イスカ 真説邪気眼電波伝・12
『屋上の天体観測』
イスカの西田さんが誤解を解いてくれた。
と言っても、堕天使の魔力で墜落寸前のジェット機をかわした……とは言っていない。
片棒担いだオレが、まだ半信半疑なんだから、生活指導の先生たちが信じるわけも無いし、言っていいことでもない。
「宵の明星が見たかったんです……」
優等生の西田さんが、保健室を抜け出してきてまで言うので先生たちは信じてくれた。
じっさい、この時期を逃してしまうと見られなくなることを専門的な知識で解説するので理科の先生でもある生指部長が感動した。
「それは感心だ。よし学校の天体望遠鏡を貸してやろう! 俺も立ち会いたいが、あいにく仕事でな。ぜひ週明けに観察レポートを出してくれ!」
ということで、再び屋上。かわりばんこに天体望遠鏡を覗いているオレと西田さんを見ながら階段室の壁に背中を預けて座っている。
えと……説明。
西田さんのスイカが二人にそっくりなアバターを出して天体観測をやらせ、オレタチは大事な話をしている。生活指導室の窓からは屋上がよく見えるからだ。
「堕天使が力を発揮するにはジェネレーターが必要なのよ。それで、わたしに適合するのは勇馬、あなただというわけなのよ。候補になった子は他にもいるけど、四年前の適合テストで勇馬が一番適していることが分かった……本来ならジェネレーターが、その器としての寿命を終えるのを待って下僕とするんだけど、ルシファーの侵略が始まった今は悠長なことを言っていられない、それで……」
「えと、話が見えないんだけど」
「呑み込みが悪いわね……悪魔には二系統があるの。わが父サタンの真悪魔の系統と、ルシファーの闇悪魔の系統がね。真悪魔は神のバランサーで、この世を維持しようとしている。ルシファーはそれを覆してこの世を闇にしてしまおうとしている。そのルシファーの侵攻が早くなってきたので、サタンの娘であるわたしが立ち上がらざるを得なくなったというわけなのよ」
「えと……そのルシファーってのは……」
「ほんと鈍いのね、さっきジェット機が墜ちそうになったでしょ。あれルシファーの企みなのよ。こないだ佐伯さんが思い詰めて飛び降りようとしたのもルシファーの影響があるからなのよ。他にも天変地異や事件のいくつかはルシファーの仕業よ。まだ始まったばかりだけど、これからは立て続けにおこるでしょう……むろん全部を解決するわけにはいかない。我が父サタンの力が満ちるまでは、わたしが踏ん張らなきゃいけないの。特に、この学校はサタンの聖地、なにがあっても破られるわけにはいかない。ジェネレーターであるあなたに選択権は無い。もう下僕の契りを結んだのだからね……」
「さっきのキスが……?」
「そうよ、拒否すれば勇馬の明日は無いわよ……ルシファーも勇馬がジェネレーターであることは気づいている……近ごろ身の回りで危険な目に遭ったり、おかしいと思うようなことは無い?」
オレは、ゆっくりとイスカを指さした。
「フ、そういう面白いところ好きよ。でも、他には?」
幻想神殿のあいつが思い浮かんだが、アレはなにかのバグだ。
「あ、そうだ。オレの成績を落としている先生たち!」
「それは自業自得というものでしょ。むろん学業不振で退学なんかされたら困るんだけど……って、その真顔は本当にヤバイの?」
「え、あ、ま、なんとかなるんだろうけど」
「なんで目が泳ぐの? マジ退学とかあり得ないんだけど……もう少しで期末テストよ」
「だ、大丈夫だって」
「その大丈夫は信じられない。よし、わたしが直に指導してやろう!」
「え、テスト一週間前から?」
「いや、明日……いや、たった今からだ。勇馬の家に行くぞ!」
「ちょ、ちょ……」
オレの下僕生活は試験勉強から始まった……マジ勘弁してよ!