通学道中膝栗毛・43
もともと、わたしの部屋はお父さんとお母さんの共用の物置部屋だった。
夫婦の事情で整理しなくてはならなくなった時に、どうせやるなら、当時赤ん坊だったわたしの部屋になるように片づけたらしい。
しかし、何事も徹底的にやることが苦手な両親は、部屋のあちこちにモノを残したままわたしに譲った。そして、いつの間にかわたしの持ち物の中に混じってしまったんだ。
薄型プレステ2は、そういうモノの一つで、本棚そのものがピンク色であることに紛れてしまい、モナミに指摘されるまで気づかなかった。両親が学生時代に使っていた英和辞典や国語辞典に混じって縦置きにされていたので完全に紛れてしまったんだ。
大型ってか、初代のプレステ2は知っている。ずっしりとごついフロントローディング式で、ソフトを入れる時、いちいち受け皿が出てきて、いかにもこれから仕事をしますって感じの働き者。うちのリビングに残っていたんだけど、受け皿の動作が悪くなったこととソフトを読まなくなったことで、複雑ゴミで捨てられた。
えーーーー! もったいない!
そう叫んだのは、その夜、うちにやってきたモナミだ。
ピンクの小型も試しにDVDを掛けてみたら、ロゴマークから先に進まない役立たずだった。
上蓋をパカって開いてソフトを掛けるのが「オーーノスタルジー!」って感じで気に入ったんだけど、使えなくては存在意味がない。こりゃ月末の複雑ゴミだとメールしたら、前回同様アケミさんの運転の自家用車でやってきたのだ。
「これはね、ピックアップレンズが汚れてるんだよ、クリーニングして調整してやれば、元通り元気な子になるから!」
直す気満々でモナミは目を輝かせる。
「でも、DVDなら他のもで観れるし、プレステ2のソフトとかも無いし」
「そんな、直せば直る子を捨てようと言うの!?」
「あ、だって、使わないし……」
「それで捨てようなんて、ナイチンゲールの精神に反するわ!」
あんたは看護師か!?
「まっかせなさーい!」
宣言したモナミはさっそくプレステ2を分解し始めた。
「きったねー!」
小さなボディーの中によく詰まっていたなあってくらいのホコリとヤニだ。え、ヤニ!?
「これ、相当タバコ喫う人が使っていたんだなあ」
うちの両親は昔はタバコを喫っていたそうだ。あ、そうかくらいに受け止めていたんだけど、プレステ2の汚れ具合から見ると、とんでもないヘビースモーカーであったようだ。
「まあ、ファンが入ってるから空気清浄機みたいに吸っちゃうんだよねえ……よいしょっと、ほれ、ボディー洗って。うん、ふつうに水洗いでいいから」
ザザッと洗ってくると、モナミはティッシュや綿棒で中身をクリーニングしていた。
「なんの毛だろう……ワンコ? ニャンコ?」
「動物を飼ってたなんて聞いてないよ」
「ま、いいや。えーと、ここがピックアップで、これをキレイキレイして……ほんで、横のポチっとしたとこが出力調整、これを五度ほど回してやって……」
直った!
無事にDVDが再生できた! でもDVDだったら他のハードでも再生できるんだけど。
「ゲーム機はゲームをやってこそのゲーム機でしょ!」
「だって、ソフトないよ」
「持って来たわよ!」
モナミはバッグの中からニ十本ほどのソフトを取り出した。
「これあげるから、ちょっとやってみ。ほら、メモリーカードも二つつけとく。えーと、まずはFFX!」
FFXはプレステ3のリマスターを持っているんだけど、せっかくのモナミの熱意に付き合うことにする。
「やっぱ、ゲームは本来の筐体で本来のゲームをやってやらなきゃね」
その夜、わたしとモナミは、ユウナが召喚士になってビサイド島をティーダたちといっしょにザナルカンドを目指して出発するところまで頑張ったのでした……。