大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・071『ハンター再び現れて近衛の剣を残す』

2024-09-04 14:04:16 | カントリーロード
くもやかし物語 2
071『ハンター再び現れて近衛の剣を残す』 




「時間切れで戻ったんじゃないの!?」


 マーフォーク(半魚人)とともに海になりかけていた水も消えた草原。剣を地面についてゼーゼーいうハンターに声をかける。
 
「もう一度試してみたんだ。親父が野球の監督でね、9回の裏に同点にして延長戦て感じかな(^_^;)。ソフィー先生が近衛の剣を持ってきてくれていてね――あ、使ってみたい――と思ったら、来られたというわけさ」

「あ、待ってて、すぐにあがるから!」

『ちょ、やくも!』

 御息所が急降下して来てタオルで隠してくれる。

 間一髪のところを助けてもらったんで、思わず裸のままで飛び出すところだったよ(^_^;)。

 で、服を着て出て見ると……あれ?……近衛の剣だけが残っていてハンターの姿は無かった。

「もう帰っちゃった? 9回の裏のピンチヒッターって感じだったねぇ」

『はつらつとした男だと思っていたけど、野球選手の息子だったんだ』

「監督って言っていたよ」

『か、監督は元々は選手であろうが』

「そうだね……剣、どうしよう」

『持っていくしかないだろ』

「そうね……よいしょ……ちょっと長い(^_^;)」

 腰につけてみるんだけど、地面をこすってしまう。

「肩に担ぐか……」

 忍者みたいに担いでみる。ちょっとカッコいいかもしれない。

『おお、佐々木小次郎みたいじゃ』

「ささきこじろう?」

『宮本武蔵を知っておろうが』

「あ、ああ、宮本武蔵にやっつけられる人!」

『あれは、武蔵がゴチャゴチャ言ってイラつかせるから。ほんとは、武蔵に負けないくらい強いのじゃ!』

「そ、そうか、ならいいか……でも、わたしにはミチビキ鉛筆があるよ」

『武士は二本差しと言って、大小二本の刀を持っているもんじゃ』

「そうか、ならいいや」

『ふふふ( *´艸`)』

「なによ」

『では、参るか』

「おお!」

 緩やかな坂を下っていくんだけど、マーフォーク(半魚人)があれだけの勢いで出した海は水たまりさえ残っていない。振り返るとカルデラからは春のタケノコよりも早いスピードで木が生え始めている。

「ふふ、あの半魚人、見た目にエネルギーを使いすぎなんだよね」

『ふふ、けっこう必死だったけど……まあいい、意気軒昂なのはいいことじゃ』

「見た目も実力もなかなかよ、見てなさい……」

 トォォォーーーー!

 ジャンプすると同時に旋回して、カッコよく背中の剣を抜く!

 グヌ!?

 旋回はできたけど、着地しても剣が抜けない。先っぽの方が鞘に入ったままで、うでは伸びきって突っ張らかってしまう。

『アハハ、なるほど、カッコいいのう』

「なんで、こうなるの?」

『右肩に掛けておるからじゃ』

「ええ、だってドラマとか映画とか、右肩じゃない」

『ためしに左掛けでやってみ』

「……こう?」

『それで、さっきみたいに抜いてみよ』

 トォォォーーーー! シャラン!

「抜けた!」

『さあ、参るぞ』

「お、おお」

 なんで?

『行くぞ』

「うん」

 御息所と二人、さらに先に進んだ。



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)141・先輩のレクチャー

2024-09-04 07:22:05 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
141・先輩のレクチャー 小山内啓介 





 惣堀高校のグラウンドは地平線が見えると噂されるくらいに広いんです。

 その広いグラウンドの真ん中に無事にヘリコプターは不時着したんです。グラウンドが広いので、そんなには大きく見えません。北浜高校が合同練習を申し込むだけのことはあります。

 せやけど、ヘリコプターが巻き起こす風はハンパやないんですねえ。

 女子のスカートが翻るのは、まだ御愛嬌。グラウンドの砂がトラック一杯分くらいは吹き飛ばされてしもて、白線で引いたダイヤモンドがベースごと吹き飛ばされました。
 なんとかホームベースは残ったけど、試合再開には時間がかかりそう……と思ったら、警察やら消防やらが来て現場検証があるとかで、九回の裏にして試合は中止になってしまいました。

 試合の相手は京橋高校やったんです。府立高校で一番グラウンドの狭い北浜高校が、校舎の建て替えにともなってよその学校のグラウンド使うための名目で合同練習を申し込んできて、素直に受けたら、北浜のボール拾いにしかなりません。

 そこで、マネージャーの川島さんたちが奮闘して、府立高校の二番目にグラウンドの広い京橋高校との試合をすることになりました。負けた方が北浜にグラウンドを使わせる、つまり北浜の球拾いをやることですねえ。

 昔取った杵柄で、川島さんの策略で9回の裏、ピンチヒッターに立ったところでヘリコプターの不時着というわけです。

 緊急の校内放送でグラウンドに居てるもんは校舎に引き上げならあきません。

 さっさと逃げなら!

 そう思ったら、車いすのトラブルで取り残されてる千歳……沢村さんが目に入ったんです! ミリーと須磨先輩が付いてるんですけど、車いすを動かすどころか沢村さんを連れていくこともでけへん状態でした。

 えらいこっちゃ!

 バットを放り出して三人のとこに全力疾走しました。

「俺がやる!」

 そう叫んで、沢村さんを抱え上げて避難しました……。


「というわけですよ」


「ふーーーん……」

 グビグビグビ

 須磨先輩はつまらなさそうに缶コーヒーを飲み干した。

「こんな感じでええでしょ」

「まあね……」

 今度のヘリコプター不時着事件で、PTA新聞から取材を受けることになっているんや。
 PTA新聞担当のオバサンは元新聞社勤務だったとかで、取材能力に長けているだけではなく、引退後も系列の週刊誌なんかにも寄稿していて、まあ、その道のプロなんだとか。

 だから、あらかじめ整理しておかんとどこで突っ込まれたり、角度の付いた記事を書かれるかわからへんというのが先輩の心配で、先輩相手に予行演習というわけなんや。

「北浜の球拾いってところは、公には言わない方がいい。京橋と戦って負けた方が自分のグラウンドで北浜と合同練習。そう書いておくだけで分かる人には分かるからね」

「あ、そうですね」

 やっぱり高校八年生、言うてもらわなら、そのまま喋るとこやった(^_^;)。

「千歳をダッコして、校舎に着くまでのとこ、もうちょっと聞かせてくれる」

「そんなん、ほんの一分ほどやから……無我夢中で、気ぃついたら本館の玄関やったし」

「……でもね、みんな直ぐ近くの南館に逃げたんだよ。本館まで逃げたのは啓介たちだけだったんだよ」

「それは……ほ、本館の方がより遠いし、ほら、保健室とかも近いでしょ(;^_^……というか、夢中やったんで憶えてないんですよ(>○<)」

「じゃあ……わたしの想像でトレースしてみるわね」


 そう言うと、先輩は腕と足をを組んで俺と同じ姿勢をとった。


「無我夢中で、そのあと校舎の中に行くまでは記憶がない……というのは嘘。千歳を抱え上げると思いのほかの軽さに衝撃を受けた。この年頃の女の子は見かけよりも重たい。妹とケンカするとプロレス技をかけられることがある。本気になってはいけないので、たいていやんわりと投げ飛ばして終わりにするんだけど、妹はもっと重い」

「はあ」

「やっぱり車いすの生活が長いから腰から下が萎えていて、その分軽くなってるんだろう……右の腕(かいな)に感じた千歳の足腰は華奢過ぎて、人形を抱いたみたいに頼りなくて、それでも、血が通っていて暖かくて、それに、なんだかいい匂いがして、ドキドキした」

「あ、ちょ……」

「クンカクンカ……なんてしちゃいけないから、顔は横向けて息は必要最小限に、でも、人を抱えて走るんだから、やっぱり激しく呼吸はしてしまうわけで……千歳も自由の利く手を回してしがみ付いてくるし、もう息のかかる近さに千歳の顔が迫って、なんか、ちょ、ヤバくってえ(''◇'')ゞ」

「ちょ、先輩(>д<)!」

「なにぃ、もうちょっと描写したいんだけど、千歳のオッパイがムギュって胸に当って狼狽えたとことか」

「う、狼狽えてませんから(>▢<)!」

「狼狽えてたよ、だからトチ狂って本館まで走ったんだし。そんなに否定したら、かえって勘ぐられるわよ」

「いや、だーかーらー(>〇<)」

「啓介、あんた童貞だろ(⩌ ̫ ⩌ )」

「なっ(''◇'')」

「こういうとこ突っ込まれるとオタオタするだけだから。ね、取材で触れられたら、面白おかしく誘導されて、実際以上に熱っぽく書かれてしまうって。思うでしょ?」

「そ、それは……」

「するとね、啓介も千歳も、実際以上に自分の気持ちを誤解してしまうって」

「誤解?」

「あの子を……千歳を好きになるのは、もっと覚悟がいる。あの子の人生丸抱えしてやる勇気がね……」

「そんなことは……」

「アハハ、だーかーらー『夢中やったんで憶えてないんですよ』なんて言わないで、ありのまま喋った方がいいよ。その方が、余裕があって、シリアスな突っ込まれ方しないから。ね」

「は、はあ」

「じゃ……あ、飲んじゃったんだ。ごめん、コーヒー買ってきてくれる? お代はレクチャー代ってことで(o^―^o)」

「はいはい」

 俺は、食堂前の自販機まで走っていくのだった……。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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