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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

春はリムジンに乗って・・・・

2015-03-20 01:51:14 | よしなしごと
 おおよそ人の世に偏見や思い込みは付きものであるが、そのひとつに私が貧乏で慎ましやかな生活を送っているのではという巷の評価がある。
 もちろん、これにはそれなりの理由があって、私の謙虚な美徳からして、自分がどれほど裕福であるかを知らしめないようにしてきたことよる。実際のところ、私がかくも裕福であることが知れ渡ると、私の友人たちもつい一歩引いて、私に「様」などをつけて呼ぶようになるだろう。
 
 たしかに、周辺が私に対してへりくだった態度をとることについてはそれなりの快感を覚えはするが、同時に、それらが私というこの人格に対してではなく、私の支配する富に対するものであることに気づかないほど私は愚かではない。
 したがって、私はその富の威光を表立ってはそれとわからないようにしてきたのだが、時としてはそれらを隠すことなく、その実態に則した生活をしたい時もある。例えば今日のような日だ。

          

 いつもは路線バスや省線(JR)を乗り継いでゆく名古屋へ、今日は自家用車でゆくことにする。その旨、お抱え運転手にいうと喜んで飛んできて、「で、旦那様、ロールスロイスになさいますかそれともリムジンで?」と訊く。「そうだな、今日は久しぶりにリムジンにするか」というと、「え、本当にあれを転がしていいんですか」とガレージの方へ転ぶように駆けてゆく。

 私が見込んだ通りの車好きの好青年だ。ただし、メイドなどから聞く話では、私が貧乏人のまねをして、路線バスや省線を利用するのが気に入らないらしい。私がそれらで出かけたあとでは、それへの不満を募らせながら、ガレージの車数台をこれ以上ないくらいにピカピカに磨き上げるというから可愛いではないか。

 彼がエンジンを掛ける。「どうだね調子は」と私。
 「旦那様の前ですが、こいつは私の弟分のようなものですから、エンジンの最初の一音でこいつの調子が分かるんです。もし不機嫌な場合は、もう一度踏み込んでやります。チューニングですよ。オーケストラでいうとコンマスと楽団員のようなものです」

 彼の運転の腕は確かだ。早すぎず、遅すぎず、それでいて周りの車の流れを乱すことなく、吸い込まれるように目的地へ着く。
 まずは、名古屋の栄で要人たち三人に逢う。
 手土産の札束を渡す。
 「大丈夫ですよ。ちゃんとマネー・ロンダリングがしてありますからそのままお使い下さい」と私。

 会合を終えて名古屋駅前に出る。私が建てさせている複数の高層ビルは順調に工事が進んでいるようだ。表向きはリニアの開業に間に合わせるということだが、実際には知ったことではない。リニアがポシャっても私の才覚からしてこれらのビルの採算性はとっくに計算済みだ。

      

 駅西へリムジンを回させる。映画が見たくなったので、運転手にその間自由に車を転がしていいぞといったら喜んでいたが、「しかし、旦那様、これだけのものを転がすとずいぶんガソリン代が・・・」というので、「あのなぁ、お前」とジロリと睨んでやったら、「あ、すみません。出すぎたことで・・・」と謝った。
 もちろん本当に怒ったわけではない。ガソリン代まで心配するとはうい奴だと思っている。

          

 映画の後、すこし飲みたくなったので、運転手に電話して、○◯時に駅西につければいいからといって、なじみのバーに入る。
 「何かいい酒が入ったかい」とママに聞くと、「そういえば2007年もののロマネ・コンティ」が入りましたという。「えっ、あのニューヨークのオークションで高値を呼んだ07年ものかい。じゃぁ、抜栓してもらおうか」と頼む。
 「あ、そうそう、おみやげがあった」と要人たちに渡したあまりの札束を渡す。
 「あらあら、こんなものを。冷蔵庫へ入れようかしら」とママ。
 「フ~ン、金庫はいっぱいでもう入らないわけか」と私。

 しばらく飲んで運転手に電話したら、もうスタバっていますとの返事。車のところへ行くうちに夜空を見上げて気が変わった。名古屋のツインタワーのマリネットホテルが目についたからだ。
 「おい。もう今夜は岐阜に帰らず名古屋へ泊まろう。電話をしてみてくれ。スイートルームひとつと君用のシングルだ」
 「なに?スイートはとれたけどシングルはない?じゃぁ、ツインは?ツインはある。それなら君はそこへ泊まりなさい。ホテルの冷蔵庫のものはもちろん、ルームサービスでなんでも自由にとり給え」

          

 恐縮している運転手と別れて、ホテル・マリネットのスイートでこれを書いている。ナイトキャップにレミーマルタンのブラックパールとつまみに水牛のモッツァレラチーズに野菜をあしらったものを頼んだが、まだ来ない。
 金持ち喧嘩せずで気長に待つつもりだ。
 このスイートから眺める名古屋の夜景も捨てたものではない。

 
【この日の実際の行動】路線バス、JR、地下鉄を乗り継いで同人誌の会合に。昨日採ってちゃんと掃除をしたつくしを出席者にプレゼント。会議終了後、県の芸術文化センター12階のソファで時間調整の読書。その後名古屋駅へ。シネマスコーレで映画「唐山大地震」を観る。馴染みの「りりこ・マタハリ」へ。最後のつくしひと包みをプレゼント。白のワイングラス一杯と、韓国焼酎の水割りを2杯、コーヒーを飲んで、JR、路線バスで帰宅。リムジンはたまたま、駅西に停まっていたもの。
 


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6 コメント

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Unknown (花てぼ)
2015-03-20 20:40:14
あはは、「ダウントンアビ-」かと思いましたよ。
でも全然貧乏じゃ、こんな発想も浮かびません。

それにしても「つくし」を摘むなんて風流?ですね。
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百人一首第88番 (六文銭)
2015-03-20 21:33:47
なにはえの あしのかりねの ひとよゆゑ みをつくしてやこひわたるべき (皇嘉門院別当)
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春のパスタ (さんこ)
2015-03-21 08:35:27
お手間いりの土筆は、半分を春キャベツや、大葉と共に

パスタの具にして、いかにも春ですよ、という香りやほろ苦さを味わいました。美味しかったです。

後は、卵とじ。一人テレビ何ぞ見ながら、頂きました。

アメリカでは食べないから、土筆の群落があるらしいです。もったいないなあ。
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パスタ! (六文銭)
2015-03-21 11:29:26
 楽しんでいただけて良かったです。
 パスタは考えたことはありませんでした。今度、うちのお抱えのシェフに作らせてみましょう(まだその気になっている…笑)。
 雑誌の感想などボチボチ着き始めました。
 次回にできるだけまとめて持参するつもりです。
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夢でよいから (宿屋音喰)
2015-03-26 23:59:16
一度だけ、白いリムジンにホテルでお迎えを受けました。
優雅に一人ゆったりと座っておりましたが、それはほんのひと時、次から次へと各ホテルを周り、最後は定員オーバーかと思えるほどのすし詰めで、目的地に着きました。
六文銭様のように、早く、自前で、リムジンとドライバーを持ちたいものですが、それは少し無理なようなので、せめて、そんな素晴らしい夢だけでも見てみたい。
ぜひ、続編を!
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笑! (六文銭)
2015-03-27 00:21:48
 宿屋音喰さん ようこそ。
 「すし詰めのリムジン」というのは乗合バスを思わせるようで、ある種の言語矛盾的な面白さがありますね。

 お近づきのよしみで、機会がありましたら私の持ち船(ほんの20万トンほどの小舟ですが、ひとは豪華客船などというようです)で世界一周の旅にご招待しましょう。
 カピタンは、かつて、クイーン・エリザベス号を操っていた信頼できる男です。
 彼をスカウトした折には、イギリス政府から抗議を受けたほどです。
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