通学道中膝栗毛・45
今夜のモナミは来た時から汗みずくだった。
「なんで汗かいてんのよ?」
「ちょっと忙しかったの! それより、今日はキーリカ出発するよ!」
「栞さま、シャワーをお借りできませんか。 このままゲームをやってはモナミさま風邪をひいてしまいます」
「だ、だいじょうぶ……クシュン!」
「もーー、さっさと入っといで、こないだ入ったから使い方分かるでしょ」
「モナミさま」
「わ、分かったわよ。ザコは相手にしてもいいけど寺院には入っちゃダメだよ、わたしが付いてなきゃ全滅するんだから」
「うん、分かった分かった」
「はい、これ着替えです。ちゃんと体を拭いてから着てくださいね」
「分かってるって!」
モナミはお風呂セットを持って階下の風呂場へトコトコと下りて行った。
かわいい足音がお風呂場に入るのを確認してアケミさんは口を開いた。
「お屋敷以外で、あんなに自由に振る舞われるのは珍しいんですよ」
「え、あ、そうなんだ」
「昼を過ぎたころからソワソワされて、栞さまの家に行くのがとても楽しみなんですよ」
「そうなんだ」
アケミさんも打ち解けた様子なので、モナミのことを聞いてみようかと思った。でも、わたしが質問する前に、アケミさんが話題を振って来た。
「なぜポップコーンなのか分かります?」
モナミは、今日もポップコーンのバレルを持ってきている。
「好物なんですよね?」
「いちばんの好物は芋清さんのお芋なんです」
ああ、そうだ。モナミとの付き合いは、わたしが芋清おばちゃんに代わって出前を届けたことだったんだ。
「でも、お芋だと、ポロポロこぼしてしまわれるんです。特にゲームなんかに熱中してしまうと……ね」
「そっか、かと言ってポテチだと、よけいにカスが飛び散るし」
「ええ、もともとポップコーンは映画館では定番ですね。あれは、映画に興奮した観客が投げても大丈夫なように、アメリカで考え出されたんです。通路に飛び散っても、お掃除楽ですから」
「ああ、そうなんだ!」
それからアケミさんはうまく話題を誘導して、モナミのことになるのを回避しているような気がする。
「モナミさまの事は、ご自身でお話になるまでお待ちに……あ、あがってらっしゃいました」
ピンク色のパジャマで濡れた髪を拭きながらモナミが戻って来た。
「アケミ、おねがい」
一言言うと、ペチャンコ座りになってパジャマの前ボタンを開けた。
「やるんですか?」
「ゲームはリラックスしてやりたいの!」
「はい、承知しました」
アケミさんは合切袋を思わせるトートバッグから……なんとシッカロールを取り出した!
ホタホタ ホタホタ ホタホタ
シッカロールをはたく音と、赤ちゃんを思わせる穏やかな香りが部屋に満ちた。
気持ちよさそうにシッカロールをはたいてもらっているモナミを笑いそうになったのを必死で堪える。目の前で、こんな姿を披露するのは、モナミがわたしと我が家に心を許している証拠なんだから。
今夜はキーリカをコンプするつもりだったけど、シンの犠牲者を異界送りするユウナが素敵すぎて、パソコンでユウナを検索、そこからユウナのコスプレの動画鑑賞になってしまい、ゲームには入れずに終わってしまった。