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TVの洋画劇場にマカロニがやって来た!~荒野の用心棒(1965年)

2014-08-10 | 映画

 1971年、中学2年生のときに映画(おもに洋画)の面白さを知り、映画館にも行くようになった。しかし中学生のこづかいでは毎度映画館で見るわけにもいかず、そこで頼りになるのがテレビの洋画劇場である。ちなみに70年代当時各テレビ局が放送していた洋画劇場を番組名、放送局、放送開始年、解説者の順に紹介すると

・日曜洋画劇場~テレビ朝日、67年4月、淀川長治
・月曜ロードショー~TBS、69年10月、荻昌弘
・ゴールデン洋画劇場~フジ、71年4月、前田武彦
・水曜ロードショー~日本テレビ、72年4月、水野晴郎

 ビデオもDVDもこの世に存在しなかった当時、テレビの洋画劇場は名作からB級まで多くの作品を供給してくれる唯一の存在だった。ぼくのような経済的な事情で、あまり映画館へ行けない中学生にとって、毎週4回放送される洋画枠は本当に楽しみな時間だった。中学~高校生の時期にこの洋画劇場で見た多くの作品は、ぼくの血となり肉となり、オッサンになった今もぼくの体に脈々と受け継がれているのである。


■初めて洋画劇場で見た映画はマカロニ・ウエスタン
 さてぼくがテレビの洋画劇場で最初に見たのは、マカロニ・ウエスタンと呼ばれる『荒野の用心棒』という西部劇だった。放送日は1971年1月10日。ぼくがちょうど洋画に興味を持ち始めた中学1年のときに放送されたこの作品は、オープニングの『さすらいの口笛』の哀愁を帯びた音楽とともに、今もぼくの記憶に強烈に焼き付いている。

 マカロニ・ウエスタンというのは、60~70年代につくられたイタリア製西部劇のことで、『荒野の用心棒』で監督のセルジオ・レオーネがその基本的スタイルをつくりあげたと言われている。『荒野の用心棒』が黒沢明監督の『用心棒』を無断でリメークしたのは有名な話だが、セルジオ・レオーネはクロサワの『用心棒』のストーリーを借りて、彼独自の西部劇「マカロニ・ウエスタン」をつくりあげた。

 それまでのジョン・フォードに代表される西部の男たちを詩情豊かに謳いあげる西部劇を正統派とするなら、レオーネのマカロニ・ウエスタンンは、まさにアウトローたちの西部劇だった。このB級の臭いがプンプンする西部劇は、それまでの西部劇のフォーマットをすっかりぶち壊し、新しい形のアクション映画としてひとつの時代をつくっていく。


■映画のストーリー
 ニューメキシコの小さな町に流れ着いた凄腕のガンマン、ジョー(名無しの男)。この町ではメキシコ系ギャング一味と白人保安官一家が激しく対立、争いが絶えなかった。両者の相打ちを狙い金儲けをたくらむジョーは、保安官一家の下っ端を簡単にうち殺し、メキシコギャングに取り入る。その一方保安官一家にも裏で情報を流し、両者の対立を煽りながら一儲けの機会をうかがう。ギャング一味が軍から強奪した金塊を探すべく、一味のアジトに潜入したジョーはそこで大ボスのラモンに無理やり愛人にされている女を発見、同情したジョーは、亭主、子どもともども逃がしてやる。一方ラモン一味は対立する保安官一家と全面対決、一家を皆殺しにする。ジョーが女を逃がしたことを知ったラモンは、ジョーに手ひどい拷問を加え女の行方を追及するが、辛くも脱出したジョーは葬儀屋の助けでラモンとの最後の決闘に備える。ラモンに痛めつけられボロボロになりながらも、ジョーは最後のラモンとの決闘に臨む。ジョーはライフルの名手ラモンに対抗する最後の手段を、文字通り胸に秘めていたのであった。


■DVD再見
 映画のキモであるガン・ファイトのシーンは、今の映画のアクションシーンのスピード感になれた眼にはなんとも冗漫、いかにも時代を感じさせる。しかしそれを補って余りあるのが、クリント・イーストウッド演じるジョーのカッコよさだ。イーストウッドが演じるジョーのヒゲヅラに葉巻、ポンチョというスタイルにちょっとクールなイメージは、この映画を見た中学生の時からぼくの中では忘れられない存在になった。

 この映画の主演にはヘンリー・フォンダやチャールズ・ブロンソン、ジェームズ・コバーンなども候補に挙がったそうだが(結局全員に断られている)、結果的にクリント・イーストウッドで大正解だった。ひょうひょうとしてとらえどころがなく、ワルなのにワルになりきれない、そんな決して正義のヒーローではない流れ者のガンマンのイメージに、イーストウッドはまさにはまり役。結果的に演技があまりうまくないのも、無表情でクールな主人公役のイメージにぴったりだった。

 この映画が世界中で大ヒットし、続いて『夕陽のガンマン』、『続・夕陽のガンマン』が製作された。主演のイーストウッドはこれをきっかけにハリウッド・スターへの扉を開き、のちの『ダーティー・ハリー』シリーズでその人気を不動のものにした。(ハリー刑事が44マグナムのリヴォルヴァーを撃ちまくる、まさに現代のマカロニ・ウエスタン!)

 また忘れてならないのが、メキシコ系ギャング一味の大ボスを演じたジャン・マリア・ヴォロンテ。金塊を強奪するためにガトリング銃を撃ちまくり軍隊を全滅させるは、命乞いする保安官一家を容赦なく皆殺しにするは、その非情な極悪ぶりは正統派西部劇にはなかったまさにマカロニ・ウエスタンの世界。ジョーはこのボスに一度はボコボコニされながら、最後の決闘に挑み、ボスの自慢のライフルに拳銃で対向する。

 爆発の煙の中からジョーが登場し、ひとりで悪党一味に対峙するシーンは、この手のアクション映画の定番だが、今見ても十分にカッコいい。ライフルの名手のボスに「心臓を狙え」と挑発するジョー。そこには一発逆転の秘策が隠されていた。ここであのトレードマークのポンチョが、ただのファッションではなかったのが分かるあたりはなかなかの演出だが、これは見てのお楽しみということで・・・

 マカロニ・ウエスタンという新しいスタイルで、アクション映画のひとつのスタイルを築いた『荒野の用心棒』。本家黒沢監督の時代劇アクション映画『用心棒』とともに、のちの映画やTVドラマ、アニメ、マンガなどに与えた影響ははかり知れない。最近の大ヒット映画『るろうに剣心』にも、マカロニ臭が漂うような気がするのはぼくだけ?


■日本公開時のポスター
 


■このスタイルが後のガンマンのイメージを決定づけた



■荒野の用心棒
 公開:1965年
 監督:セルジオ・レオーネ
 音楽:エンニオ・モリコーネ
 出演:クリント・イーストウッド、ジャン・マリア・ヴォロンテ、マリアンネ・コッホ他
 TV放送:日曜洋画劇場(テレビ朝日)1971/1/10



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