空調を使って毒ガスを流し、武装集団と人質となっていた観客もろとも無力化。特殊部隊が突入し一挙に武装集団全員を射殺という戦慄すべき荒業で制圧したのであった。その時の武装集団50名の内18名の未亡人メンバーが含まれていたと言われる。彼女たちは自爆用爆弾を腹に巻いていた。
そんな事件を思い出したのであるが、現在は世界のテロ状況はさらに悪化し、イスラム国を初めいわゆるイスラム原理主義者らの集団が子供たちに自爆テロを敢行させるという恐るべき事態となっている。
本編はこうした世界状況を先取りする形で恐るべきテロリスト集団「黒い未亡人旅団」を登場させた。
物語は単に機龍警察対テロリストの戦いだけではなく、日本警察内部の軋轢をも抉り出して行く。今回は特捜部と公安、外事との共同作戦となったため、更に内部対立の様相が複雑となった。そして本件の真相は誰もが想像もできないことが含まれ、物語は予想外の方向へ展開していく。

とかくシリーズものといえば第一作が傑作であればあるほど第二作以降の質は落ちていくのが常道であるが、本シリーズに限っては例外であろう。
一作ごとにそのボルテージは上がり、スケールも広がりをみせる。これだけの緊張感を維持し読者を惹きつけて離さない月村氏の筆力には改めて感嘆した。

小川一水著『天冥の標Ⅷジャイアント・アークpart1』

2017-04-19 11:09:29 | 「ア行」の作家
小川一水著『天冥の標Ⅷジャイアント・アークpart1』ハヤカワ文庫 2014.5.20第1刷 
★★★★☆

メニー・メニーシーブ星の水槽に隠れていた怪物がそこから這い出して広まった奇怪な病気。その怪物とは硬殻化した救世群の盟主の長女イサリであった。かくして読者は長い長い物語の航海の後でやっと本シリーズの最初第一部に舞い戻って来たことを知る。
そのイサリは冥王叛未感染の人類との、種の存続をかけた壮絶な戦いの中でアイネイア・セアキを逃すといった救世群への裏切りの罪を問われ妹ミヒロの命によって冷凍睡眠されたのであった。その間何と300年の長きに渡って。
今そのような長い眠りから起こされたイサリに与えられた役割とは何なのだろう?

本編によって今まで謎であった事柄が徐々に理解されるのであるが、物語がいよいよ佳境に入って来た予感がする。だが、まだ先の巻が多くあることを考えると予断は許されないのかも。
本編はイサリの視点から第一部の物語が語られて興味深いのだが、アインの面影を残すカドム・セアキへの恋心が切ない