大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ書評『スティーブン・ハンター“第三の銃弾”』

2017-01-20 06:27:13 | 映画評
・タキさんの押しつけ書評
『スティーブン・ハンター“第三の銃弾”』




昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ

これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に流している書評ですが、もったいないので転載したものです。



ハンターの“スワガー・サーガ”最新刊にして最上級ミステリーです。

 スティーブン・ハンターはアメリカ地方紙の映画評論をスタートにガンアクションスリラーの書き手として、頂点に君臨しています。代表作“極大射程”はマーク・ウォールバーグ主演で映画化(面白かったけど原作に比べると数段落ちる)されています。
 当初は大規模軍事作戦物を書いていましたが、ベトナムでの天才スナイパー(狙撃手)ボブ・リー・スワガーを主人公とするシリーズで一気にこのジャンルのトップに躍り出ました。シリーズはボブの父親アール・スワガー、ボブの息子クルーズを主人公とするものもあり、親子三代の“スワガー・サーガ”になっています。
 ハンターには独特の語り口があり、かつ 銃に関する膨大な知識が解説され、またそれがストーリーの重要部分になりますから、銃に関心のない方には少々辛いかもしれません。

 しかし、本書は一読に値すると確信します。

 本書“第三の銃弾”とは1963年テキサス州ダラスにおいてJFケネディの頭蓋を砕いた三発目の弾の事です。
 JFK暗殺はテレビの初衛星中継の日に偶然合致、中継を見る為に多数の日本人がテレビの前に座っていた所に いきなりニュースとして流れました。 私は10歳でしたが 当時受けたショックは今でもはっきり覚えています。犯人は2時間後に捕まったリー・ハーベイ・オズワルド(以下LHO)。彼は共産主義者であり、一時期ソ連邦に亡命していた経歴があり ソ連情報局の暗躍が疑われましたが、翌日 移送されるLHOをジャック・ルビーというストリップクラブ経営者が射殺した為、暗殺の背景は解らなくなりました。 その後、アメリカは“ウォーレン委員会”を組織して事件の徹底究明を目指しましたが、発表された報告書(総てが公開された訳ではない)は不備な点が多々あり非難にさらされました。
 改訂版が確か3~4回出され、その都度 報告書は厚みを増しましたが、内容的には初版と大差ありませんでした。ずっと批判されているのは

①LHOの単独犯だと決めつけている
②銃・弾薬の分析に当たった人物が適任ではない
③事件の背後に対する考察が薄い…との3点がもっとも多いようです。

① LHOは元海兵隊狙撃手ではあるが、腕前は一級狙撃手(二級とする説もある)であって“特級”ではない。そのような程度の人間に かくも見事な狙撃が出来るのか? 観衆の証言によると、少なくとも三方向からの銃撃音が報告されている(但、当時のダラス/エルムストリートは地形/ビル・道路の位置から反響し易い条件下にあり、ダラス教科書倉庫からの銃撃音が反響したと考えるのが常識的) 反響を考慮するにせよ、教科書倉庫と隣り合ったビルからの狙撃も考えられるのではないか。② LHOが狙撃に使用したライフルは“カルカノ”という第二次大戦中イタリア軍の正式銃であるが、63年当時ですら欠陥品とされていた。しかも、LHOのキャリアは銃についている照門/照星を使ってのものであり、スコーブ使用によるキャリアはない(ソ連亡命中のキャリアも判明している) 押収されたカルカノにはスコーブが装着されていたが、至極安物であり(日本製) 4本のボルトで固定すべきなのに ボルトは2本しか締まっていなかった。 三発の銃撃があったが、命中したのは二撃・三撃目の二発。一発目はパレードカーの左後方の縁石に当たって数個に割れ 跳弾となって車のフロントグラスにぶつかり運転手の足元から発見された。二発目はJFKの背中から射入、骨を避けて首、胸、腰を傷つけた後 身体から飛び出して前席のシート越しに知事を襲い、病院で知事の服から発見された。(一発の弾が このような複雑な動きをするものか疑問視されたが、現在証明されている)

 問題の三発目、これはJFKの左耳横から右に向けて入り、彼の後頭頭蓋を脳漿と共に後方に吹き飛ばした。しかし、この弾丸は発見されていない。運転席から発見された破片がそれではないかと言われたが、如何なる人体の形跡も付着していなかった。
 このため、教科書倉庫からの(後方からの)銃撃ではなく、前方あるいは横からの第二第三の別人による狙撃が疑われたが 何ら証拠形跡が見つからず、JFKの頭蓋中で跳ね回った後外に飛び出したか 頭蓋中で爆発して粉々になったものと推定された。
 しかし、これはどちらも有り得ない現象で、LHOが使用した銃弾は非力な弾丸であり 頭蓋を貫通したならその時点で脳内に残留するしかない。また、そんなエネルギーがあるなら、第二射命中弾はJFKの骨を避けずある程度真っ直ぐに入って突き抜ける。 また、使用された弾丸は鉛の上に銅でコウティングされた徹甲弾であり、徹甲弾はパンクション(見かけ爆発…炸薬によらず、みずからのエネルギーで崩壊爆発する)を起こさない。
 これらの指摘は63年当時も常識的意見であったが、何故かウォーレン報告書には明確な説明がなされていない。③ JFKのダラス訪問は比較的急遽決定され、さらにパレードルートは2日前まで解らなかった。それをこのようにして用意待ち伏せできたのには相応の巨大なバックの思惑が動いたと考えるのが妥当だが、報告書は深くは突っ込んでいない。じつは この部分の調査報告が一番伏せられており、総て公開されたなら黒幕が現れると言われているが 現在は五里霧中である。

 このような経過から、すでに50年の時を経ながら未だに関係書籍の花盛りであり、中には単なる妄想の域を出ないものもある。
 しかし、LHOを殺したルビーも殺されており、その後15年程の間に暗殺捜査に関わった人間 または何らかの形で調査・陳述した人々の内30数名が自然死以外の死を遂げており、この事件の闇を更にひろげている。
さあて、本書はJFK暗殺時点ではまだ少年であったボブ・スワガーが、ちょうど30年後に狙撃事件に巻き込まれる(極大射程) 彼は雁字搦めの罠を噛み破り、途中から無理矢理見方につけたFBI捜査官ニック・メンフィスと共に逆襲に出る。最後に残った罠も仰天の機転(周到な準備というべきか)でひっくり返す。このラストのトリックは これ以降の多くの作品に影響を与えている。 それから20年、ボブの元にある女性から調査依頼が舞い込む。JFK暗殺にもしかしたら絡むかもしれないと思われたが、ボブをつき動かしたのは提示された証拠のコートに付着した小さなタイヤ痕だった。それは50年前の事件に留まらず、ボブ自身に降りかかった20年前の事件の亡霊をも呼び覚ました。
「極大射程」事件を絡ませつつ JFK暗殺の真相に迫っていく。勿論 小説であるからスワガー・サーガ世界のなかでのストーリーですが、JFK狙撃の第三の銃弾について これほど明解に喝破した説を知りません。思わず息を呑みました。JFK暗殺にいたる背後事情やLHOの行動動機はサーガの中のフィクションですが、これも思わず唸る説得力です。
 銃/銃弾に興味のない向きにはまことに読み辛いかもしれませんが、ミステリーファンなら絶対読むべき一冊ですよ!


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