大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

馬鹿に付ける薬 012・曙谷 初めてのダンジョン

2024-09-02 11:25:04 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

012:曙谷 初めてのダンジョン 




 曙の谷に三人は着いた。

 差し渡し50メートル、深さは平均5メートル、深いところでも8メートルほど、谷底への傾斜もさほどには無く、幅の狭い盆地といったところだ。

 谷底には森というほどではないが、所どころに木がまとまっているところがある。そこを避けて通れば手ごろなハイキングコースと呼べるくらいにのどかで、そうと言われなければ分からないくらいの穏やかさだ。

「あの木がまとまっているところがダンジョンだ。いちおう森と呼ばれているが、書類上の名称でな、始まりの町以外で言うと馬鹿にされる。ダンジョン以外でもモンスターは出るが確実ではない」

「森を通るんですね」

「サッサとやっちまおうぜ……って、どこに行くんだ?」

 気の早いアルテミスが下りようとすると、プルートは谷への坂道ではなく、ちょっと横の岩のところに向かった。

「なにかの石碑ですかぁ?」

「メニュー表だ」

 プルートが手で突くと、グルンと石碑が回ってメニューが現れた。

「固定が甘いんで、時どき裏向きになる……日替わりでなあ、何が出ても大したことはないんだが……」

 メニュー表には『Kスライム』と『Kウルフ』と書いてある。

「よし、時どきKスケルトンというのが出るんだが、下手な狩り方をすると粉々になる。服や装備につくと面倒なんだ」

「ああ、クリーニングは町まで戻らなきゃですものね」

「行くぞ」

 プルートは迷わずに一番手前の森の前に飛び降りた。

「ちょ、待てよオッサン!」

 続いてベロナとアルテミスが駆け下りた時には、すでにプルートは森の中に踏み込んでいる。

「闘志満々ですね!」

「え、あれ?」

 ザザザァ

 飛び込んだばかりのプルートが飛び出してきた。

「二人とも離れろ! Kスケルトンだ!」

 ザザ!

 三人が跳び退るのとモンスターが飛び出してくるのが同時だった。

「スケルトンは居ないんじゃねーのか!?」

「よく見て、あれは……」

「Kオオカミがスケルトン化したものだ。アルテミス、距離をとって矢を射かけろ!」

「おお!」

「て、こっちに向かって来ます!」

「儂が引き付ける、ベロナは防御にまわれ!」

「はい!」

 パシ!

 瞬間凍結したような音がすると、アルテミスを庇うベロナの前に半球状の防御結界が現れた。

 シュシュシュシュシュ!

 アルテミスが一瞬で五本の矢を射かける。

 パッシャーーン!

 あやたず五本の矢が付き立って、スケルトンオオカミは粉々になって飛び散った。

「やったあ!」「やりましたあ!」

 初手柄に舞い上がる二人だったが、プルートの表情は険しかった。

「Kスケルトン如きに五本は多すぎる、見ろ、粉々になって、少し被ってしまったぞ」

「あ、ごめん」

「ベロナの防御も優雅すぎる」

「え、優雅じゃいけないんでしょうか?」

「半球状のバリアはきれいだが、不慣れだと脆い。K級のモンスターだからいいが、上級のモンスターなら卵の殻のようにぶち破られる。当分は亀甲バリアでいけ」

「は、はい」

「さあ、次はKスライムだ」

「おお!」「はい!」

 その後は次の森でKスライムを簡単にやっつけた三人だったが、やはり初めてのことで爆砕したスライムを浴びてしまってベトベトになってしまう三人だった。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          アーチャー 月の女神
  • ベロナ            メイジ 火星の女神 生徒会長
  • プルート           ソードマン 冥王星のスピリット
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)139・笑ってごまかすなあ!

2024-09-02 08:26:48 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
139・笑ってごまかすなあ! 小山内啓介 




 惣堀高校は歴史の古い学校や。

 創立は百年以上昔の大正元年。

 日露戦争こそは勝利のうちに終わってたけど、第一次大戦は、まだ三年後の事で、江戸幕府最後の将軍慶喜がまだ生きていた。

 我が大阪もゆったりしたもんで、惣堀に府立中学を作ることになると、隣接する船場の旦那衆の応援もあって、競馬場ができるんかというくらいの敷地が確保され、現在の府立高校でも一二を争う広さの学校になった。

 学校の敷地でもっとも面積が広いのがグラウンド。

 惣堀のグラウンドに立つと地平線が見えると近所の学校からは噂される。

 モンゴルの大草原ではないんで地平線は見えへんけど、市内で一番狭いと言われる北浜高校の優に四倍はある。

 その北浜高校の野球部が、我が惣堀高校の野球部に合同練習を申し込んできたんや。

 そのことが、野球部のエースである田淵を激おこぷんぷん丸にさせ、食堂でオレと乱闘騒ぎを起こす原因になった。

「よう分からんなあ、なんで、合同練習申し込まれると田淵の機嫌が悪なるねん?」

 とりあえず田淵に謝らせようとする川島さんを制して質問した。訳も分からずに謝られても気持ちが悪いだけや。

「えと……北浜って、校舎の建て替え工事でグラウンドが半分しか使えないのよ。うちは、府立高校でも有数の広さでしょ」

「うん…………え……あ、そうか!」

 ピンときた。

 合同練習は名目で、北浜はうちのグラウンドを使いたいだけなんや。うちなら、甲子園球場と同じスケールで練習ができる。

「小山内君も、元野球部だから分かるでしょ」

 そうなんや、中学野球じゃオレはそこそこのエースやった。肩を壊したんで辞めてしもたんやけどな。

 北浜と惣堀じゃ月とスッポン。合同練習やっても、北浜にとって惣堀は足手まといになるだけや。

「そうなんや、合同練習とは聞こえはええけど、オレらは北浜の球拾いになってしまうんや。あいつらも、それ知ってて言うてきとるんや!」

「田淵、おまえが食堂の列に割り込んできたのは間違うてるけど、おまえがムカつく理由は分かるぞ」

「それでね、北浜の監督と相談したのよ」

 川島さんの可愛らしいω口が微妙にゆがんだ。この人は単に可愛らしいだけのマスコットマネージャーとは違うみたいや。

「京橋高校が、うちと似た規模じゃない?」

 ああ、たしかに京橋も惣堀の八割くらいの広さがある。

「あそこなら、京阪電車で駅三つだし」

 確かに、地下鉄乗り換えでうちに来るよりは近い。

「それでね、せっかく名門北浜と合同練習できるなら、第一に、より近い学校であること。第二に、合同練習して、いちばん利益のある学校だと提案したの」

「え? 近いはともかく、利益があるとは?」

「北浜と合同練習やって、より利益がある方」

「利益……よう分からへん?」

「つまり、京橋と惣堀で試合をして負けた方が合同練習するってことにしたのよ。言っちゃなんだけど、下手な方が伸びしろが大きいでしょ?」

「あ……うん、せやけど、球拾いに伸びしろもないやろ。あ、すまん、気に障ったらかんにんな」

 田淵の顔が赤くなるので、ちょっとフォロー。

「いや、小山内の言う通りや(-_-;)」

「まあ、うちで引き受けたくないから。ま、苦肉の策なのよ」

「まあ、ほんなら京橋との試合次第やねんなあ」

「うん、そう。そこで、小山内君にピンチヒッターに立ってもらいたいわけなのよ」

「あ、そう……って、なんやねん、それは( ゚Д゚)!?」

「「アハハハ」」

 あ、ちょ、笑ってごまかすなあ!



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
 
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