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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

隣の造成工事 私が景観に保守的である理由

2016-11-05 02:10:57 | 想い出を掘り起こす
 私の周辺での居住環境がどんどん変りつつあることを何度も書いてきた。
 これまでは、それらは少し離れた場所での出来事だったが、今年のそれらは、私の家に隣接する箇所で展開されつつある。
 
 ひとつは、道路を挟んだ向かい側に田んぼ数枚を潰してのドラッグストアの開店がある。
 夜十時までの営業時間、それに伴う店舗や駐車場の灯りは、周辺の景観を一変させた。
 もちろん、便利になった側面もある。最近のドラッグストアは、青物野菜や鮮魚類以外の食料品はほとんど揃っているから、足りないものは、調理の途中でも火を止めて買いに走ることができる。

 もうひとつの変化が始まった。今度は道路を挟まない、まさに私の家の隣の土地においてである。ここは長い間休耕田になっていたが、そこが売れたようで、埋め立てて4軒の建売住宅が建つという。
 その向こうに残された田(ここは毎年、私が田植えや稲刈りのウオッチングをする田で、最近、このアングルからを見納めという画像を載せた)の稲刈りが終わって、さっそく造成が始まった。

           

 隣だから音や振動もすごい。そちらを向いて、トイレや風呂場、台所の窓があるが、それもいままでのように開放的にしておくことはできない。
 何しろ、工事は写真にあるように、台所に立つ私のわずか2~3メートルのところで行われているからだ。
 迷惑至極だが、向こうも仕事、それによろしくお願いしますという挨拶のタオルを一本もらってしまった以上、いまさら文句も言えない。

 現在は、私の家に隣接し、各住宅への行き来を可能にする道路が作られている。
 人々が居住する建物は、この道路を挟んで向こう側で、若干の距離が置かれるのは不幸中の幸いだが、当初は田んぼの中の一軒家でスタートしてのこの現状、これで完全に包囲されてしまったという閉塞感は免れがたい。

           

 都市郊外というロケーションで、いずれはこうなることがわかってはいたが、私の閉塞感はもっと長いものもある。それは、ものごころついてすぐ、戦争のために田舎に疎開し、そこで数年を過ごした折の、原風景のようなものがしみ付いているからかもしれない。
 
 そこは集落のハズレで、すぐ西には田畑が広がり、また大きな灌漑用の池があり、人々はそれを「玉池」と呼んでいたが、おそらく「溜池」がなまったものだろう。
 その池の向こうは、なだらかな山稜へと続く雑木から針葉樹林の広がり。その森林の奥は、子どもにはいくぶん恐怖を覚えるような暗さで、そこにまた小さな池があったりして、何やら幻想的でもあった。

           

 その池に何かがポッチャンと飛び込んだりすると、「古池や・・・」の風情というより、得体の知れないものの気配が感じられていっそう恐れおののいたものである。
 ここは、人々によって単純に「林」と呼ばれていて、それが一般名詞であるとともに固有名詞でもあった。「ちょっと林へ」というとそれがどこかはちゃんと通じた。

 敗戦直後、米軍が伊勢湾から上陸し、北上しつつある、男は殺され、女は犯され、財産は奪われるというデマが流れ、一部の人達が大八車に家財を積んで逃げ込んだのもこの林であった。
 思えばこのデマは、まさに日本軍が大陸などで行ってきた残虐行為の反映であったわけだ。

               

 話は横道にそれたが、山から滲み出た水が、川や溜池を通じて扇状地の田にくまなくそれを行きわたらせ、山林は、人々が入り会う一部の雑木林を残して、建材用の針葉樹に置き換えられる、それがいわゆる里山の自然であり、更に大きくは各々の平野の「自然」であった。
 私たちを包む自然は、こうして、自然そのものと人間の営為とが織りなしたひとつのハーモニーだったわけである。

 だから、田舎の自然の風景が、人懐っこく郷愁をそそるのは、それがもはやむき出しの猛々しい自然ではなく、人間との共労共存によるものだったからだといえる。
 都市にはもはやそれがない。自然を駆逐したテクネーの荒ぶる競い合いがこれでもかこれでもかと自己更新をしながら私たちの感受性を馴致しようとする。

 それを嘆くのはある種の偏執的なノスタルジーであることは重々わかっている。しかし、いまさら私の領域に暴力的に参入してきて、わがもの顔に私をねじ伏せようとする趨勢に屈服するのはあまりにも口惜しいではないか。
 
 だから、周辺の景観に関しては、私は保守派であり続ける。




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