ここは世田谷豪徳寺 (三訂版)
第84話《孫文桜・2》忠八
ガチャ!
乱暴にドアが開いたかと思うと、コンビニの女の子が入って来て「すみません、バッテリー切れてたみたいです(;゚Д゚#)」と、焦りながらロボットのお腹からお茶とお茶うけを取り出して給仕してくれる。
「あ、さっきの!?」
それは、ついさっきコンビニでアンパンを買った時のコンビニの女の子だ。
「ほう、もう憶えてくれたんですなあ(^▭^)」
「え、まあ(^_^;)」
腋にコンビニの上着を挟んでるし。
「孫の孫文桜(そんぶんおう)です、おうは桜と書きます」
「お初にお目にかかります、孫文桜です。学校ではサクラって呼ばれてましたからサクラと呼んでいただいてもけっこうです」
「あ、はあ……あ、えと、四之宮忠八です。お爺様とは古くからというか、明治時代から家同士の付き合いで……あ、どうぞよろしく」
「あ、いえ、こちらこそ!」
『どうぞごゆっくり』
突然回復して、ロボットは回れ右して出ていく。
「え、あ、あれえ(;'∀')? あ、では、どうぞごゆっく……」
「サクラも居なさい」
「え、あ、はいお祖父さま」
一礼するとサクラは『に』の字の縦棒に当るソファーに腰掛けた。
「お茶うけは、そのアンパンにしようか。サクラはこのお茶うけをいただきなさい」
「あ、はい……」
「あ、すまん、サクラの分のお茶が無かったね」
「あ、淹れてきます、少し失礼します四之宮さま(;'∀')」
「あ、いえ(^~^;)」
ドアの向こうに消えると――あ、お茶ッ葉!――の声がして、気配が遠のいていく。
「いや、どうも、根っからのオチャッピーでしてなぁ、ワハハハ(´∀`)」
水戸黄門みたいに笑うと、こちらもつられてアハハと笑ってしまう。
サクラとさくらのイメージが重なるが、こっちのサクラは、どうも孫大人の演出が入っているような気がする。
「あのコンビニは大人の持ち物なんですか?」
「はい、各国の大使館やマンションやらがあって、繁盛してます。元々は、このビルの敷地だったんですがね、付近にコンビニが無いと近所の大使館からの希望もありましてなぁ」
「ああ、隣もどこかの大使館でしたねぇ」
「ああ、C国大使館です」
ウ……気が付かなかった(;'∀')
「ウクライナ大使館も道を挟んだところに、他にもいろいろ。どちらさまにもご贔屓にしてもらってますよ」
「ああ、それはスゴイですねえ」
正直、ちょっとビビる。
祖父さんの代までは、いろいろあった四之宮家だけど、親父の代になってからは、昔の仲間や知り合いは、旧華族の付き合いが園遊会のエキストラのようになったのと同様に、ただのゴルフやマージャンの仲間だと思っていた。
「まあ、まずはアンパンでもいただきましょう」
「あ、はい」
二人、ワシャワシャと袋を破り、アンパンにかじりつく。
「アンパンと言うのは大発明ですねえ」
「あ、そうですねえ。明治になって間もないころは、パンというのは人気が無かったそうですねえ」
「モソモソしていて、味も薄い。若いころ芝居をやっていた時期がありましてねえ」
「あ、うちの祖父もやってました。アマチュアでしたが」
「わたしもアマチュアですよ。舞台でパンを食べるシーンがあるんですがね、パンを食べると、口の中の水分を全部もっていかれて、往生したもんです」
「役者をやってらしたんですか?」
「最初はね、じきに向いてないと分かって。それからは演出と脚本です。僕には、そっちの方が向いている。アンパンは木村屋が工夫したもので、明治天皇が御気に入られて、それから全国に広まったんです」
「ああ、それは聞いたことがあります」
「そのアンパンを明治天皇にお勧めしたのが、忠八君の五代前です」
「え、そうなんですか!?」
「はい、五代前の四之宮公は、実にアンパンの大恩人なんですなあ」
そう言うと孫大人は、美味しそうに最後のひと口を口に収めた。
「ええと、それで、本日の御用件は何でしょうか?」
「あ、そうそう……」
大人は、慌ててお茶を飲むと、口の端っこにアンコを付けたまま言った。
「サクラを嫁に貰って下さらんか」
「え!?」
ガッシャーン
ドアの向こうで茶碗の割れる音がした。
☆彡 主な登場人物
- 佐倉 さくら 帝都女学院高校1年生
- 佐倉 さつき さくらの姉
- 佐倉 惣次郎 さくらの父
- 佐倉 由紀子 さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
- 佐倉 惣一 さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
- 佐久間 まくさ さくらのクラスメート
- 山口 えりな さくらのクラスメート バレー部のセッター
- 米井 由美 さくらのクラスメート 委員長
- 白石 優奈 帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
- 原 鈴奈 帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
- 坂東 はるか さくらの先輩女優
- 氷室 聡子 さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
- 秋元 さつきのバイト仲間
- 四ノ宮 忠八 道路工事のガードマン
- 四ノ宮 篤子 忠八の妹
- 明菜 惣一の女友達
- 香取 北町警察の巡査
- クロウド Claude Leotard 陸自隊員
- 孫大人(孫文章) 忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
- 孫文桜 孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる