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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ピボット高校アーカイ部・11『市長の娘の死亡記事』

2022-06-09 10:02:35 | 小説6

高校部     

11『市長の娘の死亡記事』 

 

 

 かわいそうに。

 

 叔父さんは、三面の、お祖父ちゃんが目を落とした同じところを二秒ほど見て新聞を畳んだ。

 新聞の下の方に小さな死亡記事が載っている。

 戦後初の市長さんの娘さんが老人ホームで亡くなったんだ。上皇陛下と同い年のお婆ちゃんで、職員さんが朝食に出てこないお婆ちゃんの部屋をノックしたら、すでに亡くなっていたそうだ。

 父親である市長の没後、嫁ぎ先を出されたお婆ちゃんは、再婚することも無く東京へ出て紆余曲折のあと故郷の要市にもどり、職を転々として、二流の老人ホームに入っていた。

「親の因果が子に報いってやつだな」

 心無い独り言をお尻を傾けながらこぼす。

「隆二、屁をひる時は風下でやれ」

 お祖父ちゃんは、湯呑を持って避難する。

「あはは、ごめん(^▽^)/」

 で、もう――かわいそうに――は忘れている。

「お前んとこの新聞はいつまでもつんだ?」

「まあ、十年は大丈夫だろ。天下のA新聞だからな」

「十年のあとは?」

「潰れるね。でも、オレ、五年で定年だし。ましな老人ホーム入れるくらいの金は残るさ。じゃ、帰るわ。鋲、予備校には行けよ。ピボットじゃ、ろくな大学行けないからな」

「……うん」

 そんな余裕ない……という憎まれ口は呑み込んで、曖昧な返事を返しておく。

 叔父さんが帰って十分ほどすると、お祖父ちゃんは年代物のショルダーを、昔の中学生のように引っかけて出かけて行った。

 

 

「今日は、昭和四十年に飛ぶぞ」

 魔法陣に修正を加えながら先輩が言う。

 魔法陣も、時々は手を加えなければならないものらしい。

「どうやら、四角で安定したようだな」

 来るたびに修正していたゲートも、ちょっと三角の折り癖を残してはいるけど安定した。

 もう、体を張って直さなくてもいいと思うと、ちょっと寂しい?

 い、いや、そんなことはない(#'∀'#)。

 

「あれ、新聞社ですね?」

「ああ、全盛期のA新聞だ……校閲部は……七階だな」

 そう言って指を振ると、僕と先輩はエレベーターも乗らずに新聞社の七階に向かった。

「先輩……ダサイですね」

「そういう鋲も……」

 先輩は、化粧っ気のないヒッツメ頭に度のキツイ近眼鏡。僕はグレーのズボンにワイシャツ、ネクタイは第一ボタンと第二ボタンの隙間にねじ込んでいる。二人とも黒の腕カバーをしていて、昔の事務職のコスだ。

「刷り原(校閲が済んで、版が組める原稿)あがってます?」

「ああ、その校了箱」

 年長の校閲科長が顎をしゃくる。壁の月間校閲表に受領のハンコを押す。

「持ってきまーす」

 ガチャン

 ドアを閉めて廊下を戻って階段を下りる。行先は、地下にある印刷工場だ。

 僕と先輩は、A新聞の校閲と工場を結ぶ、工場事務だ。

 毎日、校閲の済んだ原稿を版に組む準備の仕事。

「エレベーター使わないんですか?」

「ああ、原稿に手を加えなくちゃな……あ、これこれ」

 先輩が目に止めたのは、市長に関する記事だ。

「……市長は、ぶら下がり会見のあと、記者の呼びかけにも応えず、完全に無視して会見会場を立ち去った……」

「どうだ?」

「なんか、ひどい市長ですね」

「これが、こないだ助けた市長の三十年後だ。それまでに、いろいろあって、これで市長は失脚する」

「あ、そうなんですか……」

 記者相手に傲慢な態度をとったんだ、そういうこともあるのかもしれない。

「フフ、仕方がないと思っただろ」

「子どもの頃の市長知ってますからね、ちょっと残念かな」

「もう一度読んでみろ」

「……あ、なんかしましたね」

 字数は変わらないが、中身が変わっている。

「どうだ?」

「これは……」

 

 会見の終わった市長を記者が呼び止めた。

「市長!」

 市長は振り向くが、十数人いる記者は誰一人声を上げない。

 二秒ほど待って、市長は背を向けて歩き出す。

「市長!」

 再び声が掛かって、市長は振り返る。

 やはり、声をあげる記者はいない。

 市長は無表情のまま踵を返す。

「市長!」

 三度声がかかるが、今度は振り返らず、そのまま立ち去ってしまった。

 

「これって……?」

「そうだ、市長が記者の呼びかけにも応えず立ち去ったのは事実だが、それは三回目だ。二回振り返らせて無視したのは記者たちの方だ」

「これ、小学生のイジメと同じですよ」

「一事が万事、こんな調子だ。マスコミは腐ってるが、全部を直す力はアーカイ部にはない。この記事が要になると思ってな」

 話しているうちに、地下の工場に着いた。

 数ある偏向記事の、そこだけを変えて、僕と先輩は部室に戻った。

 

「いやあ、昔の支持者がけっこう集まってなあ、いい、お通夜だった。市長は功罪半ばする人だったが、要の街に愛情を持っておられたのは、みんな分かっていたんだな。ちょっと嬉しくなった」

 お祖父ちゃんは、市長の娘さんのお通夜に行ってきたんだ。

 そして、ちょっとだけ、市長への認識も要の歴史も修正されたようだ。

 叔父さんの新聞社も、予想より半年ぐらいは長持ちするかもしれない。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
  • 田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父
  • 田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・020『集金さんと追う男』

2022-06-09 06:15:11 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

020『集金さんと追う男』 

 

 

 

 ピンポ~~ン

 ドアホンが鳴ったので、いいところに差し掛かった文庫にしおりを挟んで通話ボタンを押す。

 
 はい。

『こんにちは、〇旗の集金です』

 定年後十年はたったであろう、白髪交じりの元教師という感じの集金さんがモニターに映っている。

「いま、いきます」

 そう返事して、月間購読料の入った封筒を持って門まで出る。

「ご苦労さまです、えと……3497円ですね」

「はい……たしかに。領収書です」

「たいへんですね、だいぶ寒くなってきましたから」

「いえいえ、武笠さんはお変りもなく?」

 わたしも武笠さんなのだが、集金さんは祖父母の事を聞いているのだ。

「はい、お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも、あの齢でも仕事に恵まれて楽しそうです」

「それは良かった、人間、仕事をやっているのが一番ですからね。あ、えと……じゃ」

 不器用な笑顔を残して集金さんは去っていった。先月は自転車で周っていたのに、今日は徒歩だ。遠ざかる後姿が微妙にギクシャク。

 脚を痛めて、自転車を控えているんだ。

 集金ぐらい祖父自身が出ればいいと思う。まあ、孫娘のわたしを間に立てることでプライドを支える一助になっているし、集金の相手をすることで孫娘の社会性を培っているという意識もあるのだろう。

「お向かいの敬ちゃんもあんなだしね」

 向かいの啓介が引きこもっていることを引き合いに出して正当化する。微妙な優越感がしのばれる、微苦笑することで返事に替える。

 門の脇に貼ってある『安倍政治を許さない』がはがれかけている。陳腐この上ないポスターなんだけど、祖父母のアイデンテティーオブジェの一つなので、画びょうを取りに行って補強する。

 お尻のあたりに視線を感じる……振り返ると、向かいの窓に啓介の片眼。

 バーカバーカ バーーカ

 口の形だけで言ってやる。

 チ、引っ込んじまいやがった。

 ん?

 電柱の陰に人影……どうやら〇旗の集金さんを追っている。

 で、こいつ……人の姿はしているが、妖だ。

 カーキ色の国民服、帽子を目深に被って、足音も立てずに集金さんが集金を終えると、同じだけ距離を取って身を隠す。

 
 集金さんが五件目の集金を終えたところで呼び止めた。

 
「それぐらいにしておけ」

「お、おまえは」

「おまえが付けてると、集金さんは、ますます体を悪くする」

「おまえは、あいつの正体を知っているのか?」

「〇旗の集金さんだ、うちも古くからの付き合いだ」

「◇産党だぞ」

「そういうあんたは?」

「とっこうだ」

「ああ、飛行機に爆弾積んで敵艦にぶちあたる」

「その特攻じゃない」

「知ってるよ、特別高等警察」

「おそれいったか」

「そんなものに興味はない。お前の名前、言ってみろ」

「そんなもの、人に明かせるか」

「いつも特高で済ませてるから、忘れたんだろ、自分の名前」

「バカ言え、オレは……その手に乗るか」

「忘れたんだな」

「お、おまえごときに言う必要は無い(;'∀')」

「おまえは、伊地知虎雄だ」

「う……」

 一声唸ったかと思うと、伊地知は、隠れていた電柱の影に溶け込むように消えてしまった。

 消える寸前、そいつの顔が歪んだ。

 安心した笑みのようにも不覚を取った苦笑いのようにも思えた。

 
 集金さんは五件目の集金を終えると、普通に歩きだした。自分でも不思議なようだが、心も軽くなったのが後姿でも分かった。

 今年も残すところ三日だ。

 帰って文庫の続きを読もう。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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やくもあやかし物語・143『お客は二丁目断層』

2022-06-08 09:55:48 | ライトノベルセレクト

やく物語・143

『お客は二丁目断層』   

 

 

 応接室のソファーに座っていたのは、同じ中学、後姿の女生徒。

「やあ、久しぶり」

 そう言って振り返った顔は、あたしだ。

「ゲ」

「アハハ、『ゲ』はないだろう」

 そう、そいつは、外見的には、あたしとソックリな二丁目断層だよ。

 断層のくせに妖で、目の前に現れる時は、いつもあたしソックリに化けている。

 本性は、神さまがインクを落としてできた染みみたいなまっくろくろすけ。

 わたしと同じ能力者の教頭先生が「けして直に見ちゃいけない」と言って、体育館の鏡に映してしか見せなかった、ご近所きってのあぶない奴。

 アカメイドさんも、二丁目断層だって言ってくれればいいのに。

「言ったら、会ってくれなかっただろ。それに、メイドさんには違う姿見せてたし」

「むー」

「いいお城じゃないか、ほら、新築祝い」

「え……てか、新築じゃないよ。もらったもんだし……なんなの?」

 断層が取り出したのは小さな紙箱。お祖父ちゃんが通販で買った腕時計が入っていたくらいの黒い箱。

「開けてごらんよ」

「う、うん……」

 なんかパンドラの箱めいてるんだけど、教頭先生が――直に見ちゃいけない!――というほど悪い奴じゃないというのは分かっている。

 断層の頼みで預かったチカコは、とっつきは悪いけど、いい子だしね。ひょっとしたら、うちの家だけの超局地的地震とか起こして意地悪するかと思ったけど、そういうこともなかったし。

 パカ

 開けると、ほとんど透明な霧みたいなのが立ち上って、あっという間に窓から出て行った。

「……なに?」

「ボクの気だよ」

「ゲ、あんたの気!?」

「もう、ゲって言うなよ。あれは、ボクと同じ力で外敵から城を守ってくれるんだぞ」

「バリア的な?」

「アキバは夢はあるけど、守りに弱くってさ、まだ歴史が浅いし。このお城も、やくもがアキバを護ってやったお礼だろ?」

 それもそうだよね……納得してどうすんのよ、あたし。

「で、なんの御用なの?」

「ご挨拶だなあ……まあいいや。実は親子(ちかこ)のことなんだ」

「チカコ?」

「やくものお蔭で、ずいぶん明るくなった。積極的になったし、口数も多くなった……ほら、あんなに元気に……」

 ドタドタドタ!

 窓の下、庭を走る音がする。「待てえ!」とか「コラー!」とか言ってチカコが御息所を追いかけまわしている。

「やくもに預ける前は、あんな元気に走り回るような子じゃなかった」

「あれはね、御息所が、チカコをからかったのよ。御息所は気に入ってるみたいだけど、チカコは、あんまりお城が好きじゃないみたいで」

「昔は、あんなに好き嫌いが言える子じゃなかった、元気になったんだよ……」

 なんか、しみじみと愛しむような目でチカコの姿を見る二丁目断層。

 なんか……やだ。

「そうか……やくもは、親子を実の姉妹のように思ってくれているんだ」

「え、あ、それは……(;'∀')」

 こいつ、人の心を読むんだ。

「ボクは、断層が好きでね……」

 そりゃ、あんた自身リアル断層だもん。

「断層というのは、相反するものがせめぎ合って困っている状況なんだよ……放っておくと、いつか『せめぎ合い』が溜まっちゃって、ドッカーン! グラグラってきちゃう。中には押しつぶされるのもいたりして……そうだね、ボクは親子に思い入れがきつすぎたから、つい出しゃばっちゃった。こういうことは、やっぱり本人が出てこなくっちゃね……あとで、もう一度連絡するよ。じゃあね」

 そう言うと、二丁目断層は無数のポリゴンみたいに細かくなって消えて行った。

 キャー ドタドタドタ キャー ドタドタドタ

 あいかわらず、庭ではチカコが御息所を追いかけまわし、アノマロカリスや、他のフィギュアたちも加わっていたよ。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・019『夢を見た』

2022-06-08 05:37:55 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

019『夢を見た』 

 

 

 
 夢を見た。

 
 この異世界に転生する直前の記憶が無い。映画のコマがまとまって飛んでいるような感じだ。

 その飛んでいるコマを補うような夢だった。

 
 父王オーディンに休息を宣告されると闇になった。

 うすぼんやりと地平の彼方が知れる以外は、大きな木を背にしていること以外、どこがどこやら判然としない。

 
 シトシトと雨が降っている…………しばらく様子を見よう。

 
 思い定めると、地平の彼方がチラチラと光る……数秒遅れてゴロゴロと音がする……遠雷か。

 この闇の中で雨にたたられるのはかなわんなあ……すると、二十メートルほど先に猫が現れた。

 最初は、迫りくる雨の気配を探っているのか、髭をそよがせ鼻をクンクンしている。

 そのうちに目が合っても、猫は逃げもせずにオイデオイデをする。

「用事があるなら、おまえの方から来い」

 言ってやると、猫は小首をかしげて手を替えた。

 仕方なく甲冑をガシャガシャいわせながら猫の傍に寄って行ってやった。

「何の用だ?」

 聞いた瞬間、世界が白くなった。

 
 ピッカーーー! ドドドドーーーーーンン!!

 
 なんと、たった今、自分が立っていた背後の木に雷が落ちた。

 そして、意識が戻ると宮の坂駅のデハのシートから転がり落ちていたのだ。

 
 あの猫が救ってくれたのか……猫のオイデオイデ……ねね子がこめかみを掻くのに似ている。というか、あの猫はねね子か?

「そうよ、ねね子が、この世界に誘ったのよ」

 え……?

 気づくと世田谷八幡の鳥居の前。おきながさんが猫姿のねね子をモフモフしながら立っている。

 そうだ、わたしってば、ねね子と下校途中に考え事をしていたのだ。転生する瞬間の夢

「もう一つ、わたしから」

「なんですか?」

「ここの妖たちは名前が無い者が多いの。安西信子と中村重一、いい名前を付けてもらってありがとう。これからもいろいろ出くわすでしょうけど、よろしくお願いするわね」

「妖たちは、おきながさんの知り合いなんですか?」

「知っているかどうかと言えば、知ってるわ。まあ、立ち話もなんだから、お茶でも飲みながら……」

 おきながさんに誘われ、初めて鳥居をくぐる。

 ニャーー

 ねね子が嬉しそうに鳴いて尻尾を振る。

 社務所でお茶を頂いたような気がするのだが、記憶が定かではない。

 
 気が付いたら、鳥居の外に戻っていた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

 

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鳴かぬなら 信長転生記 77『酔っ払いの茶姫 カマトトの大橋真に迫る』

2022-06-07 15:20:41 | ノベル2

ら 信長転生記

77『酔っ払いの茶姫 カマトトの大橋真に迫る』信長 

 

 

 コウチャン……と呼んでいただければ嬉しいです。

 

 エクボを浮かべてはにかむ大橋・紅茶妃は、戦略的可愛さだ!

 さっき、客楼の欄干に頬杖ついていたアンニュイはどこへやら、会談の席に着いた紅茶妃は初御目見えの時の蘭丸のように赤くなっている。

「お楽になされよ、大橋どの、いやコウチャン。期せずして、三国の次席が顔を合わせるのです。胸襟を開いて語らねば実を結ばぬ」

「それがダメなのですよ我が主。主は固すぎます。ただでも主は国主なんです。茶姫さん、紅茶妃……いや、コウちゃんよりも一個上のお立場。だから、ここは同格の丞相である孔明がお相手をするんです。顔出しが済んだら、さっさと執務室にもどってください。関羽・張飛の沙汰書とか書かなきゃならないでしょ」

「あ、忘れていた」

「仮にも、蜀の二大将軍を獄に繋いでいるのです、手続きはきちんとしてください」

「そうであったな、桃園の誓いのころのようなドガチャガでは示しがつかぬ。では、みなさんとは後ほど」

 慇懃に礼をすると、劉備は小姓一人を連れて亭(ちん)を出て行った。

 何事にも慇懃実直な劉備玄徳が居ては会談が硬くなりすぎるし、ただ一人国王であっては、話にも遠慮が出るだろうと孔明が提案して、城の中庭の亭(ちん=壁のない休憩所)で卓を囲んでいる。

 我が主・曹茶姫は、宴会の酒が抜けきっていない……ことを口実に、俺とシイが付き添っている。

 要は、遠慮なく、魏・呉・蜀、三国の本音をぶつけ合おうという会談だ。

 おそらくは、茶姫の転生国南辺打通が効いている。

 一万余の騎兵が、新式の装備に新式の鉄砲を担いでの進軍。信玄と謙信が自ら偵察に出た以上の関心があるに違いない。

 かと言って、三国志の国王が三人とも騒いでは、いかにも軽々しく鼎の軽重を問われかねない。

 そこで、ナンバー2同士の気の置けない鼎談という形式にしたのだ。紅茶、いやコウちゃんのアンニュイめかした緊張も演技っぽい。まだ少女の面影を残す成りたて呉妃に恥をかかせてはいかぬとか、国王玄徳と丞相孔明と示し合わせることまで読んでいるとしたら、呉の新妃もなかなかの狐だ。

 そして、それさえ読んで関羽・張飛の誘いにのって酔っぱらった我が茶姫はすこぶる付の大狐だ。まあ、そのお蔭で、俄か近衛騎兵の俺が同席できているわけだがな。せいぜい、新米らしくコウちゃんと新米比べといこうか。

「いやはや、茶姫さんのモデルチェンジは、この田舎の成都でも評判ですよ。孔明感服つかまつりましたぞ」

「はいコウチャンもですぅ! 建業(呉の都、いまの南京)にも噂は伝わって、孫権さまが『ぜひ、自分で見たい!』とおっしゃったのですが、孫策さまが『いずれは国王になる孫権が出向くのは軽々しい』とおっしゃって、新米妃のわたしならば、ちょうどいいし、コウちゃんの勉強にもなるだろうと……」

「ヒャヒャ、これは痛み入ります、えと……少佐、貴様が語ってみろ」

「え、俺、わたしが?」

「酔いが抜けておらぬ、ニイが言うことに違うことがあれば、その時その時に注釈をつける。だいじょうぶ、酔っても脳みそは起きておる……」

「あ、ヨダレ、もう茶姫さま~」

 シイが甲斐甲斐しくヨダレを拭いてやる。

「これは、羨ましき主従関係。我が主玄徳は、全くの謹厳居士で、デレルということがありません。その分、関羽と張飛がハメを外し過ぎて……いやはや愚痴が出てしまいますなあ。近衛騎士の職丹衣少佐ですね、あなたの噂も聞いております。どうぞ、茶姫殿の頭脳として遠慮なく語ってください」

「あのぅ、お二人は姉妹なんですよね!?」

 コウちゃんが目を輝かせる。

「はい、こちらは妹の市衣少尉です。縁あって姉妹で召し抱えられております」

「わたしも、縁あって妹の小橋(しょうきょう)と共に呉王のお世話になって……」

「なにぃ、姉妹ともども独り占めに!?」

 茶姫が、わざとらしく絡む。

「え、あ、小橋は周瑜の妻で、あ、その……そんな意味では(;'∀')」

 フルフルと手と首を振る。演技なのだろうが、反則的可愛さだ!

「ハハ、大きな意味で呉王の世話になられたということでしょう、分かっていますよ、孫策さんは、姉妹二人ともを独り占めにするようなお方ではないでしょう」

「は、はい、そうなんです。独り占めはいけないことですぅ」

 ポン

 孔明が膝を叩いた。

「それは、示唆に富んだお言葉ですよ、コウちゃん!」

「え、え、いまのがですか!?」

「はい、その通りです。あ、いや、わたしとしたことが、少佐の話の腰を折ってしまった。どうぞ、語ってください」

「はい、我々は一万の騎兵部隊ですが輜重を伴っておりません。輜重は逆回りのコースで洛陽に返してあります」

「えと、シチョウって市長さんのことですか?」

「これは失礼、少佐、説明してあげてください」

「はい、輸送部隊のことです」

「ああ、ロジスティックのことね」

「いかにも、輜重を伴わぬ騎兵は、三日も持ちません。食料も弾薬も背嚢に入れている分だけですから」

「しかし、その分、全力で駆けることができる。つまり、部隊のスペックが内外に示せるし、なによりの行軍訓練にもなる」

「おお、さすがは孔明殿」

「茶姫さん、起きてます?」

「………………そ、そう………」

「そう? 寝言ですか……」

「曹操陛下へのアピールが一番なのだと思っています」

「ほう、魏王への?」

「はい、騎兵というのは、歩兵と違って職業軍人です。給与も支払ってやらねなならず、日ごろから調練が絶やせません、馬と武器の手入れもなかなかで、いわば金食い虫。部隊の創設までは茶姫師団長の手でできますが、維持管理には国費が必要です。つまり、曹操陛下の了解と後押しがなければ続きません」

「なるほど、深慮遠謀なんですねえ……たしか、魏の輜重の司は兄君の曹素さんでしたね?」

「いかにも、輜重司令の任についてはおられますが、なかなか勇武の将であろうと拝察しております」

「お噂はかねがね、今回は、酉盃においてもご発展が過ぎ、茶姫殿が諫言なされたとか。この蜀におりましても聞こえております」

「あのう、ご発展とは?」

 コウちゃんがカマトトぶって首をかしげる。

「それは……ゴニョゴニョゴニョ……」

「ま、そんなことが(#°д°#)!?」

「その折り、身を挺して女たちを救ったのが、この職姉妹。茶姫殿は二人の類まれな武技と才を愛でてブレーンとなさっておられるのです」

 こいつ、蜀の田舎に居りながら、どこまで情報を握っているんだ。

 いかん、シイの目つきが険しくなってきた。

「ウ~、ちょっと気分悪くなってきた、あ、吐きそう……」

「茶姫さま!」

 茶姫が、吐きそうになって肩に寄り掛かってくる。

「暫時、中座いたします。シイ、肩を貸せ!」

 二人で茶姫を担いで亭を出る。

 念の入ったことに、茶姫は、そのまま客楼で寝てしまった。

 いやはや、三国志というのは予想以上に虚々実々の伏魔殿だ。

 茶姫を看病しながら思った。コウちゃんが「独り占めはいけないことですぅ」と口を尖らせたとき、孔明はポンと膝を叩いたぞ。孔明の奴、なにを考えて……。

 えい!

 シイは、蜀に来てからの事を紙飛行機にしたためると、高楼の欄干から飛ばした。

 紙飛行機は、函谷関からの上昇気流を受けて、みるみるうちに高みに飛んで視界没になったぞ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹(三国志ではシイ)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長)弟(曹素)
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  •  

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・018『スイカをぶら下げたおっさん』

2022-06-07 06:15:52 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

018『スイカをぶら下げたおっさん』 

 

 

 

 ねね子にはクセがある。

 
 時々、右のこめかみのあたりを掻くのだ。

 右手をグーにして、親指の第二関節のあたりで掻くのだ。爪で掻くと傷を付けたりするので親指の第二関節にしているのだろう。

 その仕草が、なんだかネコが顔を洗っているようなので、クラスのみんなからも「かわいい!」とか「もえ~!」とか言って可愛がられている。

 これをやっていると、人が集まって来る。

 可愛い仕草をしているネコを、つい構いたくなる女子の特性と言っていい。

 
 よし、今のうちだ!

 
 ねね子の周りに人が集まったのを幸いに、カバンを持って教室を出る。

 付いてくる者を袖にする薄情者ではないが、自然な流れであれば一人で帰りたい。去年は芳子と一緒になることが多かったが、生徒会役員になった芳子の放課後は忙しい。

 昇降口でローファーに履き替えて正門を目指す。

「ニャハハ、奇遇なのニャ!」

 正門を出たところに、もういる。

「おまえなあ」

「放課後は、みんな部活とか塾とかがあるニャ。華の高校二年生ニャ」

 いつもの下校になった。

 世田谷八幡の鳥居が見えてくる。いつものようにおきながさんが掃除をしている。

 おばさんのナリはしているが、神さまだ、頭を下げるだけだが挨拶をしておく。

 すると、おきながさんがねね子のように右手のグーでこめかみを掻く……いや、オイデオイデ?

 わたし?

 自分の顔を指さすと、チガウチガウ。あ、ねね子か。

 チ

 舌打ちが聞こえたような気がしたが「なんですかニャ~おきながさ~ん(^▽^)/」と、スキップしながら鳥居に向かった。

 鳥居の傍まで行くと、ねね子はネコの姿に戻っておきながさんに抱き上げられ、右の前足を持たれてバイバイさせられると、鳥居の内に連れていかれた。

 やっと気楽な一人下校になった。

 踏切が見えるところまで出てくると、スイカをぶら下げたTシャツ姿のおっさんが見えた。

 わたしの前を横切って東急と並行している道を小走りで去っていく。

 この時期にスイカにTシャツだと?

 小走りの背中を見ると、ぶら下げていたのを胸に抱える。スイカは見えなくなったが、瞬間見えたスイカは人の首に変わっていた。

 キャーーー

 反対方向で悲鳴が聞こえた。チラ見すると、O学園の女生徒が倒れていて、同じO学園やらうちの生徒やらが取り巻いている。

 
 あいつ、妖!

 
 見定めると同時に駆けだした。

 おっさんも全力疾走になる。

 お互いにこの世の者ではないので、あっという間に新幹線並みの速度になって、小田急線の豪徳寺駅の近くまで駆け抜けた。

 直進と思ったが、戦場で鍛えた感覚が『敵は脇道に入った』と警告している。

 一筋余計に直進したところで左に折れる。敵を惑わすためだ。

 左手は、広い墓地になっている。

 敵はスイカを抱えたまま、墓地の中をうろついている。気にしているのは東側、たった今、わたしが直進した道だ。

 
「おい、スイカを見せろ!」

 
 後ろから声をかけると、ビックリしたおっさんは立ち往生してしまった。

「い、いや、これは違うんだ(;'∀')」

「違うかどうかは、わたしが判断する。見せろ!」

「あ、あ……」

 観念して、おっさんは捧げ持つようにしてスイカを示した。

 それはO学園の女生徒の首だ。

 ただ、厳密な意味での首では無くて、首に凝縮させた女生徒の魂だ。

 まだ三十秒もたっていない。今なら間に合う。

「寄こせ!」

 首を取り上げると、わたしは地を蹴って飛び上がった。

 宮の坂駅に戻ると、倒れた女生徒を介抱する女性駅員と心配げに見守る人たちの輪が見えた。男性駅員がAED(自動体外式除細動器)を抱えて駅舎から出てくるところだ。

 AEDを使うと、衆人環視の中で裸の胸を顕わにされる。

 間に合え!

 上空から首を投げおろした。

 ズボっともゴホっとも聞こえる音がして、首は女生徒の体の中に吸収され、同時に呼吸が戻った。

 
 なんとか間に合った。

 
 その夜、気配に目が覚めて、窓から窺うと、門の前におっさんが立っている。

 害意も敵意も感じられないので、窓から静かに下りて行った。

 話をすると、もうこんなことはしないから名前を付けて欲しいと言う。

「お前もか……お前は、中村重一(なかむらしげかず)だ」

「あ、ありがとうございます」

 おっさんは、何度も頭を下げて去っていった。

 向かいの窓に気配。

 啓介の視線を感じる。

 おっと、パジャマのボタンが外れている。不自然にならないように前を掻き合わせて門から家に入った。

 カランコロン

 ドアのカウベルが鳴ってしまい、起きだした祖父母に説明するのに苦労した。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

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滅鬼の刃・25『親をなんと呼ぶか』

2022-06-06 16:32:01 | エッセー

 エッセーノベル    

25・『親をなんと呼ぶか』 

 

 

 自分の親をなんと呼んでいらっしゃったでしょうか。

 

 お父さん・お母さん  お父ちゃん・お母ちゃん  パパ・ママ  父ちゃん・母ちゃん  父上・母上  

 おっとう・おっかあ  おとっつあん・おっかさん  おでいちゃん・おもうちゃん  ムーター・ファーター

 ダディー・マミー   親一号・親二号  おとん・おかん

 

 散歩をしていると、たまに子どもが親を呼んでいるところに出くわします。たいてい、公園で遊んでいる小さな子が回らぬ下で母親を呼ぶ声です。

 たまに、スーパーとかで「おかあさん、これ買ってぇ」とか「お父さん、さき行くよ!」とかを耳にします。

 いちど、そばを通過中の車から「お父さん、ブレーキ!」という切羽詰まった呼びかけを聞いたことがあります。呼びかけたのは奥さんで、年恰好から見て旦那さんのことであったようです。

 自分の配偶者を「おとうさん」「おかあさん」と呼ぶのは日本だけではないのかと思うのですが、これは主題から外れそうなので、別の機会に触れたいと思います。

 思い返すと、友だち同士やご近所同士の会話の中で三人称として使われているのを耳にするのが大半なのだと思い至ります。

「きのう、お母さんと買い物行って……」「お父さん、会社の帰りに猫拾てきて……」「お母さん、めっちゃ怒って……」「うちのおとんも歳やからねえ……」など二人称として聞こえてくることが多いですね。

 近ごろは流行り病のこともあって、屋外や電車の中で人の話し声を聞くことも稀ですが、おおよそは、こんな具合なのではないかと思います。

 

 なぜ、名前のことを書きだしたかというと、孫の栞が、あまり「お祖父ちゃん」と言わなくなったからです。

 これまでは「お祖父ちゃん、ごはん!」とか「お祖父ちゃん、あした燃えないゴミだよ」とか「お祖父ちゃんの年賀状多いねえ」とか枕詞のように言っていました。

「ご飯だよ」「あした燃えないゴミ」「はい、年賀状」とかで済まされます。

 まあ、そういう年齢なんだろうと思っているのですが、ちょっと寂しいのかもしれません。

 

 小学三年生のとき、国語科なにかの授業で時間が余ったのか「うちで、親の事をなんと呼んでいますか?」と先生が聞いたことがあります。先生は、みんなに手を挙げさせ、学級役員選挙のように「正」の字を書いていきました。

「お父ちゃん・お母ちゃん」というのが一番多かったですね。次いで「お父さん・お母さん」。「父ちゃん・母ちゃん」はクラスで二三人、「パパ・ママ」と同じくらい少数派だったと思います。

 わたしは「父ちゃん・母ちゃん」と呼んでいました。

 近所の子たちは「お父ちゃん・お母ちゃん」がほとんどであったように記憶しています。

 近所のニイチャンが「パパ・ママ」と呼んでいて、ええしの子や! と、たじろいでしまったのを憶えています。

 上皇陛下の結婚パレードを、そのニイチャンの家で見ていました。

 白黒の14インチで、カメラが引きになって馬車全体が画面に収まるようになると、人物の目鼻立ちもはっきりしないくらいの画質でしたが、姉とニイチャンと三人で見ていてドキドキしたのを憶えています。

 馬車が何度目かのアップになった時、急に画面が歪んで上下に流れるようになりました。昔のテレビは不安定でした。

「ママー! テレビ変になったー!」

 ニイチャンが叫ぶと、エプロンで手を拭きながらママがやってきて「こうするとね……」といいながら、テレビを張り倒しました。

 パンパン!

 すると、テレビは正気に戻って、ご成婚パレードの続きを映し出します。

 ご成婚は、昭和33年ですから、リアル『三丁目の夕日』の鮮やかな記憶です。

 ニイチャンは、町内でただ一人、校区の違う小学校に行きました。

「やっぱし、ええしはちゃうなあ」

 同い年で、ひそかにニイチャンとの集団登校を楽しみにしていた姉は、残念を通り越して嘆息していました。

 

 孫の栞を引き取るにあたって、ちょっと勇気を出して聞いてみました。

「どうだ、お祖父ちゃんの事『お父さん』て呼んでみるか?」

 学校へあがると、いろいろあるだろうと思い、聞いてみたのです。

「………………………」

 栞は、沈黙をもって答えにしました。

 数秒、わたしの顔を見上げて俯いてしまいました。気が付くと、両手をグーにして目をこすっています。

「そうかそうか、むつかしいよな、むつかしいこと聞いてごめんよ。ま、いままで通りでいこうか、とりあえず」

 ひそかに『パパ』という呼び方も思っていたのですが、それは止めて正解でした。

 

 わたしは、両親の事を「父ちゃん・母ちゃん」と呼んでいましたが、両親は自分の親(わたしの祖父母)のことは「お父さん・お母さん」と呼んでいました。

 母の里は、蒲生野(いまの東近江市)の真宗寺院で、五人居た叔父叔母も母と同様「お父さん・お母さん」でした。

 おそらくは、最初に所帯を持った町のマジョリティーに合わせたものだと思います。

 小三の調査で少数派と知って少しショックでしたが。おそらく、日本人の四人に一人ぐらいは呼んでいたであろう、この呼び方は好きです。『ニ十四の瞳』だったと思うのですが、大石先生の受け持ちの子が、親の事をそう呼んでいて親近感を持ったのを思い出して、コーヒーを淹れなおしました。

   

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銀河太平記・112『沖縄植樹祭』

2022-06-06 10:13:14 | 小説4

・112

『沖縄植樹祭』心子内親王 

 

 

 パチパチさんたちが採取してきた新鉱石は『パルスギ』と名付けられました。

 

「どうぞ、殿下からお伝えください」

 市長と相談した社長は、村長さんや主席さんとも協議して、陛下への連絡を任せてくれました。

 陛下は、植樹祭のために沖縄に向かわれます。

 今年の植樹祭は、西之島の杉の苗が使われることになっているから都合がいいのです。

 苗の名前は『パル杉』

 火山灰地の西之島でも育つように食堂のお岩さんが趣味で品種改良していた杉。

「アハハ、いやあ、まぐれまぐれ(n*´0`*n)」と、頭を掻くお岩さん。

 どこからどう見ても食堂のおばちゃんなのですが、以前は大手銀行のキャリアで、趣味がバイオだという烈女さんです。

「野菜畑に防風林作りたくって、たまたまできたんだよ(^_^;)」

 育ちが早く潮風にも強いパル杉は、その道の人たちにも注目されて、海に囲まれた沖縄にも相応しいというので植樹祭に選ばれたのです。

 それに、パチパチさんたちがパルスギを発見した鉱脈の真上がお岩さんの畑で、ちょうどパル杉が植わっています。

「マスコミには、あくまでパル杉のご説明をさせていただくということになっていますから」

 社長の氷室さんは、いたずらっ子のようにウィンクしました。

 

 島から派遣されるのは、陛下といっしょに植樹する島の少年と少女。

 沖縄からも少年と少女が参加して、四人で陛下の植樹のお手伝いをします。

 わたしは、その随行者の一人として参加するのですよ。

 

「まあ、しんこだったの!?」

 

 陛下は目を剥かれました。

 子どもたちを控室で陛下に挨拶させたあと、帽子とメガネを取ったのですよ。

「はい、じつは、パル杉はパルスギの隠れ蓑なんです。しんこは、その御説明にあがりました」

「油断ならないわね、わたしは児玉元帥の変装だって見抜いたのよ」

「アハハ、島のスタッフは優秀ですから……これがパルスギですよ」

 ハンベをオフラインにして3D映像を出した。

「総理から話は聞いていたけど、ちょっと難しかった」

「はい、減衰率が0.000001%で、既存のパルス鉱の1/20でしかありません」

「ええと、そこなのよ1/20しか無くて、どうして優秀なの?」

「え、あ、アハハハ」

「わ、笑うんじゃありません(-_-;)」

「ごめん、伯母さん(^_^;)」

 睦子伯母は天皇陛下で、めっぽう頭のいい人なのですが、数学が苦手でいらっしゃいます。

 学習院の数学の授業も「微分は微かに分かる、積分は分かった積もり」で通してきた人。テストは予想問題の答えを丸暗記して、暗記力だけで評定4をキープしていたらしいのです。

「減衰率が1/20というのは……グリコのキャラメルご存知よね?」

「知ってますよ、高一の遠足で大阪に行った時、心斎橋のグリコマンと同じポーズで写真撮ろうとしたら先生に止められたもの」

「え、うちのお母さんはグリコマンで撮っていましたわよ」

「明子は次女のミソッカスでしょ、東宮とは扱いがちがうのよ」

「えと、グリコなんだけどグリコマンじゃなくてね、一粒300メートル」

「あ、うん。一粒のカロリーで300メートル走れるって意味よね」

「うん、あれをパルス鉱だとすると、パルスギは同じ大きさの一粒で6000メートルは走れるって感じです。それを減衰期の考え方で云うと、減るのが遅い。20倍もつって意味です。つまり、人に例えると、90歳で亡くなる人が1800歳まで生きられるという感じですね」

「……そうか、命の灯が消えるのが20倍遅い……ということね」

「うん、だから、これを宇宙船の動力源に使ったら、太陽系を飛び出すことが可能になる」

「うん、やっと結びついた。三百年前にガソリンエンジンで飛行機が飛んだのと同じ……それ以上の意味があるということね。やっと実感できた!」

「よし!」

「「アハハハ」」

 久々に伯母さんと笑い合えて嬉しかった。

 天皇には政策的な発言権は無い。日本国民に寄り添い励まして祈ることが三千年の伝統です。

 でも、意味を理解して寄り添うことが大事なんだ。意味も分からずに励ますのは、日本も日本人も損なってしまう。

 これを勧めたのは、越萌姉妹社のマイ社長、つまり児玉元帥その人であったらしい。

「ねえ、しんこちゃん」

「はい?」

「パルスギ、人間にも使えるといいのにね」

「伯母さん、使ってみたいんですか?」

 伯母さんだって女性だ、いつまでも綺麗でありたいんだ。

「そうじゃなくてね、わたしが1800ぐらいまで生きたら、皇位継承のややこしい問題に当分悩まなくても済むでしょ」

「伯母さん……」

「そんなわけにもいかないでしょうから……こころ子」

 う、真名で呼ばれた。

「西之島が一段落したら、火星に行きなさい。あなたのために……日本のために」

「え…………」

 言葉に困っていると、伯母さんは、こんなお話をし始めた。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源
  •  

 

 

 

 

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・017『転校生』

2022-06-06 06:25:47 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

017『転校生』  

 

 

 
 グ……なんでおまえが!?

 
 拍手で迎えられた転校生を見て、思わず叫びそうになった。

「じゃ、自己紹介」

 担任の京極先生に促されて正面を向いた顔は、あの猫田ねね子だ。

「今日から、皆さんと一緒に勉強します。猫田ねね子です。よろしくお願いしまぁす(o^―^o)ニコ」

 ペコリ

 頭を下げて、黒板に『猫田ねね子』と丸文字で書くと、クラスのあちこちから暖かい笑い声があがる。

「ニャハハ、マンガみたいな名前だけど、偉い人が付けてくれた名前で、自分的にはオキニです。呼び方は『猫田』でも『ねね子』でもかまいませ~ん」

 教室のあちこちから「かわいい!」「持って帰りたい!」「うふふ」「あはは」の声が上がる。

「席は、窓側の後ろから二番目。武笠さん、面倒見てあげてね」

 ゲ、なんでわたしの前なのだ!?

「武笠さん、よろ~(^▽^)/」

 笑顔で、そう言うと、トコトコとわたしの前の席に着いた。

 クラスみんなの注目が集まる。ちょ、ちょっと迷惑だぞ(-_-;)

 
 昼休み、校内を案内してやる風を装ってねね子を屋上に連れ出す。

 
「屋上は、生徒は立ち入り禁止なのニャ」

 開錠魔法で屋上のカギを開けると、イタズラっ子そうな目でわたしを見る。

「うるさい、なんで転校なんかしたことになってるんだ!?」

「名前なのニャ」

「名前だと?」

「女学生に名前つけてやったニャ?」

「ああ、あの表札泥棒か」

「安西信子ニャ」

「単なる思い付きだ」

「猫田ねね子よりはいいと思うニャ。ちゃんとした人間の名前ニャ」

「嫌なら、別の名前を付けてやる。付けてやるから、さっさと学校から消え失せろ」

「それはないニャ」

「なんでだ!?」

「……安西信子」

「単なる思い付きだ」

「あれが、あいつの本来の名前なのニャ」

「本来の名前だと?」

「ひるでには力があるのニャ」

「妖(あやかし)に人間の名前があるというのか? こないだのは、ただの三億円だったじゃないか」

「元は人間だった妖もいるニャ」

「しかし、ただの思い付きだぞ」

「だから力なのニャ、これからもそういうことがあるからニャ。ま、いいことしたんだから、お昼ご飯奢って欲しいニャア(⌒∇⌒)」

「学校に猫メシはないぞ」

「ニャハハ、人の姿の時は人のご飯食べるニャ、Aランチがいいニャ!」

「絞め殺すぞお!」

「ニャハハ、ひるで怖いニャ~!」

 絞めてやろうとしたら、元来がネコ、ニャンパラリンと空中二回転で避けられる。

 
 ねね子ぉ! 猫田さ~ん! ねね子ちゃ~ん! 武笠さんといっしょなんだ! よかったねー!

 
 地上にいる同級生たちがねね子を発見する。なんだか、楽し気にじゃれ合っているように見えてしまった感じだ。

 孤高の美少女で前生徒会長である武笠ひるでといっしょだということで、珍しくも好ましい組み合わせと歓迎されているらしい。

 しかたなく、ねね子にAランチを奢ってやる。

 ムムム……妙な展開になってきたぞ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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魔法少女マヂカ・276『位相変換した! してない!?』

2022-06-05 10:18:43 | 小説

魔法少女マヂカ・276

『位相変換した! してない!?語り手:マヂカ  

 

 

 ウワ! ドスン!

 

 目が覚めると、目の前にお尻があって、ビックリしてベッドから転がり落ちてしまった。

 イテテ……

 身を起こすと、詰子がお気に入りのパジャマの体を丸めて寝ている。

 寝相が悪くて足と頭が逆になっているんだ。

「ああ、目が覚めたんだ」

 背中から声がしたかと思うと、姉の綾香がトーストを齧りながら半開きのドアから顔を出している。

「夕べ、ドスンて音がしたら、真智香の部屋に詰子が戻っていてな。寝ているというか寝ちまってるんで、着替えさせて真智香の横に放り込んだんだぞ。お姉ちゃん、もう仕事いくから……」

「ちょ、お姉ちゃん……」

 リビングに出ると、我が姉は、パンプス履いてドアノブに手をかけている。

「あ、日付はリープした翌日になってるから、あと、よろ~」

 バタム

「行っちゃった……」

 カレンダーを見ると、確かに、原宿で大正時代に飛んだあくる日だ。

 原宿に戻って、高坂家の跡地である東郷神社に寄って、リープしたことをしみじみ噛み締めたんだけど、やっぱり、頭も体も完全には戻っていない。

「詰子、そろそろ起きなよ……」

 改めて驚いた。ベッドが微妙に大きい、セミダブルだ。

 ああ…………さらに観察すると、部屋も少し広くなっているのでベッドが大きくなっているのに気付かなかったんだ。

 念のため窓を開けて、表の様子を窺う。建物自体が拡大したのでも道幅が狭くなったわけでもない。

 どうやら、綾香ネエが魔法を使ったようだ。

 綾香ネエの本性は地獄の番犬ケロベロス。位相拡大魔法(周囲に影響を及ばさずに、対象物の寸法を変える魔法)を使ったんだ。

 ということは、これからは、詰子と同じ部屋で暮らせというわけだ。

 詰子の本性は、西郷さんの猟犬だ(上野の銅像の横でお座りしてるやつ)。いつも仲間の犬といっしょに寝起きしていたはずで、一人にしてやるのは可哀そうだと、綾香ネエは判断したんだろう。

 まあいい、詰子も大正時代では大活躍してくれたんだ。

 

「行くよ」

 朝ごはんも終えて詰子を急かせる。

 ガチャン

 お向かいさんと同時にドアを開けて、またビクッリ。

「ブリンダ!?」

「あ、マヂカ!?」

 ブリンダは、部屋ぐるみ位相変換……ではなくて、位相転移させられたようだ。特務師団が出撃するときも、この魔法を使う。出撃の様子を見せるわけにはいかないからね。

 ブリンダはドアを開ける直前までは自分の家に居たという顔をしている。

「フフ、これは、なにか起こる前兆かもですね(^▽^)」

「喜ぶな猟犬」

「ムー、詰子は、もう猟犬じゃないです」

「で、詰子、虎ノ門はどうなったの?」

「うん、難波大助は道路工事に紛れて爆薬を仕掛けていたんだ。ノンコが気づいて、建物の二階で爆破スイッチを押す寸前に霧子が飛び込んで取り押さえて未遂で終わったんだよ」

「爆発はしなかったのね?」

「したよ。でも、車列はノンコが体張って停めてたから、何事も無かったと思う」

「……そのようだな。ネットで検索しても同じ内容が出てくる」

「よかった……」

 わたしも自分のスマホを見て安心する。

 

 あ、みんなあ!

 

 大塚台公園まで来ると、交差点の向こうで友里がピョンピョン飛びながら手を振っている。

 そうだ、友里とは原宿でジャンプして以来だ。

 こちらの時間では、たった半日しか経っていないけど、準魔法少女の友里には、その半日の間に大変なことが起こっていて、時間経過も半日どころではないことが分かっているんだ。日光大冒険のパートナーは友里だったしな。

「あれから、司令に聞いて『大丈夫だ、心配するな』って言われてたんだけどね、連絡とったらブリンダまで消えてしまったし、めちゃくちゃ心配だった。よかったよ、みんな無事でぇ!」

 信号が青になるのももどかしく、友里は横断歩道まで飛び出して、三人を抱くようにして喜んでくれる。

「あ、ありがとう。でも、歩道に行こ(^_^;)」

「う、うん。調理研で帰還のお祝いしなくっちゃね」

「うわ、なんかご馳走作るんだよね!」

「詰子、ヨダレヨダレ」

「あ、ジュル」

「もう、子どもかよ」

 ブリンダがティッシュで拭いてやって、四人で懐かしく笑ってしまう。

 

 ゴゴゴゴゴ

 

「「「「え?」」」」

 突如、聞き覚えのある轟音が空蝉橋の方から聞こえてきた。

「なんで……?」「あれえ?」「なぜだ!?」「見えてる!?」

 空蝉橋の向こうから、特務師団の高機動車C58が位相変換もせず、轟音を上げて豊島区の空に駆けあがっていく!

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • ファントム      時空を超えたお尋ね者

 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・016『表札をとる女』

2022-06-05 05:37:31 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

016『表札をとる女』  

 

 

  雨が降るぞ。

 思わず言ってしまった。

 

 表に出ると、啓介が掃除しているのだ。

 いつもは、小母さんが家の前を掃いている。

「お、おまえのためだ」

「ほう」

 つい、意地悪な微笑みになってしまう。

「じつはな……」

 思い切り顔を寄せてくる。幼なじみだからの無作法、ちょっとは戻ったか……と思ったら、磁石が反発するように距離を戻す。

 反応で分かる、わたしの匂いだ。朝シャンと十七歳の女の子の匂いにクラっときたんだ。

「早く言え」

 気づかないフリして、こちらから寄せる。

「ひょ、表札が動くのを見たんだ」

「動いただけか?」

「気配が、気配がしたんだ。だれかが、おまえんとこの門に近づいて表札に触ってる」

「姿を見たか?」

「いや、気配だけだ。気配だけだけど、北の方から来て表札を触ったあとで豪徳寺の方へ行った。夜明け前だ」

「そうか、ありがとう」

 啓介の肩に手を置いて礼を言う。肩越しに玄関が見えて、戸の隙間から小母さんが微笑んでいるのが分かる。

 小さく微笑んで小母さんに挨拶して学校に向かう。

 
 あくる朝、裏の戸口から出て、うちの門が見える角で気配を殺す。

 
 通りの突き当りから滲み出るように人影が現れる。まさに人影、ボーっとしたシルエットだ。啓介は、これを感じたんだ。

 目を凝らすと、モンペに防空頭巾の女だと分かる。

 防空頭巾に隠れて表情までは読めないが、若い女だ。上はセーラー服の上にちゃんちゃんこ、肩にはズックの鞄をかけている……この時代の人間じゃない、妖(あやかし)だ。

 女は、通りに面した家々の表札を見ている。

 わたしの家の前まで来ると、立ち止まって表札に手をかけた。

『……まだ取れない』

 そう言うと、表札を睨んだまま後ずさりして、ため息をついて歩き出した。

 わたしの前を通ると、豪徳寺の方角へ向かった。

「ちょっと待て」 

 声をかけると、ビクッとして振り返る。

「なんで表札をとる」

 ズックの鞄には表札がいっぱい詰まっている。

『欲しいの表札が、貴女の家のを取ったら満願なの』

 意味不明だが、女から受けるオーラは剣呑なものだ。見過ごすわけにはいかない。

「成敗する」

 決心すると、右の手の平に実感。オリハルコンが光をまとって実体化する。

『い、いやあああ』

 オリハルコンを上段に構え、一気に間合いを詰める。

 妖とは言え、一撃で仕留めてやらなければ哀れだ。

 ん?

 胸には、葉書ほどの布が縫い付けてあって、住所、氏名、血液型の項目があるが、いずれも滲んでしまって読めない。

「おまえの名前は?」

『……分からない』

 魂の底が抜けたような声で言う。

 とたんに成敗する気が失せ、オリハルコンが光を失う。

「……名前を付けてやろう」

『ふぇ?』

「お前は、安西信子だ」

『あんざいのぶこ……安西信子なの?』

「そうだ」

『……嬉しい』

 嬉しそうに微笑むと、女は数えきれないほどの光の粒になって空に昇って行った。

 ガチャガチャガチャ

 数十枚の表札が地面に残され、拾い集めて警察に届けた。


 警察の帰り道、オリハルコンが現れた不思議を思う。

 三億円の妖を相手にした時には、我が愛刀のオリハルコンは現れなかった。

 エイ

 小声で掛け声を発しながら小さく手を振る……オリハルコンは現れない。
 でも、さっきは現れたんだ。気を取り直して繰り返してみる。

 ……エイ!……エイ!……エイ!

 シャキーン

 小声だったせいか、果物ナイフほどの大きさで現れた。人通りのあるところでははばかられるので、すぐに消して、豪徳寺のわき道に入ったところで、本格的にやってみる。

 セイ!!

 シャッキーン!

 見事に我が佩刀は具現化したぞ!

 しかし、かすかに腹部に違和感。

 ウ……オリハルコンの具現化は、出べその出現とセットになっているようだ(^_^;)

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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せやさかい・312『これでカシコなる!』

2022-06-04 15:13:02 | ノベル

・312

『これでカシコなる!』さくら   

 

 

 オシ! これでカシコなる!

 

 頼子さん手づからお御守りを渡されてガッツポーズ!

 頼子さんの右にはソフィー! 左側には留美ちゃんとメグリン!

 頼子さんは言うまでも無くヤマセンブルグの王女さま! ソフィーは文字通りのガード! 見た目も実質も優等生の留美ちゃん! 身の丈178センチの守護神みたいなメグリン! そんで後ろの授与所(神社の売店)にはニコニコと福の神みたいな神主さん(ペコちゃん先生のお父さん)。これで酒井さくらは、もう欠点二個挽回どころか、優等生の仲間入り間違いなし!

「あ、ありがとうございます!」

 パチパチパチパチ!

 みんな拍手してくれて、みんなで拝殿の前に立ってトドメのお参り!

「さくらが、目出度く欠点を回復して賢くなりますように!」

 頼子さんが声に出してお願いしてくれて、全員で一礼。

 そんでもって、鳥居を出る時に納めの一礼。

 ゴン

 鈍い音がしたかと思うと、守護神が頭押さえてる。

「どないしたん?」

「お辞儀したら、鳥居に頭……」

「だいじょうぶ?」

「だいじょうぶ、ちょっと打っただけ……」

 よう見ると、鳥居の幅は女子五人が横並びになるには、ちょっと狭い。

 それで、頭を下げた拍子に守護神メグリンは鳥居の柱に擦るようにして頭を打ったんや。

 よう見ると、鳥居は上に行くほど微妙に内側に傾いてる。というか、末広になってて、目出度さを表してるんやと思うんやけど。それで、メグリンは目測を誤って、頭を打ってしもたんや。

 よう見ると、神社の規模の割に鳥居が小さい。

 ペコちゃん先生も、神社の仕事するために近場の聖真理愛に就職した言うてたし、神社、ちょっと苦しいんちゃうやろか。

「よし、あたしがカシコなって、将来お金持ちになったら鳥居を寄進しよ!」

 ちょっと気が大きなってしもた。

「この鳥居は二の鳥居ですねんわ」

 お父さんの神主さんが寄ってきて説明してくれはる。

「え、ということは、別に一の鳥居があるんですか!?」

 一同を代表するように頼子さんが質問。

「はい、あっちの方に」

 お父さんが指差したのは、鳥居前の道をはるか東の方。

「え、あれは別の神社のじゃ?」

 鳥居の向こうには、こんもりと緑が茂ってる。

「あれは、昔からの庄屋さんのお屋敷です」

「ということは、この道全部が参道なんですか!?」

 道は、どう見ても500メートル以上はあって、途中を四車線の大きな幹線道路が横切ってる。

「参道を兼ねた馬場なんですわ。昔は、一の鳥居から二の鳥居まで馬を走らせて、奉納競馬をやってたんです」

「そ、それは知らなかったデス!」

 ソフィーが代表するように感動の声を上げた!

「うん、あの四車線からあっちは散策部でも行ったことがないからね」

「それやったら、いっかい観に行ったらよろしい、大阪市の参考文化財にも指定されてるさかいにね」

「うう……行ってみたい」

「殿下、きょうは、総領事と会食の日です。五時半までに領事館に戻らなければなりません」

 ソフィーがガードモードの小声で呟いて、頼子さんは唸った。

「よし、そろそろ散策部の活動も本格化するからね。みんなもそのつもりで!

 おお!

 みんなも調子を合わせて、うちの成績不振が、みんなのテンションをあげる結果になった(^_^;)

 めでたしめでたし。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
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くノ一その一今のうち・6『百地芸能事務所・1』

2022-06-04 10:46:06 | 小説3

くノ一その一今のうち

6『百地芸能事務所・1』 

 

 

 ほう……きみが風間本家二十一代目か……

 

 たっぷり十秒ほどかけて、変態さんみたいにジロジロと社長が見る。

「あの……紹介状と履歴書……」

 視線に耐えられなくなって、二つの封筒を社長机に差し出す。

「これはご丁寧に……」

 封筒を手にすると、そのまま二秒間ほど見て、封も切らずに引き出しにしまった。

「あ、あの……」

「大事なことは、封筒の方に書いてあるんだ。忍者にしか見えない字でね」

 ほ、ほんとかなあ……。

「十七歳で覚醒……その子さんは『遅咲きではあるが、開祖に劣らぬ力を秘めている』と書いている」

「え、そうなんですか?」

「だから、よろしく鍛えてやってくれと結んでいる」

 そ、そうか……ここ何日かのニャンパラリンとか、自分でもビックリするくらいの能力だもんね。

「というのは時候の挨拶の書式みたいなもんだ」

「え?」

「あるだろう『謹賀新年』とか『新緑の候、貴兄におかれましては、益々ご清祥のことと存じます』とか、『新緑の野山に萌える今日この頃』とか『転居いたしました、ご近所にお運びの節はぜひお立ち寄りください』とか」

「え、あ、そうなんですか?」

「その行間に滲むものが本題なんだが……まあ、それを明かすわけにはいかんがな。取りあえず風魔その。今日から君は、百地芸能事務所のアルバイトだ」

「はい!」

「申し遅れた、わたしは百地芸能事務所社長の二十代目百地三太夫だ。呼び方は社長でいい」

「はい、社長!」

「うちはアクションとか殺陣とかを中心とする芸能事務所なんだがね、それだけでは食っていけないから、舞台やテレビの仕出しや着ぐるみショーとか、それに類する各種業務もやっている。そのはまだ高校生だからシフトは考慮する。考慮するにあたっては、ちょっとテストをやっておきたい」

「はい」

「これに着替えて、この地図に沿って歩いてきてくれ」

「歩いて、どうするんですか?」

「途中に課題を仕込んである、いくつこなせるか。こなし方も含めてのテストだ」

「は、はい」

 

 倉庫兼用の更衣室で着替えて事務所の外に出る。衣装は事務所のロゴが入ったジャージ。渋いダークグレーかと思ったら、元は黒だったのが色褪せてるだけで、片方の膝と肘にはツギがあたってるし、すごい石鹸のニオイするし(;'∀')。

 まあ、石鹸のニオイがするってことは、いちおう衛生には気を遣ってるんだと納得しておく。

 でもね、足もとが地下足袋。

 地下足袋ってのが世の中に存在するのは知ってたけど、見るのは初めてだし、むろん履くのは初めて。

 地下足袋って踵が無いんで、ちょっと違和感。地面に足の裏全体がペタンとくっつく感じ。

 

 地図を見ながら南へ……古本屋さんが並んでる通りに出る。

 普通のお店って、本屋さんでもエアコンとかあるからドアが閉じてるとこが多いんだけど、古本屋さんは、どこも開けっぴろげ。開けっぴろげと言っても、商店街の八百屋さんとか魚屋さんてほどじゃない。たいていガラスの向こうにいっぱい本が積んであって、表にも本棚やワゴンが出てて、その隙間みたいな入り口が開きッパになってる。

 チラ見すると、ワゴンには税込み百円均一で文庫なんか並んでる。新刊で七百円も出して買ったラノベが百円。なんか悔しい。

 いっしゅんゾワってした!

 思わず身構えると、お店の中から本が飛んできた!

 ブン!

 鼻の先五ミリくらいのとこを、ごっつい外箱の付いた本!

 すぐ横を反対方向に歩いていた人が、キャッチして、そのまま歩き去っていく。

 おっかねえ!

 気を取り直して歩き出す。

 シュッ! シュシュッ! ブン! ブン! シュシュッ!

 なんと、二三軒おきぐらいに本が飛び出してくる! 大きさはさまざまだけど、みんなケースに入ってて、当たったら気絶してしまいそう。打ちどころ悪かったら死ぬよ!

 シュッ! シュシュッ! ブン! ブン! シュシュッ! ブン! ブン!

 気が付いたら、全力ダッシュで古書店街を駆け抜けていた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生
  • 風間 その子       風間そのの祖母
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長
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漆黒のブリュンヒルデQ・015『ひるでの誕生日』

2022-06-04 06:43:14 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

015『ひるでの誕生日』  

 

 

 
 ガラにも無く余韻に浸っている。

 
 この異世界に来て三日目、祖父母が誕生日を祝ってくれたのだ。

 この三日、二人とは挨拶以上の会話はほとんどなかった。

 学校でもコワモテの前生徒会長で、話しかけてくるのは福田芳子だけだ。父オーディンが設定に手を抜いたのかと思ったりしたが、今夜の祖父母は饒舌だった。

「最初は戸惑ったのよ、生まれたって言うから、おじいちゃんと二人、矢も楯もたまらずに飛行機に乗ってベルリンまで行ったのよ。生まれたばかりのひるでは、色白の、とっても清げな赤ちゃんで、これがわたしの孫だって、最初は実感できなくてね」

「そうだったの?」

「ああ、オレもばあさんも胴長短足の平たい顔。しずく(母)も一筆書きで描いたようなうりざね顔。それが、教会のフレスコ画に描かれた赤ちゃんのように色白で彫りの深いベッピンさんだ」

「ハハ、赤ちゃんにベッピンさんもないでしょ」
「あるのよっ! ね、まるでマリアに抱かれた赤ちゃんのキリスト!」
「うんうん」
「ハンス(ドイツ人の父)に言われて、やっと抱っこしたら、ねえ……」
「おれたちの顔見て、ニッコリ笑ってくれて……なあ、婆さん」
「匂いがするのよ、赤ちゃんの匂いが。それが、赤ちゃんの時のしずくといっしょで、ああ、わたしたちの孫なんだって実感できたのよ。ほんと、ベルリンまで行って正解だったわ」
「それでも、オレはどこか気後れしたんだが、しずくが耳打ちしてくれたんだ『この子、お父さんと同じ出べそなの』ってな」

―― で、出べそ!? ――

 ひそかに狼狽えたぞ。この世界に転移して三日、風呂にも入ったが出べそには気づかなかった。いや、デフォルトなので意識しなかっただけか(;'∀')? 思わずへそのあたりをさすってしまった。

「わたしは気にしたんだけどね、しずくもハンスも平気だし、成長すれば普通になるってお医者様もおっしゃったとかで。実際、うちに来て幼稚園に上がるころにはお医者様の言うとおりになったしね」

 な、なんだ、そうだったのか(^_^;)。

 それから、写真を出したり、わたしが幼稚園や小学校だったころの作文やら図工の作品やらを出してきて、深夜まで語り明かした。

 全て、わたしが、この世界に転移するについて作られた情報ばかりだ。

 この老夫婦……お祖父ちゃんお祖母ちゃんにとって、ひるでという孫娘は生きる希望であるにちがいない。

 かりそめの祖父母と孫娘だが、この愛情には応えなければならないと思った。

 バースデイプレゼントのリュックは三日前に不可抗力で見てしまっているので、驚いてあげるのに苦労するかと思ったけど、昔話に十分感動した後だったので、素直に喜ぶことができた。

 
 ひるでぇ、もう遅いからお風呂入ってしまってぇ。 

 階下から祖母の声、時計を見ると日付が変わりそうだ。

「うん、いま入る!」

 
 湯船に浸かって、念のため確認する。よしよし、出べそじゃなかった。

 お腹を撫でながら思った。祖父母には孫娘はおろか、一人娘のしずくもいないのだ。みんな、わたしが転移するために老人夫婦の生活に割り込ませた設定だ。設定だが、孫娘のわたしを思う気持ちに嘘はない。

 あの二人には孝養を尽くさねばと思う。

 ヘクチ!

 我ながら可愛いクシャミが出た。

 ん?

 湯船の中をうかがうと、戻ってしまっていた……出べそが(;'∀')!

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の化身
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
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ピボット高校アーカイ部・10『ピカピカの看板』

2022-06-03 09:49:11 | 小説6

高校部     

10『ピカピカの看板』 

 

 

 あ……

 

 一瞬目をつぶってしまった。

 角を曲がって校門が見えてくると、朝日が学校の看板に反射して眩しかった。

 入学して一か月がたったけど、こんなに眩しく感じたのは初めてだ。 

 朝日と看板の微妙な角度で目を刺すんだろう。五歩も進むと眩しくなくなるが、その刺激で、思わず校門を潜るまで、看板を見つめてしまった。

 

 PIVOT  HIGH  SCHOOL(ピボット高校)

 

 英語の横文字表記の下に2ポイントほど小さな日本語の校名がレリーフになっていて、朝日が反射しなくてもピカピカ。

 入学式の時は大きな『2022年 ピボット高校入学式』の立て看板の横で写真を撮った。

 門扉の横のレンガ塀に学校の看板があるのは分かってたけど、マジマジ見るのは初めてだ。

 英語の横文字は、古めかしい亀の子文字だ。

 今どき、こんな古い書体じゃ読めないだろう……まあ、書体を含めてのデザインなんだろうけど。ひょっとしたら著作権があるのかも……と思いつつ、一時間目は体育で、早く着替えて移動しなくちゃと思ったとたんに忘れてしまった。

 

「ちょと、看板を磨いていたんだ」

 

 部室に入ると、マネキンには、いつもの制服ではなくてジャージがかけられていた。そのジャージから、クレンザーのような匂いが漂っている。

「あ、先輩が磨いたんですか?」

 今朝の看板が浮かんできた。

「おお、気が付いたか(^▽^)」

 なんだか、すごく嬉しそうな顔になる。

 素の顔でも美人なんだけど、笑顔になると、ちょっと反則なくらいの可愛さが加わる。

「あ、でも、授業は出てたんですよね?」

「ああ、むろんだ。昨日一度磨いたんだけどな、なんだか足りない気がして、六時間目に、もう一度やったんだ」

「サボリですかぁ?」

「人聞きの悪いことを言うな、自習だったんだ」

 自習でも、終礼はあったんだろうけど、深くは追及しない。

「でも、なんで先輩が看板磨くんですか?」

 いつものようにお茶を淹れながら背中で聞く。ひょっとして、なにか悪さをして、その罰にやらされてた?

「愛校精神だ」

 青信号で道を渡りました的に当たり前の答えが返ってきた。でも、愛校精神で看板を磨くというのは、青信号の上に、手を挙げて渡りましたというぐらいに珍しくて、わざとらしい。

 でも、指摘すると、きっと顔を赤くしてワタワタしそうなので追及はしない。

「お、今日はケーキですか!」

 お茶を飲むときには、なにかしらお菓子が載ってるテーブルに、今日はコンビニのそれよりは二回りも大きなショートケーキが載っている。

「ひょっとして、先輩のお手製?」

「バカ言うな、自慢じゃないが、そういう乙女チックなことは苦手だ」

 お手製と思ったのは、ちょっと大振りなことと、作りがザックリしていたからだ。

「駅前のポッペってパン屋がケーキも作ってるんだ。まあ、食え」

「いただきます…………おお!」

 ちょっとビックリした。どうにも遠慮のない甘さなのだ。

 今日は体育もあったし、お昼を食べたとはいえ、高校生が放課後にいただくには、ちょうどの量と甘さだ。

「ハハハ、男が美味そうに食べる姿はいいもんだな」

「看板見て、改めて思ったんですけど、なんで英語表記の方が日本語よりも大きいんですか?」

「英語じゃないぞ、スペルは同じだがドイツ語だ」

「ドイツ語?」

「ああ、ピボッ ハイスクールだ」

「え?」

「英語では、ピボット ハイスクール。微妙に違う。だから亀の子文字で書いてある」

 あ、そうか、あの書体はドイツって感じだ。

「この学校は、百年以上前にドイツ人が作ったんだ。ホームページに書いてあるだろうが」

「あ、えと……」

 あんまり読んでいない。二校落ちた後、ここしかないから入ったんで……笑ってごまかす。

「PIVOTというのは、日本語で要という意味だ」

「ああ、要市の要」

「昔は、要中学とか要女学校とかがあったからな、差別化の意味も込めてドイツ読みにしたんだ」

「ああ、そうだったんですか」

 納得はしたけど、それほど感心はしない。街の名前が要市(かなめし)だ。

 僕の覚めた反応に興ざめしたのか、先輩は、この可愛い口がここまでいくかというくらいの大口でケーキにかぶりつきながらパソコンを操作した。

「よし、今日の部活は、ここだ!」

 思い至った先輩は、口の端にベッチョリとクリームを付けて、いかにも「これから悪戯をやるぞ!」というわんぱく坊主の顔になっていた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなかびょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなからこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長

 

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