大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・313『有頂天演劇部!』

2015-05-25 16:57:34 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト・313
 『有頂天演劇部!』 
            

「チェ、またか……」

 スマホで確認して、思わずつぶやいた不満げな一言を、里依紗は聞きとがめた。
「なにがまたやのん……?」
 黙って聞き逃してくれたら、そのあとの修羅場はなかった……と思う。
「今年の本選、また箕面のMホールやで、信じられへんわ」
「しゃあないやろ。予算やら、みんなの希望やらいろいろあるんやから。さ、みんな基礎練終わったら教室戻って、稽古の体制にしといて」
 三人の新入生と一人の四人を「みんな」と呼ぶのは、里依紗の有頂天さから来てる。言われた後輩四人も有頂天に「ハーイ!」とNHKの「おかあさんといしょ」みたいにお返事。

 こないだの連盟の講習会は七百人もおって、意気込みと熱気だけはすごかった。そやけど、所詮は総会の裏番組の二時間足らず。なにが会得できるもんやあらへん。里依紗は、講師の先生に「いい勘してるわね」と言われて有頂天に羽が生えた。うちは終始不満やった。
 
「言うだけは言うてみるわね」

 顧問の佐伯は、そない言いよった。コンクールの本選と講習会、一昨年は箕面のMホールで、うちら南部の演劇部は行って帰って来るだけで大変やった、それで、去年は門真のホールに変わった。それが今年はまた箕面のMホールや。
 関空除いたら、大阪は日本で一番狭い。そやけどうちらのI市から、箕面は二時間前後かかる。そやから、佐伯には「くれぐれも箕面に戻らへんように発言しといてくださいね」と言うといた。

 それが、連盟のサイトを開いてみたら、全会一致で箕面の開催が決まったと出てた。佐伯は発言すらしてない様子や。

「うまいこといったから」

 にこやかに言うた佐伯の表情を信じたうちが、アホやった。

「里依紗、うち演劇部辞めるわ」
「え……なんで?」
「一年の時言うたやろ。うちは役者になりたいねん。ほんまは劇団の養成所に入りたかった」
「それは、何べんも聞いた」
「聞いてるだけで、頭に入ってない。演劇部におっても演劇人としては成長でけへん。おもんない芝居しかでけへんから、予選なんか閑古鳥や」
「そやけど、O高校のなんたら言う卒業生なんか『ほどほどのお家』に抜擢されて、金虎賞もろうてたやんか」
「そのO高校、去年は予選で敗退やで。知ってる? 顧問の中岡、定年で学校放り出されて、今はどっかの学校の講師やで。白木さんがプロになれたんは、あの人の素質や、関係あれへん」
「そやけど、中岡先生SNSで、平間オレサと意見交換して、えらい盛り上がってたて書き込んではったで」
「そんなもんハッタリや。力になる先生やったら定年やいうて、、学校がほっとくか?」
「それは、芝居に専念しよ思うて、自分から……もっぱらの噂やで。千里、ちょっとどこ行くんよ!?」
「言うたやろ、うちは演劇部辞めんねん。あの嘘つき佐伯の顔は見たいとも思わんさかい、里依紗から言うといて。ほんならな」
「ほんならて、今のクラブ、あたし一人でやってけ言うのん!?」
「やったらええやん。数は少ないけど、やる気は満々や。おためごかしの優秀賞もろうて有頂天になれてる勢いでやったらええやんか」
「なんやて!」
 里依紗の手がうちの肩にかかった。うちが、それを払いのけると、今度は里依紗の手が飛んできた……。

 この修羅場は二階から後輩らが観てた。あとで聞いたら「ごっつい感情の籠ったケンカのエチュードでした!」と有頂天の後輩らは思うたらしい。

 エチュード言うか、芝居と言えば、演劇部に入部して初めての大芝居やった。ただクラブを辞めるんやったら、黙って行かへんようにしたら済むこっちゃ。他の辞めていった部員と同じように。

 うちは、これを浜崎君に見せたかった。

 自分で言うのもなんやけど、浜崎君は先週うちにコクってくれた。浜崎君は、誰も知らんけど東都映画のニューフェイスで、将来を嘱望されてる。所属は東京のAプロ。むろん高校演劇なんちゅうもんには良くも悪くも興味ない。普通にリアクションしても意味が無い。浜崎君と仲良しになって同じダクショに入る。最初は通行人でもなんでもいい、とにかく本物の世界で鍛えなくちゃ、

 うちは、けして有頂天にはなれへん。人を有頂天にさせてのし上がっていく。二年間の演劇部のブランクを一年足らずで取り戻すんや。

「すごいよ、本当のケンカになるようなら止めに入ろうかと思ったよ」
 植え込みの向こうで見てた浜崎君が興奮気味に駆け寄りながら誉めてくれた。

 虚実皮膜。それを胸にケンカもするし、恋もする。うちの有頂天は、まだまだ先。

 たった今、幕が開いたとこやから……。



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