さいふうさいブログ

けんちくのこと、日々のこと、いろんなこと。長野県の建築設計事務所 栖風采プランニングのブログです。

修理はどうするのか。誰がするのか。

2016年04月12日 | 現場16~東御市 古民家カフェ計画

4月になりました。新年度も始まり、新学期も始まりましたね。

今年も、もう1/4が過ぎ。。。なんだか焦ります

こちらは千曲市にあります杏の里。杏の花はご覧の通り、満開でした

(4月3日)

 

そして桜の方も、あちらこちらで見頃を迎えています。

 

こちらは海野宿近くの堤防沿いにある白鳥桜並木。

満開を迎えました

花に誘われてお出掛けしたくなる季節ですネ

(4月11日)

 

さて、海野宿古本カフェ工事は、悩みどころの局面を迎えております

要するに判断に迫られているって事なんですが。

 

カフェに改修中のこの建物ですが、

見た目は綺麗ですけれども、もう何年も空き家状態でした。

3月下旬頃に土間コンクリートを打ちましたデス。

一般的なコンクリートミキサー車だと交通の邪魔になるので

小型のコンクリートミキサー車(4トン)で来てもらいました。小運搬なので割高です。

しかも、ポンプ車も使えませんから、コンクリートは手運び。

大変なんですよね。。。職人さんの手運びパワーに圧倒されます。

一輪車で何度も往復するのですけど、この職人さんは早い早い。

 

    

この建物は、平成18年度に補助をうけて外装周りだけ保存修理工事をやったようですけども、

水回りは、かなり長い間、使用されていなかったようですし

残念ながら建物として満足に使える状態ではありませんでした。

 

つまり、これまでは保存修理を施しながら外観上維持されていただけ。。。

それができるもの、伝建制度のお陰といえばお陰。

逆を返せば、外観さえ残れば取りあえず良し、という制度でもあるので、それ以上を期待する事もできないのですが。。。

  

伝統的建造物群は、文化財保護法により「周囲の環境と一体をなして歴史的風致を形成している伝統的な建造物群で価値の高いもの」とされる文化財です。

風致を形成している云々なので、建物の外観に関する部分には補助は全体的に出ますが(仕様に制限はあります)、

建物内部に関しては構造部分には補助は出るのですが、内部の仕上げに補助は出ませんし、建物を使うために必要なライフラインにも補助は出ません。はい。

 

このように長らく空き家だった建物使えるようにするためには、伝建地区に関わらず

依頼主(施主)の要望(用途)に応える工事の他に

建物の修理工事が必要になる場合が多いです。

 

ですからまずは 建物の修理 を施した上で、

ライフラインを含め用途に応じた(今回はカフェ)改修 となります。

 

①建物の修理は、建物を健全にするために施すものです。

不健全なまま放置する事は、言ってみれば、安全性に関わる事にも繋がり、

建物を使用する以上、先々の不安が残ります。

だからと言って、耐震工事をしなければならない、とか、そういう事ではありません。

老朽化しているところを健全に戻す事がまず第一歩。

理想を言えば、建物全体の不陸を直すこともやってもらいたいところです。

建物の水平・垂直が狂ってしまうと、建物の荷重が素直に地へ伝わらず、それが原因で徐々に建物は変形していくからです。

  

本来ならば、工事をする際に①と②の両方同時にやるべきなんですが

(工事の流れとしてはそれが一番合理的)

今回の案件のように、建物の所有者さんと、カフェのオーナーさん別、という場合は、なかなかそうもいきません。

 

②用途に応じて成される改修工事 は、店舗のオーナーさんが負担するべき性質のものですが、

①建物を健全にするための修理 は、誰が負担すべきところでしょうか。

  

【所有者と使用者が“一致”している場合は、

所有者にとって建物は資産であり、存続させる意思がある場合は、資金の目途が立てば、理しようとするのが当たり前の心理です。 

 

一方

所有者はいるが使用者がいない“空き家”の場合

つまり、所有者に建物を積極的に存続させる意思が無い、

或いは、資金が無く、壊すにも維持するにもどうしようもない、

はたまた、資金は全く無い訳ではないけども、建物に大金を投入する程の余裕はない、

又は、建物修理に投資する価値を建物に見いだせない、等の理由で

そのまま放置されてしまう古民家もあるでしょう。。。

そうなれば、状況によっては今後、『空き家対策特別措置法』により特定空家扱いになりかねません。

建物存続に消極的にならざるを得ない事情のある所有者の場合は、

早い段階で「他人に貸す」という手段等を含め、しかるべきところへ相談しながら策を講じていく必要があるかもしれません。

  

では、今回の事例のように

建物の所有者と使用者が“違う”場合はどうでしょう?

  

私共の携わった過去の設計事例の中では、小布施のジャズ喫茶BUDがそうでした。

小布施にあります穀平味噌さんの穀蔵として使用していた土蔵を、

かれこれ、えー20年くらいも前に

ぎゃらりい蔵を兼ねたジャズ喫茶に改装&改修したのですが

所有者とオーナーは別。

所有者が修理する部分と、オーナーが店舗用に改装する部分と

互いに費用を負担しあって進めた改修案件でした

なので、私共からしてみますと、お施主さんが二人になります。

 

このように所有者もオーナーと共に費用を負担しながら

建物全体を直すことが出来ればそれが一番良いのですが、

ここ近年の動向としましては、

所有者はあまり建物改修費用を負担したがらない傾向にあるように感じます。

だから、空き家になっている訳で。。。

そしてその一方で、そのような空き家を、利用、活用したい、活用しよう!と考えている人も増えてきている。

  

しかし、空き家になって長年放置されているような古民家の場合は、

ライフラインを含めそのままでは使えない状態の場合が多いもの。

そんな状態の建物に対し、賃貸に出すために所有者が今更、大金を投じ建物を使える状態に修理をするかといえば、

しないですよね。。。

  

で、どうするかと言えば、 

現状渡しで、

一般的な相場の賃料よりも安くし、

使用者に自由に改造して使ってもいい

という条件をつけて、それでもいいと言ってくれるような人に貸そう、と考えるようになります。

これが古民家で空き家になっている所有者の、言ってみれば気持ち、思惑です。(悪い意味ではありません。どちらかと言えば持て余して困っているのです)

   

それに対して使用者(借りる側)も

賃料の安さ、自由改造OK、というところに惹かれ

ましてや古民家の風情も楽しめる!

と、双方の利害が一致し、

古民家を借り、セルフリノベするとか、シェア系で利用しようとしたり、

古民家に憧れているような若い人が低予算挑むわけです。

 

それはそれで気持ちは理解できます。

 

そこでまた話は戻りますが、

建物は所有者の資産です。

所有者である大家さんの資産に対して、使用者である借主はどこまで投資するか。

もちろん、自分の商売に関する部分に投資することに意義はないでしょう。

でも建物の修理は? 

建物の修理は、所有者である大家さんの資産価値を上げるだけで、借主の商売には直接関係する訳ではありません。

 

では使用者である借主は、自身の資産にはならない修理に多額の費用を投資するでしょうか?

問題はここなんです。

 

低家賃でありながら、もし修理費に多額の費用が生じる場合、

商売の採算など計算した上で、それでもオッケーなら使用者が投資する事も考えられます。

 

しかし、修理費を使用年数で割り返して、家賃として考えた場合に

採算が合わないとなれば、投資はしないですよね。普通は。

 

そうすると、

現状渡し・安い賃料・改造自由 という条件の古民家空き家の場合

一見、所有者と使用者の利害が一致して、お見合い成立したとしても、

では、建造物を維持するための 適切な修理 は施されるのでしょうか?

それぞれの思惑を鑑みれば、 修理費用 がその両者から捻出され難い事は想像に難くありません。

  

それもこれも、

古い建物を「修理をする」という意識を、誰も持たず、話を進めている事に、問題があるかと私は常々感じています。

空き家問題など、企画して繋げるのはいいんですが

肝心の、建物の修理の事がわからなければ、予算も組めませんし、

また、修理の事は、外側から眺めているだけでは判断も出来ません。

そのようなリスクを、古民家を貸し借りする前に、どうやって当事者に知らせていくか、また当事者に意識を持ってもらうか、重要だと思います。

最初の段階から、修理の有無が分かる建築の専門の人を入れ、

また、その費用は無償ではないという事も念頭に入れておく方が無難です。

そして、時には専門の人による調査計画費用を棒に振るかもしれない、という覚悟も、です。

  

実際には、古い建物をどうにかしたい、という方は、事前に私共のようなところへ相談にみえますので

最初に古い建物を活用する際のリスクはご説明差し上げております。

時間的にも予算的にも、ある程度、余裕が無ければ、

古い建物を活用するというのは簡単に進められる話では無い、という事が分かって頂けるかと思います。

 

  

さて、

本題に入る前の話が大変長くなりましたが、

ここから古本カフェ現場の話に戻ります

  

店舗の土間になる部分ですが、既存のコンクリートが醜い状況だったので

土間をやり変える計画にしておりました。

 

 

現状土間

 

そしてこの昔の土間コンを解体してみると、

いや~な展開に・・・

 

土間コンクリートを取り払って、出てきたのは腐った土台です・・・

 

土台の下端に手を入れてみると、、、グスグス

コンクリートが被さっていたところがやっぱり腐っているんです。。。

ホント、昭和時代のこういった改修は困ります。

なので、東壁の土台が、ほぼ全部、駄目な状況

しかも、元々の土台の上に、補強のための土台が入っているようで、重ね梁じゃなくて、重ね土台?という感じでしょうか。

うーむ。 

  

どっちにしろ、一番下の元々の土台が駄目ということは外壁が沈み込み、

建物の荷重を壁面で支えられない状況。

そうなると、東壁で支えていた荷重を、他の部分で支える事になり、

大黒柱が沈んだり、柱が圧縮で潰れたり、あちらこちらで歪が起こり、いろいろな問題が起きてきます。

   

この腐った土台、、、直す事は容易ではありません。(でも出来ない訳ではありません)

もし直すとすれば、東側の外壁を落とし、まず礎石部分の不陸を直し固め土台を交換、傷んだ柱は根継をしたり。

同じような事、我が家の保存工事でもやりましたけどもね。大掛かりでした。

そして費用は百万単位で掛ります。

 

じゃ、どうするのか。

今回のカフェ工事にはそのような予算は計上しておりませんし、

店のオーナーさんにそこまで負担させるというのは、やはり酷です。

 

じゃ、所有者さんに修理費を負担してもらうようにお願いしてみる?

いや、それだって、そもそも予定していないものなので、所有者さんだって困ります。

 

ただ幸いにも、海野宿の場合は、伝建地区ですから修理費用は補助されます。

しかし、その補助を受けるためには、事前に申請が必要になりますし、

所有者さんに負担金が一部生じます。

 

そんな訳で、今回の改修工事でこれから補助金の申請をするというのは、

カフェのオープン予定の事もありますし工期的にも無理。

という事は、今回土台を修理することは不可能

 

さて、、、

だからと言って、そのまま土台を修理せずに蓋をしていいのか。。。

 

取りあえず土間コンクリート打ち終了。

 

コンクリートは木部・土台には触れないように、礎石で止まるように指示し

部分的にコンクリートが不陸になりましたけど、大丈夫、仕上げで調整します。

 

で、土台の修理をどうするか。

 

考えた結果、

予算調整して「補強」をすることにしました。

 

東壁を柱一本分ふかしたところで「内壁を独立」して作る事に。

新たな土間コン(有筋)の上に、敷石(御影)を置き、新たな土台も入れて、

これで一時、東壁の受けていた建物の荷重を「独立内壁」で支えようと思います。

そうすれば、補強にもなりますし、

いずれ補助金で東壁の修理工事をする時は、店を営業したまま、外から外壁修理工事が出来るはず。多分。。。

 

という事で、取りあえず補強の方針を決めました。

ここまでたどり着くのに、

今日もブログ長くなりまして、すみません~!

 

ところで現場の方ですが、大工さん、どうしても断れない他の仕事が入ってしまったとかで

今月の工事は進みが遅くなりそうです。

という事は、、、5月は追いこみだ!

今から体調管理をしておかなくてはネ。

 

 

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