イスカ 真説邪気眼電波伝・20
『ドラゴンと空中戦』
教室は跡形もなかった。
ほんの今まで教室であったところは瓦礫の空洞になり、飛び込んできた窓側も廊下と教室の間の壁も廊下側も粉砕されて、ホコリがやコンクリートの微粒子が宙を舞って視界が効かない。
手のひらをマスクにしていると、わずかに光が見えて、飛び込んできたそいつが中庭で力を回復しつつあった。
そいつは、クジラほどの大きさのドラゴンだ!
「もう一度時間を停めるわよ!」
イスカが腕を振るうと、ピタリと時間が停まり、廊下で、え? あれ? なんだ? どうした? とパニクッテいたクラスメートたちが再びフリーズした。あいつらが教室に居たままだったら、みんな死んでいただろう。イスカがみんなを連れ出したわけが分かった。
「瞬間目をつぶって!」
「え、え、なに?」
「いいから!」
「はい!」
オレは従順な男だが反射が遅い。目をつぶる直前にイスカが素っ裸になったのが見えた。ゲームならラッキースケベなんだろうが、次の瞬間にはイスカの命令が神経に伝達されて目蓋が閉じた。
「わたしの腰に掴まって!」
「お、おー!」
イスカにくっついたまま空中に躍り出るが体には実感がない。この感覚はVRだ。VRは視覚と体の動きが一致しないことでVR酔いになる。
「うわあああああああ」
ゲロ吐きそうで目をつぶってしまう。
「情けない男ね! しっかり掴まっていなさい!」
わずかに残った感覚で、イスカとドラゴンが戦っていることだけは分かる。ちなみにイスカは黒いプラグスーツみたいなのになっている。ツルツル滑るので、オレはよりきつくしがみ付く。チラ見した景色は、学校の上空百メートルくらいで、イスカとドラゴンの空中戦が続いている。そう、空中戦なんだよ、空中戦やってる戦闘機の背中にへばりついてるようなもんだから、一瞬でも気を抜いたら地上に落とされる!
「くらえ! フォールンエンジェルブロウ!」
ギャオーン!
「フォールンエンジェルパーーンチ!」
ギャゴーン!
「フォールンエンジェルキーーーック!」
ギャボゴッ!
「フォールンエンジェルチョーーーップ!!」
グゲ!
イスカのアタックが確実にヒットするが、ドラゴンのHPはかなりのもののようで、悲鳴の割には衰えない。
「くそ、数で稼がなきゃならないか……」
「だ、大丈夫かイスカ?」
「しっかり掴まれえええええ!」
「う、うわあああああああ!」
まるで軌道から外れたジェットコースターだ! 胃の中のものが喉までせり上がってくるが、なんとか呑み込む。
「くそ、スタミナがもたない……」
ギャオーーーーーーーン!!
攻守所を変えて、ドラゴンが追いかけてくる! オレをしがみ付かせたまま空中を逃げ回るイスカ!
「セイ!」
イスカの一声で空間が歪んだまま停止した。
「こ、これは?」
「亜空間に退避した、少し息をつく」
イスカの荒い息と鼓動が伝わる、真剣なんだこいつは……。
「オレ、邪魔じゃないか?」
「バカ、言ったろ、勇馬はジェネレーターだ、勇馬がいなければこんなバトルできない……」
「そ、そうか……」
「亜空間には三十秒しか居られない……勇馬……」
「な、なに?」
なんだかイスカの顔が赤い。
「こ、こんなとこで告白とかすんなよ、吊り橋効果であらぬ返事を……イッテー!」
張り倒された。
「まわした手で我が胸を揉め!」
「え? え?」
「胸を揉めと言っている! エネルギーの急速チャージだ! いくいぞ!」
亜空間の壁が飛散して空中に放り出される、必死に掴まったオレはイスカの胸を揉む!
「いくいぞ! メテオインパクトオオオオオオオオオオオ!!!!!」
ズギューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!
次の瞬間、ドラゴンは霧状に分解して拡散していった……どうやら勝利したようだ……。
「勇馬……いつまで揉んでいる!」
また張り倒されて、オレは意識を失った。