タキさんの押しつけ書評
小太郎の左腕/逆説の日本史他2編
昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ
これは、悪友の映画評論家・滝川浩一の書評です。
小太郎の左腕
「のぼうの城」和田竜の三作目です。今回は全く架空の国を舞台にした戦国物語ですが、相変わらず読みながら画がまざまざと浮かぶ筆力は健在です。
ただ、少しずつスケールが小さくなって行ってるのが少々気がかりです。この人、本来が脚本家ですから、あんまり小説に時間が裂けないのかも……。
ある国の山中に鉄砲狩人の村があった。戦国のご多分に漏れず、この国も隣国との間に紛争が有った。この紛争に鉄砲狩人の孫が関わって行く。この孫、少々足りないのか 虐められてもニコニコ笑うばかり、同年代の子供達はそれなりに鉄砲を操るが、件の孫は全く下手。ところが、ある 特殊な銃を与えると、本領発揮 神手の狙撃手となる。
この男の子の正体と、生来 底抜けに優しいこの子供が如何にして人を撃ち抜く狙撃手となるのか? それが主軸で、そこに他の人々の愛憎がからまる。鉄砲フリークの私といたしましては、いかに神の手を持つ狙撃手とはいえ、先込め火縄銃の射程圏が余りに大きいのには興醒め。いかに優れた砲手がいても、所詮 青銅の大砲とアームストロング砲じゃ勝負にならなかったのと(幕末の馬関戦争……長州vs英仏蘭米連合艦隊)同じ。まぁ、戦国ファンタジーだと思えば(ちゅかファンタジーだし)ええんですが、当時の事情やら雰囲気やら やたらリアルなんで、少々バランスがおかしかったです。
“逆説の日本史”
週刊ポスト連載中のシリーズもとうとう幕末までやって来ました。この本も年一冊しか出ないんで見落としがち……ひょっとしたら去年の買ってないかも? 本巻はその幕末、長州が京都から追われ、益々尖鋭化する中、外国船に喧嘩売ってケチョンケチョンにやられるまでの2年間だけを解説しています。
恐らく、日本人の行動原理・哲学・目指すべき未来像などが、坩堝に巻き込まれたごとくに千変万化した2年間……これを事細かに解説してあります。
幕末維新史に関心の在る方必読! 史料主義学者に対する毒舌も健在なり(とはいえ、これはもうやめた方がええと思うんですが……) “
蘇るスナイパー
スティーブン・ハンターの旧作を漸く全部読み返して、いよいよ未読の部分に突入いたしました。今作はボブ・リー(BL)・スワガーのベトナムにおける先輩であり、No.1スナイパーを名乗っていた男が、突如4人の男女を狙撃し、自らそのライフルで自殺する。
事件は明白な結末を迎えるが、FBIニック・メンフィスに協力要請されていたBLには違和感が有った……って所から始まるのでありますが、始めの方に何やら強引な展開があって、“????”な違和感が有りました。違和感はこの後も続き、二冊目の前段まで少々イライラするのですが、BLが絶対絶命の危地を脱する辺りから俄然面白く……と言うより“腑に落ち”はじめます。そうなってくると「BLならこうするだろう」という予測もつきだして……まぁ、こういう読者の先読みを封じる工夫なんでしょうね、マンネリにしないための努力です。
ラストは大サービスシーンになっとりましてカタルシス満開です。解説がいつもの関口氏じゃなかったのが残念。BLサーガフリークのお兄さんが書いてますが、くいたりまへんです。
星間商事社史編纂室
三浦しをんの新作です。題名からして“舟を編む”的な作品かと思いきや……まぁ、詳しく書くのは止めときますが、ハッキリ言ってお勧めしません。ある種の読者には受け入れられるかもしれませんが、私はダメでした。 編纂室に腐女子がいました……的お話でありますが、肝心の社史に関するストーリーがあまりにもヤッツケ仕事です。くすりとも笑えませんでした。
小太郎の左腕/逆説の日本史他2編
昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ
これは、悪友の映画評論家・滝川浩一の書評です。
小太郎の左腕
「のぼうの城」和田竜の三作目です。今回は全く架空の国を舞台にした戦国物語ですが、相変わらず読みながら画がまざまざと浮かぶ筆力は健在です。
ただ、少しずつスケールが小さくなって行ってるのが少々気がかりです。この人、本来が脚本家ですから、あんまり小説に時間が裂けないのかも……。
ある国の山中に鉄砲狩人の村があった。戦国のご多分に漏れず、この国も隣国との間に紛争が有った。この紛争に鉄砲狩人の孫が関わって行く。この孫、少々足りないのか 虐められてもニコニコ笑うばかり、同年代の子供達はそれなりに鉄砲を操るが、件の孫は全く下手。ところが、ある 特殊な銃を与えると、本領発揮 神手の狙撃手となる。
この男の子の正体と、生来 底抜けに優しいこの子供が如何にして人を撃ち抜く狙撃手となるのか? それが主軸で、そこに他の人々の愛憎がからまる。鉄砲フリークの私といたしましては、いかに神の手を持つ狙撃手とはいえ、先込め火縄銃の射程圏が余りに大きいのには興醒め。いかに優れた砲手がいても、所詮 青銅の大砲とアームストロング砲じゃ勝負にならなかったのと(幕末の馬関戦争……長州vs英仏蘭米連合艦隊)同じ。まぁ、戦国ファンタジーだと思えば(ちゅかファンタジーだし)ええんですが、当時の事情やら雰囲気やら やたらリアルなんで、少々バランスがおかしかったです。
“逆説の日本史”
週刊ポスト連載中のシリーズもとうとう幕末までやって来ました。この本も年一冊しか出ないんで見落としがち……ひょっとしたら去年の買ってないかも? 本巻はその幕末、長州が京都から追われ、益々尖鋭化する中、外国船に喧嘩売ってケチョンケチョンにやられるまでの2年間だけを解説しています。
恐らく、日本人の行動原理・哲学・目指すべき未来像などが、坩堝に巻き込まれたごとくに千変万化した2年間……これを事細かに解説してあります。
幕末維新史に関心の在る方必読! 史料主義学者に対する毒舌も健在なり(とはいえ、これはもうやめた方がええと思うんですが……) “
蘇るスナイパー
スティーブン・ハンターの旧作を漸く全部読み返して、いよいよ未読の部分に突入いたしました。今作はボブ・リー(BL)・スワガーのベトナムにおける先輩であり、No.1スナイパーを名乗っていた男が、突如4人の男女を狙撃し、自らそのライフルで自殺する。
事件は明白な結末を迎えるが、FBIニック・メンフィスに協力要請されていたBLには違和感が有った……って所から始まるのでありますが、始めの方に何やら強引な展開があって、“????”な違和感が有りました。違和感はこの後も続き、二冊目の前段まで少々イライラするのですが、BLが絶対絶命の危地を脱する辺りから俄然面白く……と言うより“腑に落ち”はじめます。そうなってくると「BLならこうするだろう」という予測もつきだして……まぁ、こういう読者の先読みを封じる工夫なんでしょうね、マンネリにしないための努力です。
ラストは大サービスシーンになっとりましてカタルシス満開です。解説がいつもの関口氏じゃなかったのが残念。BLサーガフリークのお兄さんが書いてますが、くいたりまへんです。
星間商事社史編纂室
三浦しをんの新作です。題名からして“舟を編む”的な作品かと思いきや……まぁ、詳しく書くのは止めときますが、ハッキリ言ってお勧めしません。ある種の読者には受け入れられるかもしれませんが、私はダメでした。 編纂室に腐女子がいました……的お話でありますが、肝心の社史に関するストーリーがあまりにもヤッツケ仕事です。くすりとも笑えませんでした。