京恋し

頑張った時のご褒美は京都。ずっと憧れ。

洒涙雨(さいるいう)

2012-07-07 20:11:56 | 季節のことば
今宵は七夕、牽牛と織女の一年に一度の逢瀬です。

      

      天を仰ぎつつ、二星の短い愛の語らいに思いを馳せつつ…下界は大雨。
      
       この夕べ降りくる雨は彦星のはや漕ぐ舟の櫂の飛沫(ちり)かも
                                     ―万葉集・詠み人知らず
        ご安心ください、天上では二人はちゃんとデートをしていますから。
        今降っている雨は、彦星が急いで舟を漕いでいる櫂から飛び散ったしずくだと
        いうのです。どんだけ力をこめてセッセか漕いでいるのでしょうね。

       我が背子(せこ)にうら恋ひおれば天の川 夜舟漕ぐなる楫の音聞こゆ 
                                     ―万葉集・詠み人知らず
        (彼のことを恋しく思って天の川で待っていると、夜、舟を漕ぐ楫の音が
         聞こえてくる、ああ、彼だわ!)


        夕べ、つまり七夕の前日の雨は、洗車雨といいます。今日のデートに備えて、
        彦星が愛車を洗ったのです。その水がこぼれ落ちてきたのです。真っ赤なポルシェ…
        じゃなくて牛車(ぎっしゃと言います)です。 鼻歌なんか歌いながらピッカピカに
        車を磨きたてている彦星、なんとも人間くさい、でも純情なキャラクターを
        下界の人たちは想像したものです。

        そして、語りつくせぬ一年分の思い、まだ飽きたりないのに別れの時ははやってきます。
        別れを悲しむ涙の雨が洒涙雨。「洒」は「酒」ではありませんよ。洒落とか洒脱などに
        使われる字で、洗い清めるとか降り注ぐ、と言う意味があります。
        今、東京はやっぱり雨…そんなに泣くなよ、また来年逢えるじゃないか!
        とか言ってんのかな

       彦星のゆきあひの空をながめても まつこともなきわれぞかなしき
        壇ノ浦に沈んだ平家の公達の、平資盛(すけもり)の恋人だった建礼門院右京太夫
        (けんれいもんいんうきょうのだいぶ)が亡き資盛を想って詠んだ七夕の歌。
        私にはもう愛する人を待つことすらもできない。二度と逢えないのだから。

        


本日の朝日新聞「天声人語」

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        :
  ▼万物に質量を授けるヒッグス粒子が見つかったと聞いて、ついにやったかと感涙にむせぶ人は珍しい。
  「世紀の大発見」はえてして我らの理解を超え、その大きさを知るのは後世になる。▼英国のヒッグス博士(83)
  が半世紀前に予言したこの粒子。宇宙誕生の瞬間、好きに飛び回る他の素粒子に水あめのように絡み
  全体を落ち着かせたとされる。その動きにくさこそが質量だ。鈍重になった素粒子たちは寄り集まり、
  水素などの原子、星や生命を生んでいく▼世界の物理学者は、欧州の巨大加速器でヒッグス粒子をしてきた。
  天地創造に迫る旅である。彼らは「99.9999%以上の確立」でそれらしき粒子を見つけたという。
        :
        :
  宇宙の大方は未知の「暗黒」が占めるとされる。探究の旅に終わりはない▼ビッグバンから137億年、
  まさか「作品」の一つが正体に肉薄してくるとは、「神の粒子」もびっくりだろう。こよい七夕の銀河を
  思い浮かべて、人類もやるもんだと杯を重ねるのもいい。つまみは粒ウニかなんかで。

ヒッグス粒子の発見と言われても、凡凡凡人のわが頭では理解の外だけど、未知なる大宇宙の探究も
  宇宙のロマンかもしれない。

―ヒッグス粒子研究に日本の技術―巨大加速器には、東芝や古河電工など日本企業の先端技術が
つめ込まれている。世界的な発見は、日本の技術力なしでは実現しなかった。
と言う記事も別ページにあった。すごいんだねえ

って、2012年の七夕のトピックスでした。

        

        もう一度、建礼門院右京太夫にご登場願います。

         なに事もかはりはてぬる世の中に 契りたがはぬ星合の空
          ヒッグス素粒子が発見されても、人の心は変わらず二星の切ない逢瀬に
          想いを重ねる。変わらないのもステキ。