Blog of SAKATE

“燐光群”主宰・坂手洋二が150字ブログを始めました。

『お父さんと伊藤さん』と劇作家協会研修課

2014-01-10 | Weblog
日本劇作家協会には、通年で行っている「戯曲セミナー」の上級クラスとして、「優秀と認められる受講生、「劇作家協会新人戯曲賞」の最終候補に残った実績がある者、他の戯曲賞の佳作以上の入賞実績がある者」を対象に再募集する「研修課」がある。こちらは年次の期限はない。詳しくは協会ホームページを御覧いただきたい。
http://www.jpwa.org/main/activity/seminar

最近「研修課」に在籍する劇作家たちが、連続して結果を出している。いずれ紹介しよう。

そして、昨年度まで研修課で私が担当していた中澤日菜子さん。
中澤さんは、もともといくつもの戯曲賞を獲得しているが、このたび小説家としてデビューした。
年が明けて、昨年「第8回小説現代長編新人賞」を受賞した『お父さんと伊藤さん』が出版されたのだ。
受賞記事には、「名立たる選考委員たちがダントツで支持した」とある。版元は講談社だが、かなり力を入れて売り出していることがわかる。
この小説は、34歳の女性と「伊藤さん」という54歳の男性、二人が同棲する六畳と四畳半のボロアパートに転がり込んできた74歳の父、その三人が中心人物。
特に前半がこなれていて、すいすいと読ませる。台詞が上手いのは戯曲を書いてきたもともとの技量だし、テンポもいい。戯曲のさいには邪魔になったかもしれない時としてやや饒舌な傾向が、小説という仕組みの中に幸福な着地点を見つけた。
後半になると、戯曲のときと共通したこだわりが随所に出てきて、苦笑いしつつ、小説で初めて彼女の世界を読む人よりも私は幸福な読者であった。当場人物三人、とくに「伊藤さん」のキャラクターが魅力的だ。電話で読後の感想としてそのことも言うと、びっくりする裏話(?)を聞かされた。
しばらくは小説の世界で暴れることと思うが、おそらく彼女は今後「注文を受けて書く」という立場で、戯曲とも再会するだろう。楽しみに待とう。
コメント (1)
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