かの世界この世界:131
油で揚げる前の天ぷらという感じだ。
ストマックから吐き出された三人は胃粘液やら溶けた自分たちの服やら訳の分からない粘着質でベトベトになり、それが灌木やら下草に絡まって、起き上がることもままならなかった。
「なんだ、おまえたちはあああああ!」
頭上で声がした。なんとか首をもたげると、灌木の梢でポチが吠えている。
葉っぱの盾と小枝の剣を構えて威嚇している姿は、健気とも可愛いとも言えるが、我々三人に、そんな余裕は無い。まとわりついているネバネバが急速に固まりはじめて、このままでは身動きどころか呼吸さえできなくなってしまいそうなのだ。
「ポチ、わたしだ、タングリスだ。いまクリーチャーの胃の中から吐き出されてきたところだ」
首を巡らせてテルと姫を確認。二人は口にまとわりついたネバネバのせいで喋ることもできないようだ。
「ウィンドウを開くから、リペアアイテムの中から洗浄液を探してかけてくれないか」
「ほんとにタングリスなの?」
「タングリスだ、疑うんなら、とりあえず顔だけ洗浄して確かめればいいだろう」
「わ、分かった!」
盾と剣を放り出すと、ホバリングして、なんとか開いたウィンドウを操作し始める。
一抹の不安はあった。ポチ自身はウィンドウを持っていないし、ウィンドウを操作してファイルを開いたこともない。ただ、我々がやるのを傍で見ているのでやれるとふんだのだ。不安を口にすればポチは自信を失ってオタオタしてしまうだろう。じっさいポチは我々の危機的状況を感じ取ってワタワタと画面をスクロールしている。
「あった! でも、解凍してインストールしなきゃダメみたい」
「ああ、いつもわたしがやっているように……」
口に周りの粘液が固まりはじめた。
「解凍して……展開して……Updater……管理者権限で実行、エイ!」
まとわりついていたネバネバが粘土を失ってサラサラになって蒸発していく。思った以上にうまい操作だ。姫とテルもネバネバから解放されていく。
解放されると、最後に残った下着も心もとないので、ファイルから着替えを選択して身づくろいする。
「でかしたぞ、ポチ!」
「ふぎゅーー(;゚Д゚)」
感激した姫が抱きしめるので、ポチは危うく抱き殺されそうになる。
「ポチが窒息するぞ!」
テルが引き離して、やっと三人も落ち着いた。
「しかし、ポチはなんで呑み込まれなかったのだ?」
「呑み込まれたよ、でも、ノドチンコみたいなのに引っかかってさ。そのあと鼻の方によじ登ったら草叢みたいな鼻毛にひっかっかって、そいでジタバタしてたら、クリーチャーのやつがクシャミをして吹き出されたんだ」
「そうか、お蔭で助かったぞ。なにかご褒美を考えてやらなきゃな」
「ご褒美だなんて、そんなあ……(n*´ω`*n)」
「ご褒美は事が片付いてからでしょう、先を急ぎましょう」
「そうだな、さっきのクリーチャーには気を付けなければな」
「あいつに名前はないのか?」
テルが真っ当なことを聞く。
「ヘルムの固有種で未発見のものだからなあ」
「それなら、ストマックにしましょう」
「即物的だなあ」
「しかし、注意喚起にはいいと思いますよ」
「そうだ、たった今から、あいつはストマックだ!」
「それで……あいつは、どこに行ったんだ?」
「「「……」」」
そのストマックは我々を吐き出した後の行方がしれない……。
☆ ステータス
HP:11000 MP:120 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
持ち物:ポーション・180 マップ:10 金の針:50 福袋 所持金:350000ギル(リポ払い残高0ギル)
装備:剣士の装備レベル45(トールソード) 弓兵の装備レベル45(トールボウ)
技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
白魔法: ケイト(ケアルラ)
オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
タングリス トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
タングニョースト トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属
ロキ ヴァイゼンハオスの孤児
ポチ ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
―― この世界 ――
二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長