コッペリア・48
関西旅行の二日目は、もう一人の颯太のことは忘れて大阪の名所を回ってみることにした。
梅田はパスした。
大阪まで来て東京の繁華街と変わらないところに行っても仕方がない。
一見俗なようだが大阪城に行ってみた。
規模的には皇居と変わらないが、ここには深遠なよそよそしさが無い。
例えば半蔵門前や、皇居前広場でむやみに地図を広げてキョロキョロしていると、すぐにお巡りさんの職質をうける。むろん二重橋から中に入るなんて、正月や天皇誕生日を除いてはあり得ない。
その点、大坂城は、あくまでも市立の公園なので、どこへ行こうと自由である。セラさんなどは日本一の大手門に少したじろいだ。外人さんがいっぱいだったけど、東京の名所も似たようなものなので気にはならない。
「皇居だったら、絶対皇宮警察がいて、こんなとこ立ってたら職質ね……」
「それは覚えのある言い方だな」
「フフ、まだ男だったころにね、彼女が皇居見たいっていうもんだから。天然の女って怖いもの知らずだからね」
なんだか、皇居の二重橋を堂々と渡るようで妙な感覚で二の丸へ進み、西ノ丸公園で、ひたすらボンヤリした。
連休だけど大阪城はメジャーすぎて、かえって観光客は少ない。
「フウ兄ちゃん、なんか考えてる?」
栞が空を見たまま聞いてくる。
昨日の颯太なら、答えように窮したかもしれないが、子どものころからリラックスできた大阪城。
「なあんも……」
本気でそう応えた。
それから江戸城にもない巨石の石垣に驚きながら天守閣へ。
「鉄筋コンクリートの天守閣としては、これが日本で一番古い」
颯太の手馴れた案内。エレベーターで天守の最上階へ、
「程よく大阪の全貌が見える。ハルカスだと遠くまで見えすぎ。神戸や京都まで見えちゃって、大阪が実際より小さくつまらないものに見えてしまう」
「スカイツリーと同じだね。あそこも思いのほかお客さん集まらないんだってね」
「あそこは、料金も高さ以上だからね」
栞には颯太が、自分でも考えあぐねている問題と重ねて言っているような気がした。
昼はブッタマゲた。
タクシーで着いたのは、天神橋筋商店街。
「ここ、日本一長い商店街。ほら、北を見ても南を見ても、端っこが見えないだろう」
「なるほど……」
セラさんは、スマホを出して天六商店街について調べてみた。
「へー、2・6キロもあるんだ」
「ここ読んだ小説に出てくる『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』っていうの。二十メートルに二軒は飲食店が……あるよ!」
栞もスマホを出して喜んだ。
ほとんど無意識に入ったお好み焼き屋さんが、全国でもベストテンに入るお店だったので、続いてビックリ。
それから、日本で一番おいしいといううどん屋さんに入った。入ってから「日本一のうどん屋」で献策すると、大阪のうどん屋さんが五件もヒットしたのには笑ってしまった。
「これで、まだ半分なんだ」
そう気づいたのが天満宮への参道への横道だった。日本で一番気さくな天神さん。お守りを一つずつ買った。
三時には、道頓堀に。
人で一杯だったけど、颯太の説明では、ここはいつ来てもこんなものらしく、懐の深そうな……よく見ると通りのほとんどが多種多様な食べ物屋さん。
「引っかけ橋に行こう!」
セラさんの事前情報で戎橋へ。
「なんだ、みんな鵜の目鷹の目でナンパしてんのかと思った」
思いのほか(大阪としては)静かだった。
振り返るとゴール寸前のランナーのようなグリコの看板。
三人かわるがわるにグリコマンの真似して写真を撮る。
「すみませ~ん、シャッター押してもらえますか(^▽^)」
同じく三人連れの観光客にお願いし、最後に三人でグリコマン。
あたしと、フウ兄ちゃんのゴールはどこにあるんだろう……そう思う栞だった。