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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想〔永遠の0〕

2017-01-13 06:52:39 | 映画評
タキさんの押しつけ読書感想
〔永遠の0〕



昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ

これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に流している読書感想ですが、もったいないので転載したものです。


 なんで今頃「永遠の0」なのかについては、本作の映画化作品についてのコメントや、同作者の「海賊と呼ばれた男」書評に書いたので割愛します。

 いやぁ、しみじみと 勝手な思い込みで本を嫌ってはいけませんねぇ。泣きながら読み終えました。百田作品は全部、こんな作風なのでしょうかねぇ……「海賊~」でも、随分泣かせてもらいましたけど……。
 まず、本作を読んだ上で 映画を振り返るに、いかに映画脚本が良く出来ていて、本作の感動を余さず伝えていた事に感銘を受けました。監督・脚本の山崎貴 刮目して見るべし……です。この脚本なら、原作者・百田尚樹が納得したのも理解できます。原作者が映画を見て号泣したのも宜なるかなです。
 さて、私が本作発刊当時に本書を手にしなかったのは作者・百田氏の過去のイメージもさる事ながら、結構 悪評が高かった為でもあります。一番多かったのは「どこかで一度読んだような事柄で繋いである」ってやつで、中には「剽窃」と断じる人もいました。
ここが私のいかん所で、過去にも 山崎豊子が剽窃家だとの風説に影響され、山崎作品を遠ざけるという愚を犯しています。今では山崎豊子に向けられた剽窃疑惑は、山崎に書かれては不利益を被る陣営が作り上げたデマだと解って、山崎作品は遅ればせながら殆ど読み終えました。
 本書に向けられた剽窃疑惑は、これは言い過ぎでしょう。但し「いつかどこかで読んだような~」という感覚については、まぁ 判らんでもありません。
 戦後、もう既に70年です。兵士として実際に戦った世代は殆ど亡くなっておられます。当時を知るには記録映像にあたるか、著作に触れるかしかありません。しかも、映像や写真には間違ったキャプションが付けられていたり、著作にも偏った思想で書かれた物が多数存在します。
 当時を正確に認識するのは日々 困難になっています。そんな現状下、信頼に足ると評価される資料は限られており、当時を描こうとする「戦争を知らない世代」は、皆さん同じ資料を手にせざる得ない訳です。
 主人公たる宮部久蔵と、生き残りの戦友達は これら資料の中に記された人々の移し絵です、描かれるシーンは実際にその人々が遭遇体験、あるいは目と心に焼き付いた日常です。内容が似てくるのは仕方ない事だと思います。
 確かに、先次大戦記録を読まれた向きには「耳にタコ、目にイカ(?)」な証言が大半を占めますから「これはナンジャイ?」と思われるかもしれません。しかし、これら戦時証言を組み合わせて「宮部久蔵」という人物を 血肉を持った存在として作り上げた作者の手腕は一流です。
 現在の十代には「大東亜戦争」をフィクションだと思っている人が本当に存在します。さすがに、大多数では無いでしょうが、私が知るだけで数人いますから、ひょっとしたらかなりの数存在するかも……大戦を知ってはいても詳しくは知らない層とあれば十代と言わず、上の世代にもかなり存在するでしょう。そんな人々が、小説を読む楽しみで本書を手にする事を考えれば、この作品の存在意義は途轍もなく大きいと思えます。
 我々の世代(現50代中~60代中)について言うなら、親から大本営や陸軍の悪口は散々聞いていますが、「海軍さんはスマートだった」なんぞと聞かされて育って来ました。戦艦大和の雄姿、真珠湾攻撃の成功(????) 名機0戦も海軍戦闘機、陸軍アホ/海軍格好ええ~と思ってきたもんです。しかし、その上層部の愚かさは五十歩百歩、海軍だって似たようなもんです。軍令部トップにいたっては、その馬鹿っぷりは見事の一言、前線指揮に当たった将官にしても、作戦に致命的失敗した者は乗艦沈没に際して真っ先に下艦、この人は生き残らねばと思える人程、艦と運命を共にしている。真に優秀で愛国心に溢れる人から死んで行く。これは日本に限らず、いずこの戦場でも証明されている事です。
 我々世代でも一読の意味はあると考えます。かの大戦で、いかに多くの代え難い日本人が散っていった事か……これは日本に住む現在の私達が決して忘れてはいけない事実です。その事を思い起こす起点になります。この事を抜きにしても、人間の生き方、尊厳を描いて秀逸な作品です。

 作者に成り代わりまして、是非ともとお薦めします。

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『岳飛伝・7』

2017-01-12 07:10:43 | 映画評
タキさんの押しつけ読書感想
『岳飛伝・7』北方健三



昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ

これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に流している読書感想ですが、もったいないので転載したものです。


 読み終えてビックリ! このシリーズで初めて戦闘の無い一冊でした。

 生きるための戦いはそこら中で繰り広げられていますが「戦争」が無いと言う事です。南宋を逃れた岳飛は、大理から南下、アンコール朝カンボジア北方(現ラオスかベトナム)に拠点を構え、少しずつ旧岳家軍の部下達が集まり始める。秦容がいるのはさらに西で、バガン朝(現ミャンマー……ちゅかあたしゃビルマと言いたい) 岳飛は大理から南下したのでええんですが、陰ながらにサポートしている梁山泊はメコン川をさかのぼる、現プノンペン辺りに町は無かったんですかねぇ。アンコールワット建設開始が1125年から、歴史上岳飛暗殺が1141年ですから……まぁ、インドシナの歴史は解らん事だらけですから ええとしますか。
 北に目を向けると、西遼に通商路線が完全に通り、ゴールやホラムズシャー(現アフガニスタン/イラン/イラク辺り)からの隊商もやって来る。そこより北の話はまだなく、モンゴル隆盛までまだ60年位の時間はある。金国境で小競り合いはあるようだがまだまだ金軍の方が圧倒的に強い。次巻辺りから海上の通商路を巡って南宋対梁山泊の戦いに入りそうです。
 南宋では韓世忠が精強な海軍を作っていますが、梁山泊の方が二歩も三歩も先にいます。南宋/秦檜は煮え湯を飲まされるんだと思います。そこで次に打つ手は金との同盟、梁山泊との陸戦か、南下して大越(ベトナム)との戦争か…そうなると岳飛の登場!となるが、あまりに史実から離れたストーリーにも出来ないだろうから、はてさて。

 大文豪のお手並み拝見。日本では東北の秀衡が本格的に船員の養成に乗り出しているが、頼朝の挙兵にはまだ40年程の時間がある、この先日本はどう絡んでくるのか(毎回おんなじ事を書いとりますなぁ)

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『はなとゆめ』

2017-01-11 05:48:24 | 映画評
タキさんの押しつけ読書感想
『はなとゆめ』



昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ


これは悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している読書感想ですが、もったいないので転載したものです。


と言うて白泉社の漫画雑誌ではありません。沖方丁の小説です。

 清少納言と その主人、藤原定子中宮の心の触れ合いを描いたお話しです。清少納言と言えば“枕草子”の作者、彼女がいかにしてこの“枕草子”を執筆に至ったのか……それを詳しく小説にしてあります。  前に告白したように、私、日本の古典は苦手であります。古語ですらヤバイのに ここに詩歌がからんでどこが“いとおかしいのか”なんざ サッパリです。ところが当代随一のストーリーテラー沖方丁にかかると解ったような気分になれることこそ“いと おかしけれ”ってなもんです。
 最近、「天地明察」以前の沖方原作アニメをWOWOWでやっとります。一発目はフランス革命前夜、そらサンジェルマン伯爵が出てきたり、ロベスピエールが魔術師まがいだったり……随分自由な発想なのですが、見る者を物語世界に引っ張り込んでいきます。
 本作も同じく、平安時代の宮廷物語、当時の文化の最先端にいた人々が何を面白いと感じたのか。正直、読み始めは戸惑いましたが、定子中宮に侍り始めた清少納言が徐々に慣れていったように、読者たる私も少しずつ慣れて行きました。と、言うよりは、日本人の文化が他人に対する思いやりの文化であってみれば、最低限その事に同意できれば この物語に入り込めるのは日本人であれば当たり前なのです。 清少納言が唯一の主人、最愛の主人と思い定めた中宮に捧げる想いが理解できるならば、それは間違いなく日本人である証拠であります。

 清少納言はこの時代の女性としては、有り得ないハッチャケタお姉さん風に描かれる事が多いのですが、例え“ハッチャケ姐御”に見えたにせよ、その内面には様々な想いがあったのだよ各々方というお話しであります
 えらく現世離れした王朝絵巻な小説ではありますが、通して感じるのは人に対する思いやり。清少納言の定子中宮に捧げる思いやりは全人生をかけたもの、これは今の日本人から消えかけている想いかもしれません。
しかし、この物語からそれが読み取れるならば、我々の深層に同じ想いが有るからだとおもいます。読まれた方は何を感じられるのでしょうか?

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『エンダーのゲーム』

2017-01-10 06:05:46 | 映画評
タキさんの押しつけ読書感想
『エンダーのゲーム』


昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ


これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している読書感想ですが、もったいないので転載したものです。


エンダーを読み終えた今、WOWOWで「バンビ」を見ています。70年前のアニメにここまで感動するなんて……思ってもいませんでした。
“エンダー~”は30年前、オースン・スコット・カードによって書かれたSFで、いまだに続編が続いています。これを原作にした映画(ヒューゴのエイザ・バターフィールド主演、小型のジェレミー・レナーに見えます)が全米公開中、日本では来年公開です。
 この話、日本のゲームや漫画(恐らく進撃の巨人を指しているんでしょう)に影響を及ぼしたとか言われとりますが、発表が70年代初頭ならいざ知らず、85年発表の本作に日本のSFが影響を受けたなど有り得ません。
 未来、地球は「バガー」という未知生命体から攻撃を受ける。第一次攻撃は偵察程度、後にやって来た第二次攻撃は本格的植民を狙っていた。ギリギリの土壇場で地球人類はバガーを撃退するが、来るべき第三次攻撃を邀撃出来るかは絶望的だった。
 人類は先制攻撃するべく次々宇宙戦艦を建造、順次発進させている。趙空間航法は未だに実現していない、初めの攻撃隊は70年前に発進している。
 バガー(“バグ=虫 蟻が進化した思えば良い……ハインラインの「スペース・トゥルーパー」モ虫形宇宙人が敵、発表はハインラインが先)はテレパシー能力があり、一個体の記憶も経験も瞬時に全個体に平均化される。テレパシー能力に距離の影響は無く、例え銀河の両端にいようとも瞬時に意志疎通できる。人類はバガーの研究から機械を使ってテレパシーと同様の通信が可能になっている。 地球艦隊はバガーの繁殖本星まで後5年の距離にまで到達しているが、戦闘の総指揮を取る指揮官がいなかった。10年以上前から養成されてはいるが、絶対間違いないと確信出来る人材は見つからない。5年前、エンダー・ウィッギンという“6歳の少年”に白羽の矢が立った。エンダーは天才であり、通常の6歳ではないが本質は子供である。そして、その子供を11歳になるまでに非情な艦隊指揮官に仕上げなければならない。
 ここからエンダーのあまりに過酷な演習がスタートする。物語はエンダーの養成学校入校からバガー母星破壊までを描く。
 バガーに勝つにはバガーの心理を理解しなければならず、その為にはバガーとの精神的同化が必要であると言うことと、指揮官はバガー母星宙域に居らずとも通信で指揮できるというのが重大設定。
 ここまで言うと、慣れたSF読者には本作のストーリーはバレルでしょう。物語の底に、異形に対する無理解、問答無用の排他性が流れています。
 人類が虫形宇宙人に出会って、まず理解しあおうという精神状態になるか? まぁ、あきまへんやろね。肌の色が違う、宗教が違うだけで殺し合うのですよ、我々は……バガー達にしてみれば、この宇宙に思考力を持つ生物は自分達だけだと考えていた。文明らしき物を持っている人類にせよ、テレパシーを持たない醜い生き物に過ぎなかった。
 エンダー・ウィッギンは艦隊指揮官であると共に、人類唯一のバガー理解者となり、それが彼を絶望の淵に追いやる事となる。
 さて、なんで冒頭に「バンビ」の話をしたのか?
 森で育ったバンビが母に初めて草原に連れられた時、そこは危険な場所だと教えられる。 そこには人間という秩序破壊者がいて、森のように身を隠すすべがないからです。バンビに人間の姿は登場しませんが、銃声が追ってくる、火の不始末で山火事になる。人間てのはろくな存在じゃない。70年前から人間の存在はそのように描かれて来ました。エンダーは その頭脳と進化から人類以上の存在になっている、宿敵バガーですら“種の存続”をエンダーに託す。コーマック・マッカーシーが人間の本質が“悪”だと告発するなら、SFは人類の種からも“善”の芽はでるのだと主張する。ただ、絶対的力を持ち得なければ、その善は無力だとも……その意味では本作の結末もコーマック・マッカーシーの結論も一致しているのかもしれません。
 子供が主人公ですから、ジュビナイル的な印象を受けますが、ネビュラ/ヒューゴ両賞をとった立派なハードSFです。人間がこの世界で最高位の捕食者(プレデター)であるのは、捕食する身体的実力を持つからではなく(実力からみれば人間は依然として獲物に過ぎない)歪んだ思考力と精神性によるのです。数あるプレデターの中で共食いするのはチンパンジーと人間だけなのですから。

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『村上海賊の娘』

2017-01-09 06:49:14 | 映画評
タキさんの押しつけ読書感想
『村上海賊の娘』



昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ

これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が、個人的に身内に流している読書感想ですが、もったいないので転載したものです。


「のぼうの城」作者、和田竜最新刊です。

 織田信長が大坂(石山とも……後の大坂城になる場所)本願寺に退去を求めていた天正四年(1576年)、信長は天王寺などに砦を築き上げ兵糧攻めの体制にあった。陸路の兵站は切られ、本願寺に籠もった2万人弱の門徒達は飢餓に瀕していた。海路参戦する門徒達の運び込んでくるわずかな米だけが彼らの命を繋いでいた。門主・顕如は、上杉謙信に援助を請うと共に、西国 毛利に十万石の米を請うた。
 この時代背景を舞台に、伊予から本願寺に向け 瀬戸内海を行く門徒百姓衆、瀬戸内を支配する村上海賊、信長についた泉州武士と淡輪の海賊眞壁一族達の攻防を描く。
 
 毎度ながら、この人の描く小説はビジュアライズを意識して描かれており、読んでいて映像がまざまざと浮かび上がる。
 村上水軍には三家あり、能島・因島・来島の内 最大勢力の能島村上の娘/景姫(キョウヒメ…キョウサンと呼ばれる女性に強い人が多いと思うのは私だけ?)が主人公であり彼女の成長を追うのがメインストーリー。
 これも毎度の事ながら、和田さんの本の登場人物は主人公以外にも実に魅力的なキャラクターが配されている。名前の出てくる人物は総て主役かと思わせられる。私なんかは眞壁海賊の七五三兵衛(シメノヒョウエ)にゾッコンであります。巨漢の怪物、柄は悪い、がさつながら、何ともいえぬユーモアを持ち、生き方に芯を持っている。
 女性は景姫以外にもう一人登場するだけで、後は全員男ばっかり、景姫にしても男顔負けの女海賊だから……本作に女はいない……っつな事には成らんのであります。景姫ほど女の中の女はいない。男の読者は絶対彼女に恋してしまう。
 戦国エンタメとして文句なしの一作。歴史書として、海賊活劇として、戦国を生き抜く人々の物語として、様々な角度から楽しめる。決して読者を飽きさせず、巻を開くや一気に読まずにはいられない。
 笑いもふんだんに盛り込まれ、殊に大阪人には爆笑間違いなし。泉州武者の一挙手一投足、一言一句……こら笑わずにはおれません。底抜けのアホ、小狡い裏切り者~いろいろ出て来ますが、みんな魅力的で憎めない。
 泉州弁が見事に文字化されていますが、この表記が正しいとすれば当時の泉州弁は今より和歌山の方言に近かったようです、泉州武士と言うよりは“和歌山のおいやん”が大挙出演しているように感じます。
 知り合いに岸和田のアンチャンか和歌山のおいやんがいたなら、彼らの叫び声は無茶苦茶リアルで、下手な漫才裸足ですゾ。
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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ書評“岳飛伝・六”

2017-01-08 06:16:18 | 映画評
タキさんの押しつけ書評
“岳飛伝・六”



昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ


これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に流している書評ですが、もったいないので転載したものです。

 はいはい、唐突にやってまいりました、岳飛の処刑であります。
 実史を、そう詳しく知っている訳じゃないんですが……確か「対金 主戦論」の岳飛が「対金講和論」の秦檜にとって邪魔だったので毒殺されたってのが史実だったと思います。
 本作ではちょいと事情が違っておりまして、秦檜はあくまで岳飛を南宋軍に取り込みたかったが、南宋を国とは認めず、軍閥の立場に固執する彼をやむなく処断する決意をする。
 処刑は斬首だが、梁山泊が一計を案じ岳飛救出を企てる。果たして岳飛は無事虎口を脱出できるのか? ぶっちゃけ、助からなければ岳飛伝一巻の終わりに成ってしまいますが……読んでいて、こっちの方がリアルなんじゃないの? と思わせられるのは作家の底力、さすがに北方謙三。ハードボイルドを書いていた時に、なんでこのストーリーテリングが出なかったんでしょうねぇ。“楊家抄”の前と以後では、まるっきり別人のようです。
 さて、歴史上 岳飛が死ぬのは1141年、モンゴル帝国の成立が1206年ですから、岳飛が生きて梁山泊に加わるにせよモンゴルと戦う訳ではない。さぁて物語は如何なる展開を迎えますのやら。
 金国内では簫珪材の息子ケン材が商人として梁山泊の自由市場に対抗しようとしている。金帝王ネメガ、宰相ダランには梁山泊を放置出来ないとする思いもある。南宋、金、梁山泊三つ巴の思惑の中に、いよいよモンゴルが顔を出し始める。日本では奥州藤原が瓊英に対して外洋船の調達を打診している。平氏滅亡は1185年だから、今すぐ義経=チンギス・ハン伝説に繋がる訳ではないが……北方謙三の目はどこまでを見つめているのだろうか。今しばらくは三つ巴の歴史が綴られるのだろうが、金軍総帥ウジュに従う 楊令の遺児/胡土児、南方に向かいチャンバーかアンコール朝カンボジアにいる秦容の運命は……。
 梁山泊に集った108人の英雄達もすでに9人にまで減った。宋江の志、楊令の夢は子・孫の世代に受け継がれ、更に先へと繋がって行くのだろうか。
 元帝国とさらに西方に広がった各ハンの国の間にはモンゴル・ネットワークが繋がった。これは梁山泊の目指した交易の路の完成形とも言える。梁山泊は今後百年以上に渡って存在を続け、モンゴル帝国に影響を与えるのだろうか。 そこまで来ると、「デューン」の生態系SFみたいに成ってきます。
 読みたいような、怖いような、北方御大! どこまで描くつもり?

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想“AKB48論”

2017-01-07 06:25:26 | 映画評
タキさんの押しつけ読書感想
小林よしのり“AKB48論”



昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ

これは悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している書評ですが、もったいないので転載したものです。


ゴーマニズム宣言SPECIAL最新刊です。

 ゴー宣といえば、ご存知の向きには説明不要……ながら、ちょいと説明すると、小林よしのりは私と同い年、誕生日も同じ8月で、ヨシリンの方が10日早い。20歳の時に「東大一直線」でデビュー、「おぼっちゃま君」も小林作。ギャグ漫画家が二本以上ヒットを出すのは極めて稀、赤塚不二夫くらいしか前例がない。
 ゴー宣を始めたのが92年だから、もう20年以上このシリーズを描いている。当初、左翼寄り論調で始まったが「差別論(95年)」から左翼イデオロギーから飛び出し始め、薬害エイズの運動ボランティアが既制左翼に取り込まれる事に警鐘を鳴らした、96年「脱正義論」から左翼と決別、98年「戦争論1」からは右翼視されている。
 小林よしのりその人は、保守的論者ではあるが、その立場はイデオロギーに捕らわれる事なく“太古からの日本人とは何者か”“そのからだにはいかなる血が流れているのか”にこだわり続け、今や右であろうが左であろうが納得いかない人間には容赦ない非難を浴びせる。一頃ほどの影響力は無くなったようだが、未だに政治/思想論壇からは恐れられる存在ではある。

 その小林が大真面目にAKB48を論じているのが本書。本人は「エエ歳したアイドルヲタ」と言ってはいるが(まぁ、確かに“ヲタ”ではあるが)立派に社会文明論になっている。 最近、敵が増えたので、“小林が描いている、主張している”ってだけで、端から聞く耳持たないっちゅう人が増えているが、そりゃあ狭量っちゅうもんでしょう。私も一頃ほど諸手を挙げて賛成と言いかねる論調もあるが、まずは全部読んでみる。
 ものの20年前、日本人の良識は朝日新聞(人民日報倭国版)論調とイコールだった。保守論壇など無視か蛇蝎のように嫌われた、そこに風穴を開けたのは小林よしのりである。
 ゴー宣初期には左翼だってお世話に成ったでしょ? 薬害エイズ闘争があれだけの規模の大衆運動たりえたのは誰のおかげ?
「護国論」やら「修身論」辺りから???と思う所が出だしている「天皇論」の1/3は賛同しかねる。しかし、小林の論調はほぼ首肯できる。今回の「AKB論」は珍しく、ほぼ100%同意する。“ほぼ”っていうのは、小林が本書中で指摘する“NMBの誰某”“HKTの誰某”ってのが解らんからです。この爺ヲタクが、ええ加減にしなさい(大爆)〓〓〓

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想・『祈りの幕の下りるとき他』

2017-01-06 06:33:23 | 映画評
タキさんの押しつけ読書感想
『祈りの幕の下りるとき他』


昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ


これは悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に流している書評ですが、もったいないので転載したものです


書評のメールが大幅に遅れまして……じつは、TVドラマ「半沢直樹」の前半が終わった所で、シリーズ第一作だけを読むつもりが、一気に第二作はおろか最新刊まで読んじゃいました。

 書評を書こうにもドラマはまだやってるし、ネタバレはいかんし……ちょうどええわと「楊令伝」を一から読み返してたら。東野圭吾が新刊だすわ、忘れていた「ハンガーゲーム」の第三部を見つけるわ……で、ズルズル来ちまいました。申し訳ございません。
 さて、TVドラマ「半沢直樹」は社会現象になっちまったようで、最終回視聴率42-45%(瞬間50%を遥かに超えたとか)、 これで一番泡を喰ったのが他ならぬTBSだってのが大笑い。こんなにメガヒットになるとは夢にも思わなかったから、堺雅人のスケジュールは押さえてないわ、シリーズ化するにも原作あと一本しかないわ。さらに10月からの新ドラマがキムタク/柴崎コウの鳴り物入り(本来こっちが本命)、コイツの数字が悪かったら今後のドラマ制作にどんな支障がでますやら。
 流行語大賞にしたところが「アベノミクス」なんざ早々に姿を消して、ライバル「ジェジェジェ」も一蹴、「倍返しだ!」が大本命。最近、実力もないのにやたら上司に噛みつく若いサラリーマンが増えたとか、中間管理職のおっちゃん達は戦々恐々としてるらしい(この腰の引け加減が笑わしてくれます。勘違いの若手を怒鳴りつけられないから事態が捻れる) こういう社員の増えているのが銀行じゃなくってテレビ、マスコミ関係だっていうからまたまた大爆笑。半沢のビデオがまだ出ていないので、今レンタル屋で人気なのが「クライマーズ・ハイ」 御巣鷹山日航機事故を取材した地方新聞社のお話、堺雅人が怒れる記者役で出演している。もう一つが、全く逆の発想から「南極料理人」が人気だそうです。原作も爆発的売れ行きで、作者の他作品も売れているとか……いやぁ、目出度い話であります。ドラマの後半も、途中経過が原作とは微妙に違っており、これがまた絶妙な効果を発揮しとります。
 
 もうバラしてもええと思うんですが、原作との最大の違いは半沢の父は自殺しておらず、剣道も登場しません。半沢の不倶戴天の敵は常務ではなく、花ちゃんもテレビほどには活躍しません。ひっくり返すと、この変更が実にテレビ的効果をあげているのです。
 さて、二階級特進以上の働きをした半沢次長ではありますが、頭取の深謀遠慮なのか、いくらなんでも制止を振り切ってやりすぎたのか、はたまた「斬れすぎる刀」として敬遠されたのか、結果は系列証券会社への出向に終わった訳であります。原作第三部において、またもやアリエネ~大暴れをやらかします。扱い金額も跳ね上がり、この分だと第四部では国家予算クラスになるんじゃ無いですかねぇ。となると、次なる相手は金融庁をぶっ飛ばして財務省やらユダヤ資本なんですかねぇ。まぁ、あんまり「ドラゴンボール化」(次々超絶能力の敵が現れる)せんように祈っています。とりあえず第三部(ゴメン、タイトル忘れました)はオススメです。まだ暫くは文庫にはならんかもしれませんが……。

 東野圭吾「祈りの幕が下りるとき」は、「新参者」でお馴染みの加賀恭一郎シリーズの最新刊です。相変わらずのストーリーテリングで、物語がどう転ぶやら全く解らないまま、ドンドン読者を引っ張って行きます。 今回、恭一郎が子供の頃に別れた母親が登場、しかも事件の最重要容疑者と絡んでしまう。証拠は総て断片的ながら、巧く読者をミスリードしていく臭線は残っている。私なんざものの見事に騙されて「これは朝鮮特務絡みか」と思っておりました。終わってみるとシリーズ中MOST切ない幕切れ、ただ、これはシリーズファンにして初めて味わえる切なさです。まぁ、シリーズの初めからとは言いませんが、せめて「新参者」「麒麟の翼」だけはお読みになった上で本書に取りかかられる事をオススメいたしますです。

「ハンガーゲーム第三部」は、昨年11月には発売になっていました。つい先日手にしたのですが、未だに第一刷、どんだけ刷ったか知りませんが全く売れていないんでしょうねぇ。アメリカじゃ社会現象になる程の売り上げで、映画第一作も大ヒット。それが日本では殆ど宣伝もされず、映画も原作も不人気のままです。原作第一作は、主人公カットニス(16歳の女の子、弓の名手)の目線だけで語られる見事な世界観で、アメリカのヤングアダルト向けに新しい作品の登場を思わせたのですが。第二作は単なるジュビナイルに堕しているし、重大な設定に破綻も来している。最終刊で何らかの説明があるかと思いきや、まんまスルーしてある。物語を語る視線も混乱している。第三部で、カットニス個人の目線のみで語られる手法は復活するものの、今度はカットニスが初めから終わりまで混乱したまま、世界構造がひっくり返る結末にカットニスの決断が影響を及ぼすのですが、重大決断を下す彼女の心はグチャグチャのまま、果てはカットニスの行動をみずから責任とる訳でもなく、真実が明かされる訳でもなく……単に少女が一か八かで行動を起こし、彼女とは関係ない所で幕切れになった。暫くトラウマは残るが、どうやら時間と共に癒やされたようだ…チャンチャン。
 アメリカで3部作総てが大ヒットならば、何がそんなに受けたのか、教えて欲しい。私にはさっぱり解らない。

 楊令伝を読み返していて、北方謙三にして未だに作家として成長しているんだなぁと感じた。現在進行中の「岳飛伝」では、歴史を語る目、登場人物の心理、戦闘の描き方が洗練され、まず殆ど混乱する事はないが、楊令伝では時々表現に混乱がある。ただ、童貫を破るまでのひりつくような緊張は岳飛伝にはない。
 とは言え、榛檜の登場、許定の暗躍、梁山泊の発展方向の芽等々、再確認出来て面白い。やっぱり、止められまへんなぁ。

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『忍びの国』

2017-01-05 07:02:21 | 映画評
タキさんの押しつけ読書感想
『忍びの国』


昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ


これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が身内に流している書評ですが、もったいないので、転載したものです。


「のぼうの城」作者/和田竜の忍者小説です。

 山田風太郎亡き後、このジャンルは久し振りです。作品そのものは5年程前の物ですが23年に文庫化(新潮)しています。
 一読、さすがに和田竜、一行目からありありと画が浮かび上がって来ます。物語は、織田信長の伊賀攻めの前に、伊勢の国を支配した信長次男/北畠信雄と伊賀との戦いがメインのお話。ストーリー展開は史実をベースに虚実取り混ぜて繰り広げられる。
 主人公は“無門”と名乗る伊賀一の術者……この人物は作者創作だと思うが、その他の登場人物は 皆実在した人々。とはいえ、作者の視線は歴史専門家と読者の中間に位置し、適度に史書を引用しながら語って行く。
「のぼうの城」もそうだったが、主人公/無門以外の人物像も鮮明に描かれていて、それぞれがなかなかに魅力的である。作中、名前の出て来る人物は皆丁寧に書き込まれている。
文吾(後の五右衛門)に思い入れる人もいるだろう、信雄の悲しみに共感する人もいるだろう、大膳の戦国武者の生き様を是とする人もいるだろう。
 すなわち、読み手によって本作の主人公は変わる。 本来、本作の主人公は、百地党一の術者“無門”に違いはないが、それ以外の登場人物が その位魅力的に書き込まれている。戦国戦略ミステリーとしても第一級作、余計な事は一切言わない。風太郎以後、読む本が無かったと嘆いている方々よ! 刮目しつつ本書を読みたまえ、内容絶対保証!
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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『湖底の城④・他』

2017-01-04 06:34:06 | 映画評
タキさんの押しつけ読書感想
『湖底の城④・他』


昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ

これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に流している読書感想ですが、もったいないので転載したものです。

『湖底の城④』

 こいつ、1年に1冊しかでないんで忘れてしまうんですよね。読んでいて10頁くらい進まないと 前作のラストを思い出しませんわ。

 北方の“史紀”なんかもそうですが……今の内はまだ読んでいる内におもいだせますが、段々ヤバくなりだしたら 始めっから読み返したりして……まぁ二度楽しめて、ええとしますか。 宮城谷昌光の中国古代史シリーズの一冊、呉越春秋時代……とは言え、呉王夫差はまだ少年、本書の主人公は伍子ショ(漢字が出ねぇ)です。有名な同時代人は孫武(兵法の孫子)。
 本作で呉の公子光が王僚を討って呉王と成り、いよいよ呉の黄金期が始まる。これに従って伍子ショも歴史の表舞台に登場してくる。 この辺りの話はブツ切りで通史としては知らないので、毎回「フ~~ン」と思いながら読んでいます。
 この辺りの話は、世界史の教科書じゃ面白くも何ともないので鄭門の“東周英雄伝”という漫画(大判2冊)がお薦め、春秋時代に現れては消えて行った英雄達のアンソロジーで、有名所はほぼカバーしているので、入り口としては最適。

 さて、本書も伍子ショの物語としては漸く入り口、この先、一体何年かかりますやら えらい先の話です。宮城谷さん ほかにも多数中国古代史シリーズを書いているので、その辺から読み出した方が宜しいかも。 三国志も5月頃に漸く終了、文庫はまだまだ出ない(現在9冊目)とは思いますが他に山程有りまっせ。
 宮城谷昌光の著書は、割と正確 且つ詳しく書かれているし、小説としても面白い。俄然 中国古代史に興味が湧きます。司馬遼を読んで日本近代史を知るのに似ています。その点、北方の中国古代史はまるっきり“演義”ですから、そのまんま飲み込めません(面白いですけどね) いずれにしても先の長い話であります。
 現在、テレビ放送中の“半沢直樹”の原作(俺達、バブル入行組)も併せてよんでますが、なんやらテレビドラマの方が面白いような気がする。この作者、“下町ロケット(WOWOW)”やら“七つの会議(? NHK)”にしてもテレビの方が面白いと聞いています。これって…どうなん?

 以下は、うかつにわたしが読んでしまった、京極夏彦の本の評であります。

『冥談』

京極に旨い(上手い)もん無し……これ、常識!

 一頃 ムッチャ流行ったのは意味不明。あの頃ですら「面白い」という人に逢った事がない。  
 事情通によると、メディアミックス初期の実験だったとの由。始まりは角川(春樹)の横溝正史、続いて大藪春彦ときて、江戸川乱歩で、その次が京極らホラー作家群になるんだとか。クソ子供騙しの裏に春樹有り。コイツだきゃあ殺した方が世のため人のため。 横溝は「犬神家の一族」以外 全く駄作の連続。大藪は「蘇る金狼」が秀作だったが、あれは徳間の製作。東映(岡田祐介のアホボンプロデュース)とタイアップの「野獣死すべし」は 当時の松田優作の勘違いもあって散々、「汚れた英雄」に至っては存在した事実すら消していただきたい。 森村誠一なんてなオモロイ事も何もない作家を持ち上げたのも角川春樹。 江戸川乱歩は当時 松竹のプロデューサーだった奥和良とのタイアップで、乱歩の大正ゴシックなんざどっかにぶっ飛んで、ただただ薄汚いホラーまがい。
 角川春樹については、半村良を地に落としてくれたし、「天と地と」「蒼き狼」の大失敗。近くは「笑う警官」のデタラメ! まだ金を持っているからかもしれないが、なんでこんな奴の存在が許されるのか。ヤクザはさっさとコイツを的にかけて鼻毛の一本まで抜いてやらんかい。ほんまに迷惑以外の何者でもない。
 はぁ~~ 久方振りにヒステリー爆発でした…… ご静聴感謝〓〓

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『海賊とよばれた男』

2017-01-03 06:14:14 | 映画評
タキさんの押しつけ読書感想
『海賊とよばれた男』
      

昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ

これは、悪友の映画評論家・滝川浩一が人の迷惑顧みず流している読書感想ですが、面白いので転載しました。

とうとう 手ェ出しちまいましたよ、百田尚樹。

 むか~し昔“プロポーズ大作戦”ってえ番組があったのさ。大体 大学生数人(5人位だっけ)が一人のかぐや姫(女子大生)をめぐって色々アピールし 誰が選ばれるかを競う。大概アイビースタイルにキメたアンチャン達なんだけど、たんまに小汚いのが登場する。
 ある日の番組に、薄汚れた学生ズボンによれよれのカッターシャツの高校生が出演、今で言えば さしずめ“オタク”こいつがテレビでは決して言ってはならない『こいつら狙ってるのはかぐや姫の○◇△だけですよ』なんてな言葉を叫びよる。こんな奴は永久出入り禁止……と思いきや『モテない君キャラ』でチョロチョロと何回も出てきよる。やがて番組終了、この元祖いじられキャラ高校生も姿を消した……と 思いきやある日(数年後)のバラエティー番組のディレクターの中に、いつか見た名前を発見した時には思いっきりずっこけた。その名を“百田尚樹”と言う。この名前で同姓同名はまずおらん。

 その後、百田ディレクターの名前はアチコチに登場、そして とうとう作家に成っちまった。

 第一作目からベストセラーなんだけど、どうしても昔日の小汚い高校生のイメージが抜けず、どうも手が出なかった。『永遠の0』が私の回りでは受けが悪かった事もあって尚更敬遠していた。さて、ここで漸く本書に辿り着く。
 本書は名にしおう“本屋大賞”です。まず ハズレの無い賞なんですが、たまに『謎解きは晩飯の後で』なんてなショ~モナイ本を推薦したりもする、ウ~ムゥ~。

 この小説の主人公は“国岡鐵造”と申します。しかして その本名は“出光佐三”……出光興産社主です。他の登場人物は殆ど実名ながら出光一族に関する人だけ名前を変えてある。

 大学生の頃かサラリーマンになった頃、出光一代記を読んだ事がある(ご本人はまだご存命だった)

 時代は左翼絶頂、何もかも相対化され 日本から実録物語が消え失せた頃…私だって薄甘いカタカナ“サヨク”朝日新聞(人民日報倭国版)の論調を無批判に信じていた頃だから こんな一代記を読んでも九割嘘だろうと……結果はどうあれ裏があるだろうと、全く素直には解釈できなかった。だから、左翼の大嘘、国家の欺瞞、アメリカの正体に気付いてはいても、一旦相対化されたものを白紙で受け入れるのは難しい。 まぁ、百田君のお手並み拝見と読み出すと…こりゃどうした事か、10頁も読んだ頃には感動に震えて涙が溢れそうになる。

 今や左翼のくびきからは完全に自由である。だからと言って立志伝物語になんの裏も無いと信じる程 ウブじゃない。それらを割り引き差し引いても、本書の主人公/国岡鐵造(出光佐三)が“国士”である事には間違いない。
 “国士”と読んだ途端、やれ右翼だとか何だとか、“国体”と書いただけで右翼言辞だと受け入れ拒否する輩とは話すだけ無駄、一切相手にする気はない。喧嘩する気なら いつでも相手するので、まず ことわってからかかってきなさい。左翼の阿呆にそんな度胸はおまへんやろ。
 本書を読んで 震えてくるのは 主人公の魂が“侍”だから、永らく我々日本人が追い求める理想の姿だからである。ああ、それすら解らない餓鬼ともやり合うつもりもないので宜しく。私にも この小説のエピソードが書かれてあるままで一切裏も取り引きも無いと考える程ナイーブではない。しかし、それ以上に産業界の弱腰、官僚の馬鹿さ加減、アメリカの横暴を思う時 民族資本出光興産がどれほど日本にとって得難い存在であったかを本書は教えてくれる。
 今の日本人の、何もかも自らの器の容量に合うように相対化せざるを得ない、そんな性に配慮して名前を変えた小説の形にしたのだろうと思う。
 私も含めて、今の日本人が失いかけているものが、この本には詰まっている。くしくも、主人公鐵造が終戦後、総てをなくして 0からの再起を誓うのが、私と同じく60歳である。自分自身、本書からどれだけ勇気をもらえたか計り知れない。
 百田尚樹恐るべし、そういえば『男子、三日会わざれば 刮目せよ』って言葉を思い出しました。

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『筒井康隆「聖痕」』

2017-01-02 06:54:55 | 映画評
タキさんの押しつけ読書感想
『筒井康隆「聖痕」』
       


昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ


 これは、悪友・滝川浩一が個人的に流している読書感想ですが、もったいないので転載したものです


巨匠の新作は“実験作”であると……まぁ、そうはおっしゃいますが 「虚人たち」 「虚空船団」以降、実験作でない作品があった?

 もう一丁 言ってしまえば、巨匠が自ら言うように「士農工商・犬・SF作家」としてスタートを切った時から、延々と実験作を紡いできたのではないだろうか。 個的、内面的世界をネチネチと スプーンと刷毛で掘り下げて行く私小説が純文学であってみれば(極めて乱暴な言いようである事は自覚しつつ書いています)そのような矮小な世界に決別した作家として存在してきた。
 作家が自己の内面に照らしてしか創作しえないのだとすれば、筒井というオッサンの内面はどうなっているのか。不気味な(?)底無し沼から 次に出てくるのは 一体どのような作品なのか……我々の学生時代は それをワクワクしながら待ち受ける時間の連続でした。いやあ、懐かしき「SFの集中と拡散」の時代……。

 と、まぁ おじんの繰り言は置いといて、本作「聖痕」であります。

 昭和という時代が幕を閉じる頃、5歳の葉月貴夫は暴漢に襲われ、男性器を切り取られる。このため、元々 天使かと見まがう美少年ではあったが、この少年が性的リピドーとは全く無縁に成長していく。その波乱万丈の生活を平成の時代、東北大震災までを描いて行く。“性的リピドー”を持たない人間がどう成長するのか、それは周囲にどのような波紋を広げるのか。これが実験の一つ。
 さらに、文章に古語や枕詞を多用、言葉を探し 選ぶ作業は巨匠にとっても刺激的であったらしく「ケケケ」と異声を放ちつつ執筆する姿が思い浮かぶ。  
 文章には鍵かっこを使わず、会話と情況描写が混然になっており、句読点はあるものの 可能な限り段落を変えず連続していく。
 この手法は随分以前に南米の作家(マルケス他)がよく使っており、巨匠はこの書き方がことのほかお気に入りのようで、時々お見かけする。
 性的リピドーを持たない人間が何に没入するのかというのも楽しみの一つ。
これには異論ありですが、ここで書いてしまうのはこれから読もうかって人の興味を削いでしまう。口にチャックであります。
 芸術、欲望、感覚の中で なにが一番「性欲」から遠いかという思考実験。う~~ん…そうなんですかねぇ。あなたはどう感じられるんでしょうねぇ。 巨匠曰わく「自分で面白がって書いて、読者を面白がらせて…それが理想」 私なんかは まるっきり術中にはまってますわ。

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『白洲正子「かくれ里」』

2017-01-01 06:55:39 | 映画評
タキさんの押しつけ読書感想
『白洲正子「かくれ里」』
       

昨年の春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ

 これは悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に流している読書感想ですが、もったいないので転載したものです


  正子さんシリーズ、とりあえず最終回です。本書も芸術新潮に2年に渡って連載された随筆です。
「かくれ里」とは、字面通り「世を避けて隠れ忍ぶ村里」の事、民族学的には「祭りに現れた神人が 祭りが終わり、いずこともなく去って行く山間の僻地」の事であるとされる。
 歴史上の人物が一身上の理由から隠れ住んだ場所が、民族学的「かくれ里」と共通する場合が多く、ここから伝承・伝説が生まれ、神話に成っていく可能性が数多く語られる……歴史伝奇の元ネタが明かされているようにも読めて、なかなかスリリングな読書体験でした。

 本書内に書かれている「かくれ里」は、ほぼ全て近畿周辺、現実 近畿に住む私にとっては馴染みの地名が次々現れる。 あるいは昔、町内の運動会(町内会で弁当を持ってあちこち行くのを「運動会」と言った)で訪れた寺、登山やキャンプでテントを張った山中。あるいは、サラリーマン時代 営業に回っていた会社のすぐそば……油日や吉野、京田辺など帰り道にぶらっとお参りした場所もある。
 文中にある写真に見覚えがあったりしたら大感動。それなりに当時 感じる物はあったものの、こんなに深い歴史があったとは……殊に近畿在住者には是非とも手にしていただきたい一冊です。
 タウンマップ片手に出かける奈良・京都の町から ほんの少し外れてみると、まさに神話に繋がる場所がある。そういう体験は「歴史を生きて感じる」事に繋がって行くと思います。文中、様々な人物の名前が出てきます。あまり覚えがない名前もあるでしょうが、小学校~高校の間に必ず何度か聞いた名前です。ちょっと調べれば「ふ~ん」くらいには思い出しますから……調べる気になったら、その人物に関わる前後にも目を向けて下さい。必ず一人か一つ、知っている事柄に出くわします。
 普段、なにげに見上げる山や ドライブしている道筋に思わぬ歴史が埋もれているかもしれませんぞ。

 明日は「真夏の方程式」に行ってきます。混雑が予想されるので今日チケットゲットしておきまた。 本は筒井巨匠の「聖痕」 なにやら巨匠は実験作だとおっしゃっています。どんなゲヘヘな話なのか、もしくはイッヒッヒなストーリーなのか……今から震えておりまする。

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『白洲正子「西行」』

2016-12-31 07:14:52 | 映画評
タキさんの押しつけ読書感想
『白洲正子「西行」』
       


この春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ



これは悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に流している読書感想ですが、もったいないので転載しました。


ねがはくは 花の下にて 春死なん そのきさらぎの 望月のころ

 まだ暫く正子ちゃん(白州正子)が続きそうです。正子ちゃんにしてみれば軽い読み物のおつもりでございましょうが、こちらにしてみれば毎回 我が古典教養の無さかげんを思い知らされるばかりです。

 よく大学の学部を「文学部」かと聞かれるのですが、「経営学部」です!

 何でかっちゅうと、当時は この古典ってのが限りなく「うっとおしかった」からです。バチ当たりでございました。ゴメンナサイ。
 さて、「西行」って人は数多くの伝説に包まれた謎の人であります。それだけに断片的にはその業績(?)を知ってはいても西行本人の人生は知られていないんだと思います。

 源平盛衰の時期の生き証人でもあり、後半生 旅の中にあった人ですから伝奇ミステリー作家にしてみれば格好の登場人物です。
「孔雀王伝奇」では、高野山修行中に死体をつなぎ合わせて反魂法を使って子供を作り、その子供が鬼のように育ち 義経と出会って弁慶に成る……なんてな扱い。雨月物語(だったよな)で崇徳院の大怨霊(日本一の大怨霊)と会ったりしていますから“反魂法”なんかお手のもの?
 数多の歌が残っており、中には作法無視して吐き出したようなものが有るため 西行研究者の間でも解釈が分かれる歌が有ります。この激動の時代、旅に明け暮れた人ですから、その行動に政治的意図を読み取ろうとする研究者もいらっしゃいます。確かに坊主というのは、ある種身分が保証されるため行動の自由が担保され、古今 縦横家として生きたり、間者的役割をはたした人が大勢います。
 しかし、西行に関して こういう見方は間違っていると正子さんはおっしゃっています。彼女は西行の足跡を時代を追って自ら歩き、彼の歌を 詠まれたその場所で味わってみる事を通して西行の人生に迫っていく。
 元北面の武士が出家したわけですが、一途な修行者ではなく“数奇”の心を生涯無くす事は無かった。 待賢門院(たいけんもんいん)への恋情、崇徳院への憐情、桜へのこだわり、すべて個人的な“あはれ”“いとをし”の情に突き動かされての旅であった事が その歌を通して明らかにされて行く。
 事あるごとに「仏門帰依」を勧めてはいますが仏教にとらわれるのではなく、その精神は自由です。
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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『おかしなジパング図版帖』

2016-12-30 06:35:46 | 映画評
タキさんの押しつけ読書感想
『おかしなジパング図版帖』


この春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ


 これは悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に流している読書感想ですが、もったいないので転載したものです


 好きなんですよねぇ……この類の本。

 本書は1669年、オランダ人モンタヌスが著した『日本誌』の挿し絵を中心に『ファンタジー アイランド ジパング』がどう描かれたのか……というビジュアル本です。
 とはいえ、モンタヌス自身は訪日した事が無く、フリシウスの『江戸参府日記』を基に、当時ヨーロッパで流行していた未知の地への旅行記を出版した。
 ヨーロッパ人の日本発見が1500年台 フロイスの『日本史』やリンスホーテン、カロンなど先行する出版は割と多いが モンタヌスの画期的な点は90以上の新しい挿し絵で紹介した事にある。
 ただ、前述のように彼自身は来日経験無し、報告書からの書き起こしで 文章そのものにも勘違い、誤り、中には「妄想」もある。 挿し絵職人はそれの又聞きで描く訳だから……こりゃあ一体どこの国? いや、そもそも地球上のどこかかい? ってな挿し絵のオンパレード。
 それでも、当時の知りうる限りの情報・資料を基に、最もリアルな日本を描こうとしたのであって まさに海の彼方にワンダーランド・ニッポンがあったのである。

 今の私たちからすれば極めてユーモラスな図版の連続、当時の日本人が目にしてもぶっ飛んだであろう事は間違いない。
 どのような絵なのか、とても口では説明出来ない。今なら平積みしている本屋もあるので立ち見をオススメいたします。
 マルコポーロ以来、東方に黄金の国・ジパングが有ると考えられたが、17世紀当時 ニッポンとジパングは分けて考えられたらしい。日本はすでに金輸出国では無くなっていて、ジパングを信じる人々は さらに東方に存在すると考えられたらしい。
 マルコポーロの『黄金の国・ジパング』は中国人からの聞き取りで、例えば奥州藤原と宋との貿易話が伝わったとも考えられる。中尊寺・金色堂やまだあたらしい金銅仏を見れば いかにも黄金の国に違いない。これが伝言ゲームに乗っかって、最後にマルコポーロが聞いたなら、さてもいかなる話になっていたやら……タイムマシンができたなら、是非とも一緒に聞いてみたい会話の一つです。
 時代はモンタヌスから200年以上、外国人には門戸を閉じたため、図版に現れる日本はシーボルトまで封印される。シーボルトの図版はリアルではあるが どこか陰鬱であり、ここに『幻のワンダーランド・ニッポン』は姿を消す。
 著者はこれを指して「日本は二度発見された」と書いています。これは政治、軍事、文化等 対ヨーロッパの歴史の中で必ず言われる表現で、何を取っても日本はワンダーランドだったのでしょうね。まぁ、未だに理解されない部分もありますから… さて、次はどこを発見してくれるんでしょうね。

 明日は、アクション映画二本、押し付けます。お楽しみに〓

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