以前何度か書いた軽い脳梗塞を起こして、医師から「このままでは死ぬよ」と言われたおじさんに会った。
カレーの食べ終わった彼に声を掛けた。
「最近調子はどうなの?」
彼は耳にすぐに手をやり、聞こえないと言う素振りをしながら、少し自分に近づいてきた。
「最近はどう?」もう一度聞きなおすと、彼はこう答えた。
それは以前と変りのない左腕がずっと痺れ、顔もこわばっていて、最悪と言うことだった。
彼は以前その病状のことを自分に話した次の週には明るい感じで、「病院に行くことにした」とも答えていたが、それはその日だけのことで未だ病院に行っていないようだった。
自分の病状が救われない、もうダメだと言うことを伝えながらも、そうなることを決して望まない、望んでいない、間逆の気持ちを深いところから浮かび上がらせるように語る、彼は自暴自棄になりながら、救いを待っている。
その彼は息苦しさをもっと分かって欲しいことを伝えるために、彼の友達のことを話し始めた。
その友達は以前仕事の紹介などもしてくれた人で、白髭橋よりも上流のところにテントで暮らしていた。
役所の人たちがその土地を何かにしようするためにテントを壊そうとすると、そのなかでその友達は黒くなり白骨化して見つかったらしい。
死後一年半くらい経っていたと言う。
ミイラ化していたのだろう、彼はその友達と同じように自分も死ぬだろうと吐き捨てるように話し続けた。
「伊藤さん{彼の友達}も医者が嫌いだったから病院には行かなかったんだよ。俺も医者が嫌いだから病院には行かない。だって、医者にいじめられたんだ。酷かったよ・・・、精神病院まで入れられてさ・・・。だから、俺も伊藤さんのように死ぬよ・・・」
そう言いながら彼がずっと救いを待っていることは確かに感じられた。
そして、彼の決定的な人間不信を感じざるを得なかった。
医師の何でもないような一言、また心ない一言に、愛情、思いやりのない態度に激しく傷付いたのだろう。
そして、見捨てられたと思い込んでしまった。
実際見捨てられたのかもしれない。
救いの手はあったのかもしれないが、一度そう思い込んでしまうと、もう世界はそれだけの世界だと決め込んでしまう弱く幼い心で自分の首を自分で絞めこむように苦しめて生きてきたのだろう。
そのどうしようもない生き辛さで今日も彼は生きている。
マザーも言う。
「すでに彼らは物凄く苦しんできた。だから、言葉には十分に気を付けなければならない」
ケアする側はその深い思いやりと愛情ある態度が必然である。
苦しみを吐くだけ吐き出し、諦め顔が苦笑い顔に変り、「見守っていて」と言うような雰囲気を出し、彼は自分から離れていった。
別れた後、しばらく、彼の痛みを感じ直した。
そして、それは祈りに変った。
公園の花畑ではひまわりが大きくきれいに咲いていた。