明神男坂のぼりたい
放課後、直ぐに帰れるのは嬉しい!
今までは部活で時間とられて、冬至前後の今日この頃、学校出るのは日が落ちてからだった。
それが、明るいうちに出られる!
なんという開放感!
混みまくりの昇降口も、登校時はあんなにウットウシイのに、帰りは嬉しい!
嬉しいついでに外堀通りも超えてしまって水道橋駅。
電車組の子は、ここから電車に乗る。
だから、その流れに乗って、そのまま電車に乗ってしまう。
これはスイカのせいだよ。
スイカがなければ、わざわざ切符を買わなきゃいけなくって、その時の気分は券売機で切符買ってまでではない。
もし、切符を買わなきゃならないんだったら、お財布を開けた時点で断念してる。
バイトもやってない女子高生のお財布は野口君が二人の他は、コインが入ってるだけ。
改札にスイカを掲げると残額は3600円。
こないだ石神井に行くときにチャージした残り。石神井に行くって言ったら、お父さん樋口一葉をくれたからね。
まあ、片道1800円のトリップはできるわけさ。
ラッキー!
乗った車両は急行仕立てで、二人がけの前向きシート。進行方向に向かって座ると、ちょっとした旅行気分。
もちろん御茶ノ水で降りるわけもなく、そのまま東へ電車は進む。
空で飛行機が止まってる……ように見える。動いてるものから、動いてるもの見ると止まってるように見える。物理で習ったナンチャラいう現象で、田舎の見通しのいい田んぼの中の交差点で交通事故が起こるのは、このせいらしい。しかし、ジェット機が空中で止まってるのは、なんともシュール。
アキバで、ドカドカと人が乗ってくる。
オケツの大きいオバチャンが「ごめん」も言わずに横に座ってきた。
ウットウシイ。
オバチャンの温もりを肌で感じる。まあ、オッサンが座るよりはいいけど……「ごめん」の一言があったら、お互い様と思えて、温もりも、こんなにキショイとは思わないんけどなあ。このオバチャンはきっと大阪出身にちがいない……とっさに感じたのは箱根から西に行ったのは修学旅行だけというわたしの偏見。大阪の人、ごめんなさい。
浅草橋で、また人が乗ってくる。乗車率120%くらい? ちょっと暑苦しい。
ガタンゴトン ガタンゴトン
電車は両国橋を渡る。
両国橋って、武蔵と下総を跨ってるから両国橋……シャクジイ(石神井のお祖父ちゃん)が言ってた。
なんか国境を超えた感じ。
国技館とかも見えてきて、ちょっとトリップからトラベルの気分。
トラベルはトラブルに通じる。
この先乗っていても、あまり目新しいものは無い。
それで、両国駅で下りて上りに乗り換え。
アキバでお散歩するにはお財布が寂しいのでお茶の水で下りて……家に帰るのも癪なので、反対方向の南へ。
そうだ、図書館があった!
区の図書館の分館で『神田まちかど図書館』があるのを思い出す。
子どものころ、お父さんと散歩というと、このコースだった。
見かけはでっかいビルディングなんで、初めての時はビックリしたけど千代田小学校・千代田幼稚園・教育研究所とかの複合施設の一階部分の、そのまた半分くらい。
一階の新刊書コーナー…………なんかないかなあ。
え、うそ、あった!
「まどか 乃木坂学院高校演劇部物語」
この本は、中味はいいらしいんだけど、表紙が今イチ。それにラノベとしては高すぎる1200円プラス税。一回ジュンク堂で見たけど、以上の二つの理由でやめた。他にも二冊借りよう思ったけど、読まずに返す確率高いから、これだけにしとく。
失いかけてた図書館ルートの散歩道が復活。
図書館を出て、道草もここまで。真っ直ぐ我が家を目指す。
湯島の聖堂の角を曲がって見てはいけない後姿を発見!
―― 関根先輩! ――
なんで関根先輩……それも、美保先輩と仲良しそうに。
気がついたら、制服のまま自分のベッドでひっくり返っていた。涙が一筋横に流れていく。
しょうもない道草になってしまった。
あれ?
明神さまに挨拶した記憶が無い。
明日、二日分しとこう……。
※ 主な登場人物
- 鈴木 明日香 明神男坂下に住む高校一年生
- 東風 爽子 明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
- 香里奈 部活の仲間
- お父さん
- お母さん
- 関根先輩 中学の先輩
- 美保先輩 田辺美保
- 馬場先輩 イケメンの美術部
- 佐渡くん 不登校ぎみの同級生