大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・かざみ 時と風の少女・9『なゆた かざみの玄孫』

2015-09-11 16:50:38 | 時かける少女
かざみ 時と風の少女・9
『なゆた かざみの玄孫』
 
  


 翻ったままの状態でスカートが固まっていた。

 何百人という人たちの視線が集まっているので、とても恥ずかしい。
「ウーン……」
 固まっているのはスカートだけではない、着衣すべてが固まっているので、スカートを直すどころか身動きもままならない。
「なによ、これは!」
 無理に動かそうとすると、額から汗が噴き出す。

――受け入れればスムーズにいくわ――空中で静止している暴走車の向こう、そこから声がした。

「だれ……!?」
 それは気配だけだったが、目を凝らすと、しだいに人の形に……赤いウェットスーツのようなものを着た同年配の少女になった。
「息はできるでしょ……空気だって停まっているから、呼吸はできないはず。でも息をすることは当たり前だからできるの。時間は停まっているけど、身に着けているいるものも、あたりまえと思えば自由になる」
「でも……やっぱりダメ!」かざみはかぶりを振った。
「これを見て」
 かざみの顔の前に鏡が現れた。
「鏡……」
「それを見て、もう一度」
「鏡見たって……あ?」
「髪は揺れているでしょ、身に着けているものも同じよ……ほら」
 少女がボールのようなものを投げた。かざみは避けようとして横ざまにつんのめった。
「ワッ……動けた」
「ね、これで停まっている時間の中でも動けるでしょ。これからは度々こういうことがあるから慣れてね」
「あなたは、いったい?」
「なゆた。あなたの玄孫」
「ヤシャゴ?」
「曾孫の子ども。つまり百年後の、あなたの子孫」
「あたしの子孫……?」
「うん。簡単に言うわね……かざみさん、あなた消えかかってるの。さっき佐藤君のボールが体を突き抜けたでしょ」
「え、あ……うん」
「今も、そう、この暴走車……あなたの体を突き抜けたの」
「え……?」
「少し時間を巻き戻すわね」
 なゆたが指を動かすと、暴走車のお尻が迫ってきて、かざみと重なったかと思うと、後ろの方に戻ってしまった。三度繰り返して、かざみも理解した。
「どういうこと……?」
「あなたの存在が危うくなっている。落ち着いて聞いてね、かざみさんの高祖父母……あたしにとってのかざみさんね。それが結婚しないとか、子どもを作らない状況になりつつあるの。そうなったら子孫であるかざみさんは存在しなくなる、その四代目のあたしにも影響が出てくるの。お願い、百年前に戻って修正してくれないかしら」
「あたしが?」
「もう数日で事態は決定的になって、取り返しがつかなくなる。いそぎで悪いけど、ここからワープしてもらえない?」
「でも、あたし、自分の親も分からないのよ。航空機事故のたった一人の生き残りだから」
「この修正が終わったら教えてあげるわ。ひいひいお祖母ちゃん、時間がないの、ここから旅立って、お願い」
 困った顔は、どこかかざみに似ている。
「でも、そんな大事なことなら、あなたが行けばいいんじゃないの?」
「ワープできるのは百年前までなの。あたしは、この時代が限度。だからひいひいお婆ちゃんにバトンタッチするしかないの……あ、もう限界、いくよ!」

 瞬間からだが浮いたような感じがして、周りの風景が歪み、そして真っ白になった。白い世界に風が吹いていた、その風の中に義父の祐之やノラ、親しい人たちの姿がフラッシュして意識が飛んで行った……ただ、風の音だけが耳に響いて。
 


※:登場人物

 時任かざみ     百年の時空を超えて旅する少女 航空機事故の生き残り
 時任祐之      陸軍中佐 航空機事故でかざみを救う かざみを引き取り十七歳まで育てる
 ノラ          軍から派遣された監視用アンドロイド 祐之の謹慎が解けてからはハウスキーパー かざみのサポーター
 満腹亭のオヤジ  祐之の元部下 戦争で負傷 脳みそ以外義体
 加藤珠美      かざみのクラスメート 野球部のマネージャー 名ばかりエース佐藤の彼女
 佐藤球児      下り坂の野球部エース
 なゆた       かざみの玄孫 百年未来から来てかざみを百年前の世界にもどした

※:かざみの使命  百年前に戻って高祖父母をめでたく結びつける


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