大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ映画評『エリジウム』

2013-09-21 07:43:41 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評
『エリジウム』


これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している評ですが、もったいないので転載したものです。


ブロムカンプ(第9地区)がまたもややってくれました。

 2154年ラグランジュポイントに直径60㎞/幅3㎞のスペースコロニー“エリジウム”が浮かんでいる。エリジウムとはギリシャ神話のエリシュオン(死後の世界、神々に愛された者だけが住む世界)のラテン読み。ここでは超富裕層のみが生活し、その数、わずかに8000人!
 前作「第9地区」は、南アフリカ映画として、いきなりアカデミーノミネート、「厚かましいくらいに社会的SF」と評された。前作は南アフリカのアパルトヘイトを、人間対宇宙人の構図に移し替えて描かれたが、エビ型宇宙人は労働力とはなりえておらず。本作の地球に住む人間とエリジウム住民の図式において前作で積み残した問題が浮かび上がってくる。
 地球においても社会の隅々までロボットが入り込んでいるので、エリジウムにおけるユニバーサルサービスも究極まで機械化されていると推察出来るが、金持ちばかりが生活しているこのコロニーに生産活動の臭いがしない。恐らく、生活物資は地球からのサポートに拠っているのだろう。
 この点“銃夢”のザレムとクズ鉄町との関係に似ている。“銃夢”はJ・キャメロンが映画化企画中だが、きっと今頃焦っているのではないだろうか。それほど本作の世界の構築と見せ方は見事の一言に尽きる。 本作の出来映えがキャメロンの企画にきっと良い影響を与えるものと思いたい。
 ブロムカンプの手腕の一つは、極力「ブルーバック」に役者を立たせず、セットの中で演じさせる事。CG合成されるロボットはモーションキャプチャーを用いて作られ、それだけリアルが担保されている。  メカとガジェットの表現力が天才的なのは前作で嫌というほど見せつけられたが、本作は更に何段階も上に到達している。こればかりは見て納得していただくしかない。無論、各所に矛盾は有るのだが、細部に神経の行き届いた作り込みが、その矛盾すら押し込んで忘れさせてくれる。
 
 SF小説は、現在の社会問題を未来(あるいは過去に)に移し替えて語る文学だが、それをヴィジュアル化する時には様々な問題があり、一定の方法論が確定していないので、過去多くの失敗作を生んできた。
 ブロムカンプの巨大な構築物を見せながら、細部のリアルに徹底的にこだわる映画作法は間違いなく、一つの模範解答である。
 エリジウムの天井が素通しに開いている設定も見事で、この設定だと、自由にコロニーに出入りできる。巨大コロニーならではの人工重力で大気は漏れない設定になっている。ラリー・ニーブンの“リングワールド”[地球の軌道上に、ぐるりと太陽から等距離のリングコロニーが築かれ、これも天井は素通しになっている。]を思い出した。
 ブロムカンプの見事さの更なる一点は暴力は只々 暴力に過ぎず、そこに説教臭い注釈が無い事。手段としてのヴァオレンスを際立たせる事でキャラクター達の目的と行動をクローズアップしていく。その際の武器のセレクトと威力設定にも妥協が無く、すなわち、嘘が無い。
 エリジウムへの侵入を目指すシャトルへの攻撃兵器が提示されない事と、有ったとしても、使用出来ない事情があるらしく、それに対する説明が漏れていて、この点不満が残るのだが、大して気にはならない(でもないが、これを受け入れないと後の話に入っていけなくなる)
 冒頭に現れる矛盾なので、ここを乗り切るか否かで本作の評価が変わるかもしれない。私は取り敢えずスルーして、後の世界構築の見事さと引き換えに無視しました。
 本作の幕切れにも賛否があると思います。主人公の選択が果たして地上の“デストピア”を解消する事に成るのか、という疑問で、これまでの数ある駄作に見られる失敗は「神の御心」に逃げ込むことです。本作でも主人公の少年時代に、シスターからメッセージを受け取るシーンが有って、神に導かれた自己犠牲とも読み取れますが、そんな個人の思い入れより、大きな問題が提示されるので、宗教色は隠れています。
 ブロムカンプは間違いなくクリスチャンでしょうから、「神の導き」が心の底にあるのは確実です。しかし、その事を必要以上強調せず、最低限に抑える作法で本作を よりグローバルな作品に押し上げているのです。
 いやいや、少々語り過ぎですねぇ。もうやめにします。予告を見る限りにおいては、「第9地区」と同じような映像に見えたのですが、百聞は一見にしかず、どうか この見事なSF世界を堪能して下さい。勿論、ブロムカンプの社会性も遺憾なく発揮されており、その点も堪能出来ます。殊に、地球上の管理ロボットの人間臭さ(???)は爆笑(?)物であります。持つと持たざるが人間性をどれだけ歪めるか……あます所無く描かれています。
 本作もやっぱり「厚かましいくらい社会的SF」なのであります。
 ご免なさい、もう一つ。人間が外宇宙にでたり、そこまで行かずとも火星や月に移住するのは、地球がこれ以上の人口を抱えきれないという問題から発していて、スペースコロニーもこの発想の一部です。しかし、宇宙空間に巨大構築物を浮かべたり、他の惑星を改造(テラフォーミング)する力が有るならば、砂漠の緑化や海中都市建造の方がより現実的です。この点、昔からSF世界でも両派入り乱れて大喧嘩中、見終わってそんな事を考えてみるのも面白いもんですよ。〓


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