大橋むつおのブログ

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らいと古典・わたしの徒然草・11『第三十一段 今は亡き人なれば、かばかりのことも忘れがたし』

2021-02-20 06:43:49 | 自己紹介

わたしの徒然草・11

『第三十一段 今は亡き人なれば、かばかりのことも忘れがたし』    

 

 

 原文は簡単です。

「大雪の降った日に、ある(やんごとなき人とも思われる)人に手紙を出したところ、『こんなにも珍しく、雪が降ったのに、そのことに一言も触れていないのはつまらないですねえ』と、返事が返ってきた。どうってことはないけど、亡くなった人からのものかと思うと忘れられない」
 二十九段からのブルーは、この人の死と関わりがあるのかも知れない。あとの三十二段にも読みようによっては「引きずってるなあ」と、思われるところがあります。
 どうやら、「ある人」とは兼好のオッチャンが想いを寄せていたように受け止める人が多いようです。

 しかし、これは『わたしの徒然草』なので、勝手に妄想を膨らませます。というか自分にビビっと感じたところで書かせていただきます。

 この歳になると、「今は亡き人」がゴマンといる。

 わたしの恩師(といっても、この方は女子校の先生で、演劇部の連盟の活動の上での恩師)に、F先生がおられます。読者は誰もご存じではないと思いますが、金井克子さん、秋野暢子さんの恩師と言えば「ああ」と、思われる方も多いのではとおもいます。
 大学の五回生(留年したので)のとき、呼び出されたときのことです。
「来年から、うちのS高校で、社会科の教師やれ」
 それだけ言われて、教頭や、教科主任の先生方に面通しさせられました。
「あ、これで、就職決まりや!」
 ところが、翌春に「採用は見合わせていただきます。なお、後日採用させていただくこともありますので、履歴書はお預かりいたします」と、葉書がきました。
「先生、これはないでしょ……」という意味のことを言った。
「大橋、もっと足運ばなあかんで」と、答えられた。
 わたしの履歴書はいまだにS高校にあるのかもしれない。
 当時のわたしは、世間知らずで、こういう就職の場合、足を運んで「運動」をしなければならないということに思い至りませんでした。

 おことわりしておきますが、今から四十五年前の話で、世間とはそういうものでありました。
S高校にも、F先生にもなんのオチドも、ヨコシマなところもありません。

 当時の高校演劇はアナーキーで、生徒が連盟の運営権を握っていました。だから連盟とは名乗れず研究会と称しておりました。藤木先生は、それを時間をかけて教師が責任をもってやれる連盟に変えていかれました。   これはと思う高校生を見つけては時間をかけて育て、連盟を担える教師にするという気の長さでありました。翌年、後輩がめでたくS高校に就職し、その職責を果たしております。

 F先生は、沖縄戦の生き残りでもあります。多くは語られませんでしたが、米軍により沖縄の南部に追いつめられた時、仲間の兵といっしょに斥候に出されました。
 米兵に見つかり、追撃され、仲間の兵は撃ち殺された……そのあとの話は、捕虜生活の話になります。
 その斥候に出され、捕虜になるまでには言い難いアレコレがあったのでしょう。ご退職後、真っ先にされたことは沖縄への訪問でありました。このことが先生の沖縄での屈託を物語っていると思います。

 先生は、学生のころ演劇にドップリ浸かり、特高にも追い回されたことがあるそうです。
 英語が堪能でいらっしゃったので、収容所でも通訳として重宝がられ、収容所で劇団を作り、タクマシク捕虜生活を送られました。そして一年余、無事に釈放され、復員されました。
 気の毒なのは奥さんで、終戦から毎日大阪駅へ行っては「○○部隊のFはおりませんでしょうか!?」と、捜されたそうであります。
 昭和二十一年の秋、大阪駅頭で、血色のよい復員兵と。やせ衰えた銃後の妻は再会を果たされました。そういう話を、面白おかしく語ってくださいました。
 わたしたちは、ほんのガキンチョであった。
「アハハ、またF先生の昔話や」としか聞いておりませんでした。
 先生も「アハハ」で、それ以上の話をなさろうとはされませんでした。
 もう少し真剣に聞いておくべきだったと、この歳になって思います。自分自身が藤木先生の歳に近づいてきました。

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