かどの煙草屋までの旅 

路上散策で見つけた気になるものたち…
ちょっと昔の近代の風景に心惹かれます

柱/オーダー(1)~明治村編

2014-03-21 | まちかどの20世紀遺産

 日本の近代建築(西洋館)の魅力は、何と言っても外観のデザインの多様性にあります。なぜ日本の西洋館のデザインはそんなにバラエティに富んでいるのか?それは日本に西洋建築が導入された明治という時代がポイントです。日本が近代化に邁進した明治時代(19世紀中~20世紀初頭)は、ちょうど西洋建築の本家本元の欧米では過去の建築様式のリヴァイヴァルブーム真っ只中でした。紀元前の古代ギリシア、ローマ建築の古典様式から中世~近世のゴシック、ルネサンス様式まで、様々な様式を用途によって使い分けたり(歴史主義)、複数の様式を組み合わせたり(折衷主義)した建築が、ヨーロッパやアメリカでもこぞって建てられました。

 日本でも大都市を中心にお雇い外国人建築家や、教育を受けた日本人建築家によって、リヴァイヴァルされた様々な歴史様式を用いた建築が建てられました。明治~大正期に建てられた歴史主義の建築としては、コンドルの岩崎邸、ニコライ堂、エンデ、ベックマンの司法省、辰野金吾の日本銀行、東京駅、片山東熊の赤坂離宮(迎賓館)などが現存していて、全て国宝や重要文化財の指定を受けています。

 一方日本の地方都市でも大都市に負けじと、地元の大工棟梁などを中心に洋風建築の建設が盛んになります。西洋建築の正式な知識や技術を持たない地方の棟梁たちが、大都市に建てられた西洋建築を見よう見まねで建てた西洋館を、正規の建築家が建てた建築と区別して「擬洋風建築」と呼びます。棟梁たちは西洋建築らしさを手っ取り早く演出するために、一目で洋風建築と分かる特徴的で分かりやすいデザインをとり入れたのですが、列柱(オーダー)はその代表的なもののひとつです。

~オーダーとは~
 西洋建築の肝(きも)ともいうべきオーダーは、古代ギリシアの神殿建築をルーツとし、古代ローマ、バロック、ルネサンス、ジャコビアンなどの古典主義建築はすべてオーダーを中心にデザインされています。オーダーは円柱(コラム)とその上の水平部分である梁(エンタブラチュア)からなる柱梁構造で、柱頭の造形などでトスカナ、ドリス、イオニア、コリント、コンポジット式の5種類に分類されています。ファサードにオーダーがデザインされていれば、誰が見ても西洋建築なのは一目瞭然、アーチとともに西洋建築のツートップとも言える重要アイテムです。明治期に建てられた「擬洋風建築」では、建築様式などどうでもいい棟梁たちによって、オーダーの柱頭が自由に変形され、日本独自の西洋館の造形が楽しめます。
 
 今回は明治村の洋風建築に使われている柱(オーダー)を探してみました。大工の棟梁の建てた擬洋風建築から、本格的なルネサンス建築まで、明治の西洋建築には建物のファサードを飾るオーダーがいたるところで活躍しています。 


■三重県庁舎/明治12年(1879)
地元三重県の大工棟梁清水義八の作品で、内務省庁舎(明治7年)に倣った当時の典型的な官庁建築。
建物は木造漆喰塗りで、張り出した車寄にはトスカナ風の列柱と大きなペディメント(妻壁)が載り、ヴェランダにも柱が並ぶ擬洋風建築。


■本家と比べるとやや首長のトスカナ式オーダーが並ぶ回廊



■三重県尋常師範学校・蔵持小学校/明治21年(1888)~三重県庁舎と同じ清水義八の設計。
張り出した車寄とヴェランダの柱はトスカナ風で、途中に持送りを出して連続アーチを支え、アーケード風空間を演出。



■東山梨郡役所/明治18年(1885)
当時山梨県を中心に多くの洋風建築を建設した県令藤村紫朗が手がけた、いわゆる「藤村式」の擬洋風建築のひとつ。
実際に設計施工を担当したのは地元の左官の棟梁土屋庄蔵で、三重県庁舎と同じ車寄とヴェランダにオーダーを配した当時の官庁建築の典型。



■神戸山手西洋異人館/明治20年(1887)代
明治初期に好んで建てられた典型的なヴェランダコロニアル様式の洋館。
ヴェランダをL字に廻し、柱の本数に変化を持たせているのが特徴。



■大井牛肉店/明治20年(1887)頃
元々神戸の外国人居留地にあった商店なので、ファサードはヴェランダにアーチ窓、コリント式柱に手摺はルネサンス風と洋風意匠でまとめています。
玄関は純和風で、むくり屋根に鶴の彫り物を飾っているのが明治の洋館らしく楽しい。



■歩兵第六聯隊兵舎/明治6年(1873)
軍の兵舎だけに白漆喰塗りの壁に整然と上げ下げ窓が並ぶだけの簡素な外観ながら、玄関ポーチの柱はしっかりとトスカナ式オーダーで押さえています。
 


■内閣文庫/明治44年(1911)
ドリス式のオーダーが巨大なペディメントを支えるファサードは、まさに古代ギリシア・ローマの神殿建築。
明治村では唯一の本格的ルネサンス様式の建築で、威風堂々のたたずまいは西洋建築の長い歴史を感じさせます。



■これでもかとばかりのでっかい柱とペディメントがすごい迫力。



 



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2 Comments

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Unknown (マイベイ)
2014-03-24 22:49:11
実際、こんなところに住んでみたいなって思います私。
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かなわぬ夢 (shortwood)
2014-03-26 22:45:15
マイベイさん、いつもありがとうございます。

年代物の洋館に住む、まさにかなわぬ夢ですね。
せめて明治村でゆっくり洋館の雰囲気に浸っております。
住むならこの家がいいなあ~と想像するだけで楽しさ倍増です。
ちなみに私は和風建築ですが、幸田露伴が住んだ蝸牛庵がお気に入りです。
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