銀河太平記・017
扶桑人以外の火星人が見ても「これは橋だろう?」と言う。
なにがって言うと『皇居』だよ。
皇居前広場に車が入って二重橋が見えた時は、四人とも感動で「ふわああ」とか「おほおお」とかしか出てこない。
子どものころから写真で見る皇居と言えば、この二重橋だ。扶桑の千代田城も扶桑人にとっては神聖なものだけど、東京の皇居には及ばない。
日本は扶桑人のルーツであるし、日本の中心は皇居だ。教科書に載っている『日本』のとびら絵は二重橋だし、社会見学で行った千代田城にも歴代将軍と並んで二重橋の油絵が掛けてあった。
なんと言っても扶桑の元首は正式名称『征夷大将軍』の将軍で、五代前の扶桑宮さまに征夷大将軍の称号を与えたのが天皇陛下なのだ。今では独立国になったとは言え、扶桑人の皇室への畏敬の念はルーツの日本よりも大きいかもしれない。
千代田城に見学に行った時、アメリアとかフランクからの交換留学生は「これが地球の皇居だよ」と先生が油絵を示しても「え、橋じゃないか?」とオレに聞いてきた。
二重橋を見て皇居と感じる感性はいいもんだと思う。日本人や扶桑人はそういう感性なんだと思うと、ちょっと得意だったことを感動と共に思い出した。
で、二重橋に感動しすぎて、そこから後は、どんなふうに車が進んで、どこをどんなふうに歩いたかも忘れて、気が付いたら「ここでお待ちください」と侍従さんに言われ「聞かれたことにお返事する以外は喋っちゃだめだぞ」と元帥に注意され、四人ともカチコチだ。
「お出ましでございます」
控えの女官さんが告げて「軽く頭を下げるだけでいいからな」と元帥に倣う。
衣擦れの音がして、きれいな足が視界の先の方に現れる。
「畏まらずに頭を上げてください」
元帥を上品にしたような声がして顔を上げると、白いワンピースの陛下が目に入った。靖国神社での軍服姿も素敵だったけど、カジュアルなお姿もとってもいい。
ふわわ~
テルが素直な感動の声をあげてしまうと、陛下はソヨソヨと微笑まれた。
「今日はあぶないところを助けていただいてありがとうございました。みなさんにはお怪我はなかったと伺っていましたが、こうして御無事な様子を見ることができて安堵するとともに嬉しく思います」
「ご紹介いたします。こちらから扶桑第三高校の大石一(おおいしいち)君、緒方未来(おがたみく)さん、穴山彦(あなやまひこ)君、平賀照(ひらがてる)さんです。共に扶桑第三高校の二年生で、修学旅行の途中に靖国神社に寄ったところ、あの事態に遭遇いたしました」
「そうだったのですね、ほんとうにありがとうございました」
陛下が頭を下げられる、オタオタして最敬礼(;^_^A
ウイーンと小さな音がしたかと思うと、椅子が六脚せり出してきて、元帥に促され陛下が座られれてから着席。
そのあと、侍従さんと女官さんがお茶を運んできてくださった……ところまでは憶えているが、あとのことは……ちょっと整理するから待ってくれよな(^_^;)。
※ この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる