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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

飛騨高山と《8月の歌》

2016-08-19 13:53:43 | よしなしごと
 岐阜県の高山市といえば、前世紀末に安房道路が開通し、信州と直接結ばれたこと、また、昨年は北陸新幹線の金沢までの開業で北方からのアクセスも良くなったことを受けて、いまや、山岳観光都市として賑わっているようだ。
 
 乗鞍をはじめ北アルプスに囲まれたロケーション、奥飛騨温泉郷をバックにもち、動く陽明門といわれる飛騨の匠の粋を集めた絢爛豪華な祭り屋台の存在など、観光資源にはこと欠かない。

           

 そんな有り様だから、他県の人から、「岐阜県の県都って高山ですか」っていわれて憤慨した岐阜市民の話を聞いたが、そんなもの怒ってもしょうがない。世の中、名を上げたほうか勝ちという仕組みになっている。

 その高山市だが、観光客が溢れる夏に、「全国短歌コンクール《8月の歌》」が行われる。
 この催し、高山市やその教育委員会と「朝日新聞」などが共催するもので、全国から集まる短歌から10首(一般の部5、中高生の部5)を選びそれを表彰するもので、8月の中頃にそれが高山市で行われる(選考結果はもっと前だが)。

 《8月の歌》と題するだけあって、どうしても原爆や敗戦を連想させる歌になる。
 昨年に引き続き入選を果たした中村桃子さんは名古屋の金城中学の3年生である。全国から集まる中高生の入選5首のなかに、連続して入るなんてすごいことだ。
 この人、この年齢にしては「子」の付く名前だというのはなんか安心できる(ってこれは本人ではなくご両親の問題か)。
 なお、桃子さん、毎週月曜日の「朝日歌壇」の常連入選者でもある。その《8月の歌》は以下のものである。

  広島の被爆樹木に会いに行く 声なき声に耳を澄ませて

 なお茨城県結城第二高校3年の郡司和斗さんはこんな歌で入選している。

  世が世なら有名画伯の画廊なり信州上田の無言館こそ

 この無言館というのは大河ドラマで脚光を浴びている信州上田の郊外にある戦没画学生の遺作を収めた美術館である。
 これが描き納めと遺言もどきを残して戦場へ駆りだされた若者、あるいは、帰ってきたらこの続きは描くからと筆を置いて戦場に発ったまま散った若者、その帰らなかった人たちの画業が、そしてその無念さが、残された私たちの哀れを誘う。
 確かに、郡司さんの歌うように、名画伯になり得た可能性も充分ある若者たちであった。この感想は、私がそこを訪れたときの感慨と一致する。

     
        表彰式の中村桃子さん            郡司和斗さん  

 なお、一般の部で筆頭に採られているのは、長野県井上孝行氏(71歳)の歌で、以下のようである。

  核のボタンそばにはべらせ鶴を折るオバマ氏想えば哀しきうつつ

 この皮肉な現実をそのまま歌ったものだが、私自身、オバマ氏の広島行きを、行かないよりいいだろうが、それが変な幻想を産むこともあるのではと幾分ためらいながら斜に見ていた。
 ただし、このオバマ氏が先日、「核先制攻撃をしない」とする考えを表明したのに対し、安倍首相は、それでは北朝鮮に対する牽制力が弱まると反対したと米紙が報じた。これが事実なら、被爆国の首相として由々しき事態だと思う。つい先ごろ、広島や長崎で述べた誓いはいったいなんだったのだろう。

 それはさておき、《8月の歌》の歌人たちが31文字に込める思いは、一般の部であれ、中高生の部であれ、それぞれが結構重いものを秘めながらも、私自身の実感にはとても爽やかに響くものがあったことをいい添えておこう。
 



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