大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・小説府立真田山学院高校演劇部・6〔どないしょ、記者会見や!!〕

2017-09-05 06:36:12 | 小説3
小説府立真田山学院高校演劇部・6
〔どないしょ、記者会見や!!〕



「制服きちんと着て、23日11時にミナミホテルに来なさい。記者会見やります」

 というメールが高橋さんから来た。
 プロのやる仕事は早い。しかし、昨日の今日とは思えへんかった。
 いつもルーズにしてるリボンもきちんと締めなおし。ローファーも磨いて、ニーハイも白のソックスに替えて折り返し、そのまんま制服見本になれそうな出で立ちで、言われた時間よりも30分早くミナミホテルにつく。

『ラプソディー真田山制作発表会』

 三間に一尺半の横断幕が眩しかった。会場は普段は結婚式なんかをやる会場で、なんとも言えん気品が漂ってた。
 演壇の上には、長いテーブルに白いテーブルクロス。その前には出席者の名前のフンドシみたいな紙がぶらさがってる。
 高橋の御大を筆頭に、劇団到来、NSK、浪速テレビ、そうそうたる面々の名前が書いたった。

『三好清海』……うそ!?

「ええ、では、ただいまより『ラプソディー真田山』の制作発表をさせていただきます。司会進行は、言いだしべえのわたくし高橋三郎が務めさせていただきます。我々は長年、この公演のアイデアを温め、本日天皇誕生日の良き日に発表にこぎつけられたことを、この上ない喜びとするものであります」
 長年……うそ、昨日決まったばっかりやのに!
「わが母校、真田山学院高校は、府立高校の中で唯一、校名に『学院』を冠する高校であります。話せば長くなりますが、私学として創立以来百年になんなんとする歴史と、三万を超える卒業生……その中には歴史の分だけ、卒業生在校生の人数の分だけの物語があります。もう、これは、大阪の近代史そのものであると申しても過言ではないと存じます。その大阪の来し方を顧み、先人の行い悲喜こもごもの物語を一つのピアノを通してドラマに仕上げ、全国の皆さんには大阪のたたずまい。大阪の人たちには、明日の大阪に想いをいたすよすがにしていただければと願います。まず、このピアノをご覧ください」

 会場の正面の扉が開けられ、あのスタインウェイのピアノがスポットライトに照らし出されて運び入れられた。

「生徒政策委員の三好清海さん。あのピアノで『新世界』を弾いてもらえますか」
「え……」
 あたしは、中学三年までピアノを習てた。その最後の発表会に弾いたのが『新世界』 
 そやけど、なんで知ってんねんやろ。それになによりも二年近くピアノには触ってない。言われてすぐに弾けるもんとちゃう。高橋のオッサンは記者さんらには見えへん方の目でウィンクした。下手でもかめへんいうサインやと思た。

 案の定、弾きはじめると、会場のあちこちから笑い声がもれた。

 あたしは、曲が体に染みついて、楽譜を見たら、意外に間違わんと弾けた。笑いの原因はピアノの狂いやった。まるでディキシーランドの曲みたいに外れた音がする。あたしも可笑しかったけど、譜面を追いかけるのに一生懸命で、笑うどころやなかった。

「このピアノは、すぐる大正11年、旧皇族で有られた李王殿下御夫妻がご来光の折に、地元有志の方々によって寄付されたものであります。その折に殿下御夫妻の前で弾かれた曲が、この『新世界』でありました。わたしたちは、数か月をかけて、このピアノを修復いたしながら、『ラプソディー真田山』を仕上げます。李王家の有り方や、今の日韓の間にある様々な問題はありますが、あのころの大阪の人たちには、当時の日本そのものが『新世界』でありました。その『新世界』は思ったようには発展せずに、戦中の苦難、戦後のひたむきな努力の末に、今の大阪があります。それを三つのドラマとし、それを横糸に。このピアノが縦糸となって、今の大阪を思うよすがにしようと思いました。ささやかではありますが、壊すばかりがまかり通る大阪を考え直してみたいと思います」

 笑いは、いつの間にか真剣な静寂になり、あたしの調子っぱずれな『新世界』が終わるころには満場の拍手になった。

 なんや、あたしらは、とんでもない強引なもんに巻き込まれそう。せやけど……面白そう。ノッテみよか! 


コメント
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