Blog of SAKATE

“燐光群”主宰・坂手洋二が150字ブログを始めました。

「猟奇」はどこにあるか

2013-07-28 | Weblog
報道によれば、安倍首相は訪問先のマニラで会見、憲法解釈で禁じているとされてきた集団的自衛権の行使容認に関し「検討を進めていく考えだ」と明言。今回の訪問で会談した各国首脳らに説明し理解を求めたことも明らかにし、憲法改正についても「誤解がないよう丁寧に説明していきたい」と実現に意欲を見せたという。
……どうしてこんなとんでもないニュースが平気で垂れ流されているのだろう。何の権利があって首相が勝手に、議会の承認も国民の賛同も得ず(得られるわけがない)、憲法違反の方策を他国首脳に告げることができるのだろう。20年前なら大問題になっているところだ。即辞任だ。記者会見でいつもの日本と同じようにぺらぺら喋っていたニュース映像を見る限り、他国の人たちもただ聞き流していたのだろう。しかし喋った事実は残る。「憲法九条」「非戦の誓い」によって評価されていた日本が、その大切なアイデンティティーを捨てて、どうなるというのだ。

ここ数日の東電福一原発の放射能値の上昇の異常について、この国も国民もマスコミも明瞭に問題にしていない。非常事態宣言とか、緊急対策本部の設置とかが、まったく為されていない。「冷温停止」の嘘っぱちは初めから誰も信じておらず、国を動かす連中自身も怖いから、現実から逃避し「見て見ぬ振り」を通そうというのか。それとも、自分たちだけは助かると思っているのか。それとも自滅の美学に酔いしれる気か。

……世界の目は厳しい。日本の異常さと蒙昧を冷静に見ている。そして、未来の世代の人たちが、「この時代の人たちはなぜこんな状況下で平気でいられたのだ」「破滅する前に対策を講ずる気はなかったのか」と、不思議に思うことは必至だ。まあそれでさえ、「未来の人たち」が私たちとの繋がりを感じてくれていればの話だが。

山口県周南市金峰の集落で男女5人が殺害された事件で、殺人・非現住建造物等放火容疑で容疑者が逮捕された。この事件をさして「現代の『八ッ墓村』(津山三十人殺し)」という言い方をしている報道があるが、勘弁してほしい。二つの事件はまったく違うものだ。ましてや「猟奇」を強調することは中国地方の山村に対する偏見である(私が津山三十人殺し隣村の出自であることは度外視しても、そう言える)。「阿部定事件」や「津山三十人殺し」の派手な報道はじっさい、戦争に向かう不安と脅威の時代の理不尽さから庶民の目をくらますためにも使われたわけだが。……そこいらへんのことは十年前、石田えりが阿部定を演じた『阿部定と睦夫』で描いた。
マスコミは、こんな事件を追っている暇があったら、ちゃんと福島と安倍を追っかけろ。ヤマトの報道もせめて沖縄の水準でアメリカとの関係を見据えてほしい。すさまじい〈猟奇〉は、そこかしこにある。

ともあれ、可能なデスクワークだけで後はまるっきり動かずに一日過ごした。夏風邪らしき微熱にうなされながら悶々とするしかない。とはいえ、熱も下がってきた、出かけなくては。
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リーディングのお知らせ

2013-07-28 | Weblog
告知です。
久しぶりにリーディングの演出をします。一週間後の開催です。
夏の真っ盛りのリーディングだし、「公開講座」という枠に括られているため目立たないかと思い、とにかく多くのお客様に来ていただくためにも、出演者を豪華にと思い、キャスティングに凝っていたら、関西弁の作品なので関西弁のできる俳優をという事情もあって、出演者を揃えるのに時間がかかり、結局、告知が遅れに遅れてしまった。

私が演出する(作者の芳凬洋子と共同)のは、劇作家協会新人戯曲賞で2001年度の佳作になった『沙羅、すべり』という作品。
出演者は、五十音順で、以下、七名の皆さん。

円城寺あや 
竹下景子 
辰巳琢郎 
菜月チョビ(劇団鹿殺し) 
松永玲子(ナイロン100℃) 
森下亮(クロムモリブデン) 
山村涼子(デス電所)

……辰巳さんは劇作家大会などでいろいろお世話になってきたが、劇作家協会のリーディングに出ていただくのは、初めてである。
竹下さんも、彼女にやっていただくと決めた瞬間に全てがクリアになったと自画自賛できる、絶妙な配役である。『3分間の女の一生』で最後にご一緒してから三年半、久しぶりにご一緒できるのが嬉しい。
円城寺さんと竹下さん以外は関西出身の皆さんである。新たな出会い、活きのいい俳優さんたちとご一緒できるのも楽しみである。

日時は 8月4日(日)16:30ー18:00
会場は 座・高円寺2 JR中央線 高円寺駅 北口 徒歩5分
入場料 ¥1,000 (区民・会員は¥900)

全体としては《劇作家協会公開講座 2013年 夏》という企画で、
8月3日(土)には 「劇場でワークショップを」二講座
8月4日(日)には続いて 
リーディング『見上げる魚と目が合うか?』 (2012年度受賞作 作…原田ゆう 演出…マキノノゾミ 出演… 占部房子 岡森諦(扉座) 三鴨絵里子(ラッパ屋))、
トークイベント「劇作家が戯曲を審査する」(鴻上尚史 小松幹生 坂手洋二 マキノノゾミ 聞き手…樋口ミユ)もあります。
お得な通し券もありますのでぜひご利用ください。

詳細は以下HPを御覧ください。
http://www.jpwa.org/main/openclass2013

内容の紹介の代わりに、作者が当日パンフに書いた言葉を載せます。文中にある通りなのだが、2001年のその夜、私の他にこの作品に理解を示した審査員が清水邦夫さんで、考えてみれば私と清水さんは、他の審査会でもそうだったが、いろんな場所で意見が一致することが多く、それは私の喜びでもある。

「審査会」 芳凬洋子
2001年12月、私は劇作家協会新人戯曲賞の最終選考会の場にいた。一年前、憧れの劇作家の方々に拙作を読んでいただけたことがただ嬉しくて、「来年もここに来るぞ!」と心に決めて臨んだ二度目の最終選考会。前年の「イイ人しか出てこない」という一言を受けて、イヤな奴しか出てこない『紗羅、すべり』を携えての上京だった。今年は、どんなお言葉をいただけるのかとワクワクしていた。
けれどもそのワクワクは、一瞬にして驚愕に変わった。審査員のかた全員が、異口同音に「この作品はわからない」とおっしゃったのだ。どんなお言葉以前に、土俵にも上れない現状に、椅子から崩れ落ちそうになった私を、「東北の雪で新幹線が遅れた」とバックパック姿で遅れて入っていらした一人の審査員のかたが救ってくださった。坂手洋二さんだ。
坂手さんは席に着くなり、「コレはこういう作品ですよ」と、いとも簡単に解説してくださった。その後、坂手さんの大奮闘のおかげで、佳作をいただくことにもなった。とてもありがたかった。感謝でいっぱいだった。けれども正直、少しも嬉しくなかった。わからない作品を書いてしまったことを大いに悔やんだ。反省した。
その教訓を得て、翌年、誰が読んでもわかる作品『ゆらゆらと水』を書いた。三度目にして、ようやく劇作家協会新人賞もいただいた。でも審査会が終わってから、坂手さんにたっぷり叱られた。「わかりやすく書こうとするな!」と。またもや私は、涙の反省となった。
その翌年以降、夏のこの時期、私は劇作家協会新人戯曲賞の一次審査に関わらせていただいている。真逆の立場だ。自分が三年に渡って多くの審査員の方々に拾い上げていただいたことを思えば、いい加減には読めない。毎年、身が引き締まる。

そんな思いの原動力となった十数年も前のこの作品に、今回、光を当ててくださった坂手さん、劇作家協会の方々、そしてお忙しい中、立ち上げてくださった俳優とスタッフ、会場にお越しくださった皆様に心より感謝を申し上げます。ありがとうございました。
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